うちのアパートに住み始めた美少女神官は、今日もおおむね(巨乳)良好。

磯芽ずん

第1話 狩りのシーズン到来!

『もみじ狩り』


 手を触れることもなく、紅葉の美しさを目でたのしむだけの行為であっても『狩り』と呼ぶのであれば、これから行おうとしている事も、きっと『狩り』なのであろう。


 これから俺が行う事。

 それは、手を触れることもなく、お胸の美しさを目で愉しむだけの行為。

 そう『おっぱい狩り』だ。


 7月最後の日曜日、時刻21時32分。


 折り畳み傘を毎日カバンに忍ばせていた梅雨がようやく終わり、夏が近づくにつれ薄着になってゆく人々を眺めながら『狩り』のチャンスをうかがっていた俺であったが、ついにその機会が訪ようとしている。


 この夏最初のターゲット狩りの対象者、それは先ほどの停車駅でふらふらとした足取りで電車に乗り込み、俺の隣の席に座ったRPGロールプレイングゲームの神官のような法衣を着たコスプレ少女だ。


 車両に乗ってきてから席に座るまでの短い間にチラッと見ただけだが、彼女の着る青地に白のラインが入った法衣は夏服仕様なのか胸元が大きく開き、細身のボディーに搭載された18~20年物と思われる大型のお胸を強調するかのようなデザインになっていた。


 神職向けのなのに胸元が空いているとは、なんて不埒で、なんて素晴らしい法衣なのだろうか。

 コートやセーターなどの厚い衣服の上からでは決して味わえない、夏ならではの狩りが存分に愉しめる衣装コスチュームだ。


 そんなコスプレ少女だが、席に座った直後から目を閉じ重力に負けるようにゆっくりと体を前に傾けた後、何かに気づいたように目を開け元の体勢に戻るという動作を繰り返している。

 本日のイベント参加で疲れ果てているのか、今にも眠ってしまいそうな動きだ。この状態であれば、完全に眠るまでそんなに時間はかからないだろう。

 狩りへの期待が否が応でも高まっていく。


『もみじ狩り』と『おっぱい狩り』。

 どちらも『ターゲット紅葉やお胸に手を触れずに愉しむ狩り』ではあるが、この2つには大きな差がある。


『もみじ狩り』であれば、狩りの姿を第三者に目撃されてもあたたかく見守られ、場合によってはその第三者から『もみじ狩りですか?美しい紅葉ですよね』などと声をかけられて紅葉が織りなす素晴らしい景色について共感し、話が盛り上がることもあったりするが『おっぱい狩り』はまるで違う。


『おっぱい狩り』の姿を第三者に目撃された場合には『おっぱい狩りですか?美しいお胸ですよね』なんてあたたかな声をかけられることは無く、『最低』や『変態』等の人として軽蔑する言葉を投げかけられるくらいで済むのであれば、まだマシ。

 最悪のケースでは第三者に通報され、駆け付けて頂いた捜査当局の方々から『逮捕』、『確保』、『あなたには弁護士を呼ぶ権利がある』などの冷たく厳しい声をかけられた後、提供される食事が『くさい飯』と呼ばれる自由が著しく制限された施設での生活を長期間強要されることすらあり得るのだ。


『おっぱい狩り』をされている事に一番のは、もちろんターゲット本人。

 逆に言えば、ターゲットがこちらの動きを察知することができない眠った状態であれば、これ以上ない狩りの好機チャンス到来と言える。

『リスク回避のため、ターゲットにするのは眠っている人だけ』というマイルールをひたすら守り、機会を待ち続けた俺であったが、ついにその時が来たようだ。

 先程までゆっくりと体を揺らしていたターゲットの動きが止まり、今は『すぅすぅ』とかわいらしい寝息を立てている。


「狩ろう、本能のままに」


 俺は久しぶりの狩りに自分自身を奮い立たせるようにそうつぶやくと、さっそく狩りのフォーム姿勢へ移行する。


『おっぱい狩り』における狩りのフォームは、さほど難しいものではない。

 顔は下、首はターゲットの座る左方向に30度ほど向け、目は視線が悟られない薄目、そしてターゲットのお胸を全力で刮目する。これで完了だ。

 このフォームであればターゲットや周囲の乗客第三者からは眠っているようにしか見えず、まさか狩りを行っているとは誰も思わないだろう。

 狩りの基本フォームだが、最も狩りに没頭できる洗練されたスタイルだ。


(こ、これは……美しい……)


 狩りの開始早々、今、隣にあるお胸の大きさ、ハリ、輝き、そのすべての素晴らしさに絶句する。


 今の角度では残念ながらお胸上部の谷間は見ることができず、真横からの狩り結果のみでの判断になるが、友人達から『おっぱいマイスター』と呼ばれるほど、23年間の人生の多くの時間をお胸探求に費やしてきた俺であっても、これほどまでに素晴らしいお胸には出会ったことがない。


 このお胸の素晴らしさを料理に例えるとするならば『その味に魅了された客が、食後すぐに厨房に駆けつけ、シェフの手をとりながら涙して感動と感謝を伝えてしまうような至高の一品』といった所であろうか。

