木こりの泉part2

Grisly

木こりの泉part2

「あなたが落としたのは、

 こちらの金の斧ですか。

 それとも、銀の斧ですか。」


泉から現れた美しい女神。




男は答える。


「私が落としたのは金の斧であります。」



当然の反応である。

皆生きるのに苦労している。

むしろ、こう答える者の方が

自然であり、大多数だろう。しかし…





女神は答えた。

凄まじい形相をしている。


「あなたは大変、

 まずい問題を起こしましたね。

 

 普通の嘘なら

 笑って済ませることも

 出来るかもしれません。


 しかし、私は神。

 あなたは神に対して嘘をついた。

 

 神に対する冒涜、

 ひいては侮辱に他なりません。

 決して許される物ではない。


 私だけではなく、他の神々からも、

 厳しい制裁が下るでしょう。


 あなたひとりではなく、

 家族、子孫に至るまで、

 末代まで災いが降りかかり…」





男。ひれ伏して必死にすがる。


「待ってくれ、ほんの出来心。

 誰もが一度はついたことのある、

 ちょっとした嘘じゃないか。


 家族もいる。子どもも生まれたばかりだ。


 どうか許して下さい。」





すると、女神の顔が少し緩んだ。


「良いでしょう。

 この事は、きれいに忘れてあげる。

 

 私とあなただけが知る秘密。

 公にはしません。


 


 その代わり、一生私の奴隷として

 働いて貰いますよ。


 断れば…」










泉の地下。


男はそこで寝る間もなく働かされている。

そこには、恐らく同じ秘密を抱えた

数千人の者達が…



彼らの稼ぎが

金の斧、銀の斧になっていくのだろう。


地上では正直者を支援する

素晴らしい女神と評判のはずだ。






人間、生きていれば

必ず綻びが出てくる物である。


そして、それによる繋がりは

決して断ち切れる物ではない。

その中で、生きていかざるを得ないのだ。


からくりが全て分かってしまった今、

男はもう2度と、ここを出る事はできない。





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