第8話鍛錬を始めたいアサシン

「アルマさん! おはようございやす!」

「おはようございます! いやぁ、凄い決闘でしたね! 一撃必殺とはさすがはアサシン!」

「お兄さんスカッとしたわぁ! お礼にチューしたいくらい!」


翌日。

俺は、重苦しい気持ちでギルドに顔を出していた。朝から急いでイルムの見舞いに行ったのだが、父君の治める領地へ“療養”に帰ってしまったらしく、会えなかった。


「はは……どうも」


ディルハムとケティもついていったそうだ。仲良きことは麗しいこと……というが、療養の原因を作った俺としては心が痛い。


「やぁ、どうもどうも! おはようございますアルマさん! 快晴って感じです!」


「今日は曇りだぞ」


「澄み切った空気! すー……はぁー……!」


「山火事で空気が悪いぞ今日は」


「お給料日のような爽やかさ! んーリッチな気分!!」


「今日は人頭税を払う日だが?」


「あーもう、なんですかぁ! 喜びましょうよアルマさん!」


喜べないから気分が沈んでいるんだ。勝ってしまったどころか、プライドをへし折ってしまったんだぞ。いったい何を喜べと?


「わかりました、わかりました! じゃあ別に喜ばなくてもいいですぅー!………だからせめて、シャキッとしてください。皆心配しちゃいますから」


「………む」


……ずるい言い方をする。

皆が心配する、等と言われたら、

表面上だけでも取り繕う他ない。

ただでさえ決闘の最中に心配を掛けたからな……カイたちには。


「と・く・に!」


「な、なんだよシェリン」


「特にノエルさんには心配かけちゃだめですよ、アルマさん」


ノエル?

なぜここでノエルの名前が出てくるんだ。何の関係がある。


「んーまぁ……似た者同士のカン、といいますか何といいますか。

……私が外に出して言う方で、あの子は中で溜め込んで煮詰める方と言いますか」


ますますわからない。

煮詰める? 何を煮詰めるっていうんだ。ポーションか?

