異世界に転生したが、私は主人公なんかじゃない

呂色黒羽

第1話

人生に二度目があるとして、それが必ず充実したものになるとは限らない。


二度目の人生で私は孤児だった。何の力も持たず、ただ死ぬのを待つだけの弱者。誰から名付けられたのかわからないヴァンを名乗り、無意味に生きていた。


ある日、私は前世の記憶を取り戻した。社会人として生き、何も残せず死んだ記憶を。

前世でも私は一人だった。両親は二人とも私が幼い頃に死に、親戚に預けられ金を取られ捨てられを繰り返し、なんとか社会人になれたが趣味もなく生きる意味が何もなかった人生。

私はもうあんな人生を歩みたくないと思い、努力した。体を鍛え技を身に付け、魔法と魔術を研究し力を蓄えた。

幸いな事に教会で拾ってもらえたおかげで、食うのに困ることはなかった。その上町の方々は優しく、食事の支援や教会の掃除、子供の世話までやってくれた。


「ヴァンお姉ちゃん、俺も冒険者になる!」

「ふふっ、そうか。だったら強くなって、私と一緒にこの町を守ろう。お前の魔法なら、冒険者くらい絶対なれる」

「うん!」


私のような人間に、憧れてくれる子供が居た。


「あらヴァンちゃん、今日もシスターさんのお手伝い? 偉いわねぇ」

「いえ、これくらいできないと恩返しなんて出来ませんから」

「本当に良い子だねぇ。ほら、これも持ってって!」

「いえ、流石にこんなに貰うわけには」

「いいのいいの。ヴァンちゃん達が笑顔で居てくれたら、私達も幸せだから」


なんでもない事を褒め、幸せを願ってくれる人がいた。


「ヴァンちゃん。おかりなさい」

「シスター。ただいま戻りました」

「いつもごめんないさいね。あなたに任せきりで」

「いえ、家族のためになるのなら、私も嬉しいですから」

「そうね。私達は家族よね。もっと私も家族のために頑張るわ!」


教会が、この町が、私の帰るべき場所だ。私の家族は、この町の人々だ。

この人達のために頑張ろう。この町を私が守ろう。そう思えた。

だが私は忘れていた。世界というのはあまりにも理不尽で、私の大切なものなど簡単に踏み躙っていくという事を。



10才の頃から私は冒険者として町を出て金を稼いでいた。

冒険者とは魔物を倒したり、依頼を受ける事で生計を立てるもの達のことだ。

どうやら私には才能があったらしく、魔物との戦闘も問題なくこなすことが出来た。ランクが瞬く間に上がり、最強と呼ばれるようになった。

稼いだ金を町に送り、少しでも恩返しができるように頑張った。少し危ない目に遭った事もあったが、それでも苦じゃなかった。

だが無駄だった。

私はあの日、あの夜、いつも通り町に戻った。


だがそこには、私の記憶にある街は跡形もなかった。

倒壊した建物。荒らされた畑。転がった肉の塊。

何も考えられなかった。

頭が追いつかず、混乱していたのを今でも覚えている。

嫌な予感がし、急いで教会に向かったが、既に手遅れだった。





咽び返る程に濃い血の匂い





掃除されいつも清潔だった壁は緋色に染まり





皆で作った花壇は踏み荒らされ





いつも笑顔だった子供達は虚な肉塊に変わっていた。





溢れる涙に、荒い息。

もう何も見たくないと天井を見上げれば





いつも優しく笑顔が絶えなかった親代わりのシスターが、様々な液体を滴らせ、絶望に歪んだ顔をして、冷めきった瞳で私を見下ろしていた。





世界は理不尽だ。

期待しても、裏切られるだけ。

救われることなんて絶対にない。与えたと思えば全てを奪い去り、不幸を嘲笑う。それが真実だ。

この世界にもし運命というものがあるのなら、あの子達の死はすでに決まっていたのだろうか?

あの夜は訪れべき運命だったとでも言うのか?




桜が散り、花弁が舞う。

それに見惚れる者、新しく始まる生活に期待をする者、不安を持つ者。様々な思いを持ちながらも、この学園に通えることを楽しみにしているようだ。

今日は魔術学園の入学式。浮かれる者が出るのも当然だろう。

逆に、私のような人間の方が珍しいのかもしれない。

未来に希望を持たぬ私が、彼らと同じように目を輝かせる事など不可能なのだ。


世界に期待などしても無駄だ。

学園もギルド長が行けと言うから来たものの、どうせつまらない結果にしかなりはしない。

人生なんて、クソ喰らえだ。

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