レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬

第1話口うるさいアサシン

ダンジョンの第6階層。レベル60を超える、高難易度モンスターたちが犇めく場所。

その一角にある玄室に、剣戟の音が響いていた。

無数の動く骸骨の兵士が、こちらに向かって殺到する。


「次から次へと湧いてきやがる! 範囲魔法、急げ!」


「まってくれイルム。魔法はやめておけ」


「あ? 何いってんだ! この数だぞ!!」


派手な装飾のロングソードを手にした顔立ちの良い剣士の青年、イルムを俺は制止した。

剣士としての実力は王国指折り。

間違いなく折り紙付きだが、パーティリーダーとしては少しばかり冷静さに欠ける。


「よく見るんだ。敵はただの〈骸骨兵士〉じゃない。眼窩に灯る魔力の色が違うだろう? 魔法を受けると強化される〈魔喰の骸骨兵士〉だ」


「おいイルムどうすんだよ!」


「どうすんのよ!」


「うるせぇ! 今考えてんだ!! くそっ、この数を一気に片付けるには……元はといえばケティ! てめぇのせいだろうが!!」


「なによ!? 悪いのは罠管理がができなかったディルハムでしょ!?」 


喧嘩が始まってしまった。

……イルムのプライドを傷つけたくはないが、悠長に待っていては俺たち全員が死にかねない。

心を鬼にして……出しゃばらせてもらう。


「……地道に仕留める他ない。ポップアップが止むまで切り続けるんだ」


駆け出しの頃から愛用してきた、二本の短剣を構え直して、俺はスキルを発動させた。


(〈頸はねⅣ〉、〈斬撃強化Ⅳ:連撃〉、〈致命の傷Ⅳ〉、〈死霊追葬Ⅳ〉……こんなものだな)


〈頸はねⅣ〉で即死攻撃状態を自分に付与する。とはいえ、手数が足りない。


「イルム、左翼は俺が引き受ける。後の指示はお前に任せたぞ。

………はぁっ!!」


その足りない手数を補うために使うのが、〈斬撃強化Ⅳ:連撃〉と〈致命の傷Ⅳ〉だ。

これで剣を一度振るうごとに斬撃を4回。

両手の短剣で併せて8回の斬撃が可能にる。


手数を増やした上で、さらに〈致命の傷Ⅳ〉でかすり傷を致命的な一撃に変える。

駄目押しに〈死霊追葬Ⅳ〉を発動して、アンデッド系統モンスターへの特攻状態を自身に付与した。


(……よし、いい感じだ。皆よく動けている)


協力し合って〈魔喰いの骸骨兵士〉の群れを切り続けること数分。

やがてポップアップが止まり、玄室内には平穏が戻る。

わずか数分で乗り切れたのだ。パーティメンバー各々が、よく成長しいる。


「いやぁー凌げたななんとか。へへっ、宝箱が大量だぜ!」


「待ってくれ、ディルハム。……開けないことを勧める」


「あぁ? なんでだよ? 萎えること言ってんじゃねぇよ!」


身軽な装備に身を包んだ盗賊のディルハム。人懐こい風貌ではあるが、少しばかり粗野な青年。同年代の盗賊たちの中では、技術だけを見れば頭一つ飛び抜けている。


(しかし欲に目が眩む癖がある……)


盗賊の心意気としては貪欲なくらいが丁度いいが、欲に目が眩んで盲目的になるのはいただけない。


「ディルハム。大量ポップアップをしたモンスターが落とす宝箱はほとんどが」


「罠箱だろ? 罠しかない中身は空っぽの。

別にわかってるっての! あのなぁ、俺だって鑑定スキルと罠の解除スキルは上がってんだよ! 黙ってみてろや!」


「……わかった」


いつでも動けるように、身構えておく。


「〈大盗賊の審美眼Ⅲ〉! おっ、コイツは金が入ってるな! 残念だったなアルマさんよぉ! 余計なお節介どうも!