わかるように言ってくれ。


「……わかんないならそれで良いです、それで。……さーてお仕事お仕事!」


そう言って受け付けカウンター……いつもの定位置に戻ってしまう。

……なら、仕事をしてもらおうか。


「………シェリン、依頼を出したいんだが」


「依頼? あ、わかった。カイさんたちの訓練用ですね? さっすがアルマさん」


なにが流石だ、なにが。

カイたちの鍛錬……ホノの言葉を借りるなら師匠役か。

さっそく今日からその師匠役、務めさせてもらおう。

俺が駆け出しの頃に使っていた“トレーニングメニュー”を、カイたちにも使ってもらうつもりだ。


「第3階層の東-8の玄室ですか。えっと……《魔物図鑑Ⅱ》、《記憶の栞Ⅲ:第3階層東-8》っと」


シェリンの手元に、魔力で編まれた本が一冊現れる。ページはひとりでに捲られていき、やがて目当てのページが開かれる。


「〈群れなす呪い溝鼠〉ですね。これの討伐ですか?」


「そうだ。最後の一匹まで仕留めてもらう」


カイたちに討伐させるのは、〈群れなす呪い溝鼠〉というモンスターの群れだ。

見た目の気色悪さと不潔さから嫌悪されがちなモンスターだが、集団戦の基礎や状態異常を与えてくる敵への対処法を学べる良い教材だ。

ドロップアイテムも悪くない。


「最後の一匹までですか? さすがに危ないんじゃ……」


「そのために俺がいる。本当に危なくなったら助けるさ」


特に第3階層の東‐8に現れる〈群れなす呪い溝鼠〉は特殊な動きを見せる。

“ウェーブ”……と呼ばれる動きだ。

まずレベル1から10の個体が10匹現れる。それを倒すと、次はレベル10から20の個体が10匹。

最後にレベル30の大型が2匹出現する。

弱い個体から繰り出して、最後には強い個体が現れるわけだ。


「余力を残すための工夫や判断力も鍛えられる。うってつけだ」


「カイさんたちのレベルは……んー……ちょっとキツくはないですかね」


「カイたちのレベルなら問題はない。魔力管理を怠らなければ、補助スキルの重ね掛けで倒せる」


カイたちのレベルとスキルの内訳は、以下の通りだ。


カイ レベル22 剣士

《レギオン流Ⅱ》《風波刃Ⅱ》

《分刃魔剣Ⅱ》《多勢の士気Ⅳ》

《マジック・チャントⅡ》

《盾のオーラⅢ》


真面目なカイらしい、前衛のお手本のような構成だ。

多対一を得意とする流派、

《レギオン流》と、敵が多いほど能力が上昇する《多勢の士気》。

広範囲を一度に攻撃する《風波刃》と《分刃魔剣》も手堅い。


《マジック・チャント》によって武器に魔力を流せるのも評価したい。物理攻撃が効きにくい相手にも、ダメージを期待できる。


《盾のオーラ》でターゲッティングをしつつ、自身の防御力も底上げできる。前線に切り込みつつ、多勢を相手にできるのがカイの強みか。

実質的な前衛はカイ一人であるから、万能型に寄っている。


ホノ レベル17 盗賊

《大盗賊の七つ道具Ⅰ》

《瞬脚直線Ⅳ》《黒犬の鎌Ⅱ》

《早犬の瞬脚Ⅱ》《壁蹴りⅣ》

《盗賊のサンダルⅡ》


ピーキー……と言っては失礼だが尖ったスキル構成をしている。

レベルⅠとはいえ、レベル17で上位スキルがあるのは素晴らしい。

上位スキルの《大盗賊の七つ道具》で罠探知と宝箱の鑑定を行い、《盗賊のサンダルⅡ》で床トラップ探知と抜け目がない。


……だか後は加速スキルばかりだ。

《黒犬の鎌》は攻撃スキルではあるが、ダメージはおまけ程度。メインはやはり加速。

どちらかというと、パーティ戦で役に立つスキル構成というよりは、ソロで潜って宝箱やアイテムだけを持って帰るような。そんな構成だ。


《壁蹴りⅣ》は方向転換の為に習得したのだろう。

だが……レベルⅣまで鍛えなくとも良かったのでは……と思う。

この辺りはホノの趣味か主義だろう。


リリア レベル11 僧侶

《退魔聖域Ⅳ》《ルルドの湧水Ⅱ》

《深月の光Ⅲ》

《聖光の鎧Ⅲ》

《祈りの障壁Ⅳ》

《犠牲の山羊Ⅱ》


魔力切れを起こした理由がよくわかる。レベル11には不釣り合いな、高すぎるスキルレベル。

ここまでよく努力して鍛えたとは褒めたい。第10階層に跳ばされても助かったのは、このスキルレベルの高さも一因だ。


《退魔聖域》でモンスターを退け、補助スキルの《深月の光》や《犠牲の山羊》の効果で底上げしたのだろう。誰かを守ることに特化したスキル構成だ。


決闘の時に俺に使ったのは、《祈りの障壁》だと思われる。

魔力不適応者の相手にも仕える防御力上昇魔法スキル。

見えない盾としても使える。

別に俺に魔力不適応者はないが、こっちを選んで使ってくれたわけだ。


ノエル レベル14 魔道士

《大魔道士の指先Ⅱ》

《属性の魔術書Ⅲ》

《プレーン・ブラストⅢ》

《グラビティ・カフスⅡ》


レベル相応……かと思ったが、上位スキルを二つも持っている。

魔法効果を高める、増幅魔法スキルの《大魔道士の指先》と、魔法の属性を戦闘中にレベルと同回数だけ変更できる《属性の魔術書Ⅲ》。


攻撃には無属性広範囲攻撃魔法スキルの《プレーン・ブラスト》を習得している。調整すれば範囲を絞ることもできる。《グラビティ・カフス》はケティが使っていたものと同じ。パーティの魔法使いや魔道士は大抵このスキルを習得している。


前衛の攻撃役はカイで、後衛からの攻撃役はノエルだ。

兄妹で中々にバランスが取れている。


「こう見ると、結構アクの強いデコボコなパーティでよねカイさんたちって」


「個性が強いパーティと言ってくれ……」


「はいはい。育成方針はどうするんですか、アルマさん」


「ダンジョン踏破を目指すなら、やはり一にも二にも基礎と連携だ。誰かの失敗をすぐにカバーし立て直せるだけの連携力がいる。そして、基礎を怠らなければ大抵のことはなんとかなる」


「うーん、受け付けの私にはわからない世界だなぁ。……じゃあクエスト発行しちゃいますね。アルマさんのパーティ脱退手続きはこっちでしておきます」


「面倒をかける。

……現地集合と伝えておいてくれ。俺がパーティに入った状態だと、クエストを受けられないしな」


「あれっ? 待たないんですかカイさんたち………」


待たない、というより。


「玄室から迷いでたモンスターを片っ端から狩っておきたいんだ」


余計なモンスターに遭遇しないように片付けておく。

……カイたちの実力、見させてもらおう。

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