第15話 兄妹のスキンシップ
シルリアの紹介で参加した、侯爵家の騎士団の訓練だったけど……みんな優しい人ばかりで良かったよ。
最初は剣だけで戦うって言ったら少し見下した雰囲気だったけど、なんやかんや言いながら俺の技の修行に最後まで付き合ってくれたし……お陰で、ティルティの中にあった不安も大分和らいだみたいだ。
「兄さん、本当にすごかったです! 私も、兄さんに負けないように頑張りますね!」
「ああ、頑張れよ。ずっと応援してるからな」
「はい! えへへ」
侯爵家の廊下を歩きながら、ティルティの頭をそっと撫でる。
もうすぐ十歳になるっていうのに、未だにこうすると嬉しそうに笑うのは、可愛いんだけど将来がちょっと心配だ。
ゲームだと、ティルティってこの国の第一王子に横恋慕することになるんだよなぁ……撫でられただけでこの様子だと、あのナチュラルボーンの女たらし王子と出会ったら本当に恋してしまうかもしれない。
ティルティの魅力がヒロインに劣るなどとは微塵も思わないが、ヒロインとの対立構造なんて破滅フラグしかないものは何とか避けて貰いたいところ。
でもなぁ……破滅を避けるためだからって、ティルティの恋を邪魔するのもなんか違うし……うおお、悩ましい……!!
「兄さん、どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ」
ま、まあ、ティルティが恋を覚えるのはまだもう少し先の話だろうし、そうなる前にもっと良い出会いがあることを祈ろう。
そんな風に思ってると、ティルティの反対側から俺をからかうような声が聞こえてきた。
「ふふふ、本当に仲が良いんだね。少し羨ましいくらいだよ」
「ライク様も
「君ほどじゃないよ。それに、侯爵家の人間ともなれば、あまり大っぴらにスキンシップを取るわけにもいかないから」
高位貴族には高位貴族のマナーと節度っていうものがあると、ライクは語った。
だから、そういった縛りもなく自由に触れ合える俺達が羨ましいんだと。
「…………」
そんなライクの話を聞いて、ライクを挟んださらに隣を歩いていたシルリアがコツンとライクに体をぶつけていた。
「どうしたんだい、シルリア?」
「……むー」
思っていた反応が返って来なかったのか、シルリアは不満そうだ。
すると、今度はティルティがライクへ声をかける。
「シルリアは、ライク様に撫でて欲しいんだと思います! 撫でてあげてください!」
「えっ? いやしかし、さっきも言ったように周りの目が……」
「じゃあ、人目がなければいいんですね!」
そう言って、ティルティが突如魔法を使った。
光を飲み込む、闇の力。黒い靄のようなそれがライクとシルリアを包み込み、周囲から覆い隠す。
「さあ、これで心置き無く出来るはずです!」
「いや、急にこんなことされても、心の準備が……あ痛っ、ちょっと待てシルリア、分かった、分かったから……!」
外からだと何が起きているのか分からないけど、シルリアがライクをどついてスキンシップを急かしているのは何となく分かる。
「…………」
「…………」
そうして生まれる、無言の時間。
中で何が行われているのか、大体想像がつく……というか分かりきっているけど、わざわざ言及したりはしない。
そうしていると、やがてティルティの靄の中から、意気揚々とシルリアが飛び出してきた。
「シルリア、どうだった?」
「満足」
「ふふ、良かった」
女の子二人で手を合わせ、嬉しそうにきゃいきゃいとはしゃぐ。
そうこうしているうちに靄が晴れ……中から、何やら気恥ずかしそうに顔を赤くしたまま立ち尽くす、ライクが現れた。
「ライク様、どうでしたか?」
「……これを堂々とやれる君がいかに只者じゃないかってことがよく分かったよ。それと、君の妹にはよく言い聞かせておいてくれ、無断で魔法を使うところを見咎められたら、罪に問われることもあるから自重するように、と」
「分かりました」
そんな決まりあったのか……レンジャー領じゃ全くそんなことなかったから、知らなかった。
地方自治の意識が強い貴族社会は、こういうところが厄介だな。後でちゃんと言っておこう。
「でも、次からはそうならないように、ライク様もちゃんと定期的に妹に構ってあげてくださいね。じゃないと家臣達の前でやらされることになるかもしれませんよ」
実際、こいつの攻略ルートでは、そういうフラグが建ってたしな。
「やめてくれ……はあ、まあいい。シルリアのことは置いておいて、君には伝えておかなければならないことがあるんだ」
「はい、なんでしょう?」
気を取り直すように首を振って、ライクの目が真剣な眼差しに切り替わる。
真面目な話かと、俺も気を引き締めて……そんな俺に、ライクは言った。
「近々……遅くとも一ヶ月以内に、僕が主導になって
ダンジョン討滅作戦は、言葉通り魔獣達の巣であり発生源である門の中へと飛び込んで魔獣たちを殲滅し、その“入口”を塞ぐ作戦のことだ。
貴族の本懐であり、責務。これに参加し、成し遂げた経験があるか否かが、この国の貴族における成人の儀とも言われている。
ダンジョンにも潜ったことがないやつは、いつまで経っても半人前扱いってこと。逆に言えば……たとえ何歳だろうと、それを達成した者は一目置かれる存在になれる。
普通なら、二十歳前後……早くとも貴族学園を卒業する十八歳からしか向かうことのないそれに、十歳の子供が挑もうというのだ。
無謀極まりない……と周囲からは言われるだろうが、俺はその言葉に大きく頷く。
「分かりました。お任せ下さい」
賊との戦闘で、俺には実戦経験が足りなすぎることがよく分かったからな。それを埋める良いチャンスだ。
絶対にやり遂げてみせると、俺は腰の剣に手を添えながら覚悟を決めるのだった。
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