 そんな接したすべての人に感動を与え、その存在に『ビバ!おっぱい!』と感謝してしまうお胸だ。


 これまでの狩り結果から推定されるサイズは”G”カップ。俺はこの”G”をもっと愉しむべく、狩りにのめり込んでいった。


 ◇


 どれくらいの時間が過ぎ去っただろうか。

 目線をずらし腕時計を見ると、狩りを開始してから3分も経過していた。体感的には数秒であったが、それほどまでに没頭してしまったようだ。


(これ以上、狩り続けるのは危険だ。そろそろ撤収しよう)


 狩りの成果である『お胸よかった探し』の結果を心のノートに書き留めた俺は、フォームを解除し何もなかったように周囲を見渡す。

 隣で寝息を立てて眠るターゲットを含め、車内の光景には何も変化なく、また誰かに何かを気づかれたような形跡は全くない。


(無事、狩りから生還する事が出来たようだ。今晩はこの素晴らしい狩りの成果で……)


 狩りを終え、その成果の用途を考え始めたところでハプニングが発生する。

 ターゲットが眠ったまま、俺の肩にもたれ掛かってきたのだ。


(さっきまでの狩りの時に比べて、俺の肩に触れるほどに彼女の体が傾いた、って事は……。これは『追加クエスト』の発生だ!)


 そそくさと顔を下、そして首は30度左に向ける。

 追加クエストに対応すべく再び狩りのフォームに移行した俺は、薄目でターゲットを確認する。


(やはり、思った通りだ)


 彼女の体が傾いたことで、同じ狩りのフォームでも先程は見ることができなかった谷間の一部が目視可能になっている。

 ただ30度では角度不足で、谷間すべてを視界に納めることはできない。

 俺は狩りのフォームを維持しながら、さらに背筋をピンと伸ばす。

 視線の位置が高くなったことで谷間が見えるようになったが、やはり全体が見れるほどではない。


(くっ、秘技『背筋伸ばし』でもダメか……)


 根本的な問題である角度不足をどうにかしたい所だが、ただ首の角度を大きくしただけではターゲットや周囲の乗客から『お胸見てたよね』とバレてしまう可能性が高くなる。

 だが、このような素晴らしいお胸、そして素晴らしい谷間に巡り合えるチャンスはそうあるものではない。

 ここで『ちっ、あのブドウは酸っぱいに違いない』と諦めてしまったら、生涯とまでは言わないまでも、俺は相当に長い時間を悔やみ続けてしまうだろう。

 できるだけ後悔のない人生を歩みたいものだ。


(こうなったら、リスクは高くなるが『禁じ手』を使うしかない)


 背筋を伸ばしたまま前を向き、まずはターゲットのいない右側に首を振り、2秒ほどしたら、また前を向く。


 そう、この動きだ。

 周りからは肩こりの人が首を回すストレッチをしているように見える。

 電車内であまりにも数多く行うと不自然さが目立ち、やはり『お胸見るためにやってるよね』とマークされてしまうだろうが、2~3回で止めれるのであれば、これまでの実戦経験でも通報などはされたことがない。


 そして今、予備動作である『右側への首振り』は完了した。

 次はお待ちかね、お胸を見るための『左側への首振り』だ。

 背筋を伸ばした姿勢を維持し、顔が先程よりも高い位置にある分、より谷間が見える事だろう。

 ただ、そのまま長時間首を戻さないのも不自然と思われてしまう。2~3秒が勝負お胸を見る時間だ。


(行くぞ!)


 俺は左に首を向け、できる限りの視線をお胸に向ける。

 当然ながらストレッチとしても効果のあるこの動作、『コキッ』という骨の鳴る音に自分自身で驚きビクッとしながらも、2.99秒間お胸を愉しみ、顔を正面に戻す。


(なんと美しい谷間なのだろう……。そしてこのお胸は……”G65”ではないか!)


 谷間の美しさに感動しつつも、お胸全体を上部から俯瞰できたことで明らかとなった事実に驚愕する。

 先程までの『横からのお胸狩りの結果』と、今回の『上からのお胸狩りの結果』。この2つの結果を用いて脳内で作成したをマイスターの威信をかけ分析を行った結果、”G65”のお胸である事が判明したのだ。


 トップバスト90、アンダーバスト65の”G65Gカップ”。

 この”G65”というサイズは細身のボディーに巨大で美しいお胸が装着されているという証で、素晴らしいスタイルを持つ者のみに与えられたレアなサイズだ。


(まさか、これほどまでにレアなお胸だったとは……、もう一度レア度を踏まえ『お胸よかった探し』を充実させるために、もっと狩らないと!)


 眠り続けるターゲットはもちろん、周囲の乗客たちも手元のスマホを見ている人と眠っている人が大半を占め、俺の動きを怪しんでいる様子はない。

 身の安全の再確認を行った俺は、首を右に向け、2秒後に正面を向く。

 2回目の『禁じ手』予備動作完了だ。


(よし、次はいよいよお胸だ。また、あのお胸に会えるぞ!)


 期待を込め勢いよく左側に首を向けた瞬間、車内に音声アナウンスが流される。


『急停車します。ご注意ください』


 アナウンスと共に急停止で大きく揺れる車内。

 車内の揺れと首を向けた勢いで大きくバランスを崩し、左側に倒れ込む俺の体。

 目の前に迫る”G65”。


 俺はお胸に顔を突っ込んでしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る