……へへっ、罠は毒針か。こんなもんは……〈解錠強化Ⅳ:毒針〉! スキルで一発さ」


「…………」


宝箱が開いた瞬間に、俺は短剣を投げつけた。ディルハムが悲鳴を上げる。


「ひぃぃぃぃっ!?」


宝箱から飛び出したのは、毒針ではなく。ましてや金品ですらない。

召喚の罠によって呼び出された、小型モンスターだった。


「………前に教えたはずだぞ。この手の宝箱には、鑑定結果を混乱させる呪いが付与されていることが多いと」


モンスターに突き刺さった短剣を引き抜き、懐にしまう。


「………ちぃっ……!」


もう一度玄室内を見やる。

宝箱の他にも、細々としたドロップアイテムが豊富に落ちていた。

掻き集めて売れば、十分な稼ぎが期待できる。


「イルム、宝箱は開けずドロップアイテムだけ拾って帰ることを勧めたい」


「わかってる! ケティ、ディルハム! お前ら拾っとけ!……俺はアルマと話がある」


「……どうした、イルム?」


剣呑な雰囲気、とはこの事を言うのだろう。居心地の悪い空気が漂い始める。


「アルマ! お前は調子に乗りすぎだ!」


「勝手に指示をしたことは謝る。すまなかった。許して欲しい」


「そうやって頭下げりゃいいと思ってんだろ? いいか、このパーティのリーダーは俺だ。そして、宝箱の解錠・ダンジョントラップの管理は全部ディルハムに任せてる」


「そのことに異論はない」


イルムのプライドを酷く傷つけてしまったことは、心から謝ろう。

だが、それでも進言しないといけない時がある。


「だったら黙ってーーー」


「だがなイルム。ここはダンジョンの内部だ。モンスターが湧き、小さなミスで命を落としかねない死地なんだ。……パーティメンバーが。

そしてリーダーが危険な判断をしたなら、諌めるのがサブリーダーの役目だろう?」


俺、アルマ・アルザラットは、ダンジョン攻略パーティの一員である。

ジョブは暗殺者。少しばかり経験があるだけのロートルだ。


一員……とは言っても傭兵まがいに雇われているだけではあるが。

俺、個人はダンジョン攻略を諦めて後進の育成を行っている。


「……もういい! さっきだってお前が口出ししなけりゃなぁ……!!」


イルムが懐に手をいれる。

取り出されたのは、技術開発ギルドが売出中の特殊爆弾。


(スキル発動……〈錬金の本棚Ⅲ〉、〈豪商の貪眼Ⅱ〉……やはりか。爆薬の成分をよく確認しなかったなイルム)


