Masaya Sanada

征也は唐突に振り返り、校舎に向かって話しかける。



「おーい、叶汰。聞いてたよな、今の。

ってことで、今回も僕の勝ち。」


「んなもん、もうどうだっていいわ。

またセコいやり方、使いやがって。

俺は認めてないからな!征也!!」


「へ…?烏丸くん…?え、勝ちって…?」



莉乃はそう呟き、呆然と立ち尽くしていた。


先刻まで寸分の狂いもなくラブロマンスの世界観だった情景は、征也の発言と叶汰の登場によっていとも簡単に破壊された。



「あ。ごめんね、りのちゃん。

僕と叶汰が君に近付いたのは、勝負のためだから。

ターゲットを先に惚れさせた方が勝ち。」



だから今のりのちゃんの告白のおかげで僕の勝ち、と、征也は満面の笑みで親指を立てて見せた。


どんな感情からか、莉乃の目から一滴の涙が零れる。


その涙を見て、彼は思い出したように言葉を続けた。



「ごめんね。1回も好きって言えなくて。

自分から言っちゃうと、反則で負けだからさ。

あ、でも可愛いって言ったのは嘘じゃないよ。

うん、君は、かわいい。かわいくはある。」


「嬉しくないし、そんなの謝ってほしい訳じゃない」



征也は、面倒くさそうに笑顔を作った。



「…あー、じゃあ、これちょっと、

自分で言うの毎回ハズいんだけど、」



そして、莉乃に向かって一旦頭を下げ、顔を上げると悪意のなさそうな表情をして莉乃の目を見つめた。



「ごめんね。僕のこと好きにさせちゃって。」



呆気に取られる莉乃をよそに、僕って罪な男だな、とため息をついて、彼は迎えの車の中へと消えた。

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