なるほど、魔法の代わりにそれで吹き飛ばすつもりだったのか。

着眼点は悪くない。


「……イルム、爆薬の成分はちゃんと確認」


「いつも思ってたけどな、お前は口うるさいんだよ」


「そうだ! 俺もイルムに同感だぜ! アンタは口うるさいんだよアルマ!」


「そのことに関しては、申し訳ないと思っている。言葉足らずで傷つけてしまったこともーーー」


後ろからさらに声が続く。

その声に、言葉を遮られた。

少々幼さの残る、少女の高い声。

パーティの最高火力である魔法使いのケティだ。可愛らしい容姿から、ファンも多い。……それはいいのだが、高飛車がすぎるきらいがある。


「………ていうかさぁ、さっきも別に脱出魔法スキルで逃げられたのに」


「ケティ。責めるつもりはないが………キツイことを言わせてもらうよ。

先程の大量ポップアップは君が罠を作動させたのが原因だろう。

……第6階層ともなれば、脱出魔法スキルを無力化するダンジョントラップも多い」


「わ、わかってるわよそれくらい! だからスキルを重ね掛けして対処を」


「どの魔法スキルだ? 順番は?」


「えっ? そ、それは……えっと……ま、魔法職じゃないアンタになにがわかるのよ!!」


「あの状況でなら、〈魔力探知計Ⅲ〉で魔力の流れを読み、脱出スキルが使えるかを確認できる。

魔力が揺らいでいる場所を見つけたら、〈賢者の勅令Ⅲ〉で上書きし、その場所を起点に脱出スキルを発動できた。……どれも君が持つスキルでできることだ」


「なっ………うっ……ぐっ」


「君の……いや、皆の実力は認めている。でもな、どんなに実力があってもダンジョンでは一歩間違えれば死ぬ」


「…………っ!」


「加えて、魔法スキルは発動までのタイム・ラグがある。判断にまごついている、無防備な君を守りながらは難しい」


心苦しくはある。

だが、ダンジョン攻略は命の遣り取りだ。キツイことを言わなくてはいけない。


「難しいかどうか判断するのはリーダーの俺だ! ……もういいアルマ。お前はパーティから出ていけ! 目障りなんだよ!」


「そりゃいい!! ていうかそもそも、俺ら別にダンジョン踏破とか考えてねぇし? 日銭稼げりゃそれでいいんだ。お小言なんざいらねぇんだよ!」


「あーやだやだ、本気になって気色悪い!! ていうか、なんで人のスキル把握してんの? 気持ち悪いっ!!」


……本来、パーティリーダーが全員分のスキルを把握しなくてはいけないのだが、イルムに丸投げされたので把握しておいただけだ。気持ち悪いとは心外だ。


「皆、どうか落ち着いてくれ。不愉快にさせたのなら謝る。……悪かった」


「ふんっ、今さら遅ぇんだよ。お前は、今日を持ってパーティを追放とする!! リーダー命令だ!!」


リーダー命令、と言われてしまっては仕方がない。

ギルドの規則だ。リーダーはパーティの損失に対するすべての責任を負い、メンバーの追放と加入の全権を有する。

……残念でならない。

俺は、パーティを去らなくてはいけないのだ。


「……わかった。今まで共にダンジョンに潜れたこと、得難いひと時だった。……達者でな」



ダンジョンから出た俺は、ギルドへと向かっていた。

追放された以上、パーティの共有金庫は使えない。

使い道がなくて溜まり続けた、俺の取り分を移さなくてはいけない。


「あぁっ!? アルマさん!!」


「そんなに慌ててどうした、シェリン。大事な書類でも無くしたか」


慌てふためきながら俺に声を掛けてきたのは、ギルド受付け係のシェリンだった。

三つ編みにした長い紺髪。

顔立ちは可愛らしいが、素朴で親しみやすい。そんな可愛らしい顔とは不釣り合いに豊かな胸元が目を引く。歳は今年で19になる。

黙ってしゃんと背筋を伸ばしていればベテランの貫禄が出るのだが………


「ち、違いますよ! 今日はまだ何もやらかしてません! ってそんなことはどうでもいいんです!」


その実、超の付く不器用。

事務処理や依頼管理能力はずば抜けているが、その他がおざなりだ。


「なにがあった」


「なにがじゃないですよ! パーティを追放されたって……本当ですか………?」


「そのことか。あぁ、口うるさく言い過ぎてな。……皆を怒らせてしまった」


「そ、そんなぁ……! あの人たちが駆け出しの頃から面倒見てきたの、アルマさんじゃないですか!」


そのことを言われると、物悲しい気分になってしまう。

イルム、ディルハム、ケティには、彼らが駆け出しも駆け出し。

レベル1だった頃から雇われていた。共にいたのは……1年くらいになるか。

僅か1年で第6階層まで潜れるようになった彼らは、本当に優秀だと言える。

……許されなら、もう少しだけ成長を見守りたかった。


「気心知れた仲と思って、つい色々と口出しした俺が悪いのさ。……シェリン、すまないが共有金庫に入っている俺の金。個人金庫に移し替えてくれ」


「……わかりました。えーっと……えっ? あ、あれっ……!?」


「どうした」


「アルマさんのお金が全部ーーー」


シェリンが何かを言いかけたところで、聞き慣れた声が三つ。

背後からした。


「はっ、金を取りに来たのかアルマ」


「あれあれぇ? 誰かと思えばアルマさんじゃないですかぁ!」


「ふんっ!」


イルムたちだ。

ニヤニヤ笑いでこちらを見てくる。


「あ、あのイルムさん! 貴方、もしかして……!」


ーーーアルマさんのお金を、全部盗ったんですか。

そうシェリンが叫ぶ。

盗った、とはどういう意味だ?


「別に? 俺はただパーティメンバーの貯金を【臨時資金】として使っただけだが? なにせ6階層ともなるとポーション代やらバカにならないんでね」


なるほど、と理解する。

不愉快だとは思ったが、声を荒げるつもりはない。


「俺がまだ追放される前に、俺の金を動かした……ということかイルム」


パーティリーダーが持つ権限の中に、【臨時資金】の徴用がある。

……パーティメンバーの共有金庫にある他のメンバーの取り分を、事前同意があれば徴用できるというものだ。


「人聞きが悪いな。1年前、アンタを雇った時に確かに言われたぜ?

俺の取り分は好きに使っても良いってな」


……資金が足りなければいつでも使えと、確かに俺は言った。

だがまさか……ここまど良識のないことをされるとは思わなかった。


「で? シェリンさんよぉ! イルムになんか落ち度はあるか? パーティメンバーから追放される前に持ってったんだからさぁ」


「あっはは! 返さなくていいわよね? だって同意は得ていたんだしぃ?」


「だ、だからって……こ、こんな……」


「いや、いいんだシェリン。……欲しいのなら持っていけ、イルム、ディルハム、ケティ。俺は同意していた」


3人に向かって非難の目を向ける冒険者たちは幾らかいる。

だが、声を上げる者はいない。


「光栄に思えよアルマ。なにせお前は現王国最強のパーティに貢げたんだからな! ははははは!!」


ダンジョンの第6階層。

高難易度モンスターたちが犇めき、瞬く間に冒険者たちを屍塊へと変えるその場所に潜れるのは、現状イルムたちのパーティだけだ。


「こんな……こんな横暴………!」


「なんとでも言えよ、ははは!」


「なんだよ、シェリンちゃんさぁ。……いいのぉ? 俺ギルドマスターに言っちゃうよ?」


「王国最強のパーティ! ダンジョン踏破に最も近い……ううん、実質的な王国の救世主になりうる【勇者パーティ】は私達だけよ!」


3人が高笑いを上げながら出ていく。

……こうして俺は、たった数時間の間に無一文になってしまった。


(……仕方がない、ソロで潜るか)


ただ10分もあればまぁ……1年分の宿代くらいは稼げる。気乗りしないが、ダンジョンに潜り直すことにした。

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