異世界へ出発

「ではまずあなたにこの世界について話しますね。この世界の名前はハーベンゲル、魔法が存在する世界です。

この世界では200年以上、とある魔王によって支配され続けています。あなたにはその魔王を討伐しもらいます。」


なるほど、

200年も世界の頂点に立ち続けるって事はそれだけの実力を持っているんだろうな、

これはなかなか厄介だが、俺はどんな手を使っても必ず魔王を討伐する、妹が俺の帰りを待っているからな。


「しかし、アナタがそのまま魔王に挑んでも睨まれただけで消し炭になってしまいます」

「・・・はい?」


睨んだだけで消し炭って、魔王どんだけバケモンなんだよ。


それじゃ、俺には勝ち目が無いじゃ無いか、

てか元々、俺自身喧嘩もロクにした事が無かったか。

そんな俺が魔王討伐・・・・無理だな、


いや、待てよ。

大体の転生ストーリならここであれが来るはずだ。


「なのでアナタには魔王と戦える様に特別に転生の特典をあげましょう。」

(来たぁぁ、転生特典!!)


―――――

異世界転生あるある


その2

転生者の特典

―――――


大体のラノベなどの転生者の特典はチート過ぎて話が面白く無くなってしまうので好きでは無いが、今は関係ない。

いや、この状況だ、むしろありがたい。


「あなたには三つの特典をあげます・・・と言いたいのですがあなたは今、肉体がありませんのでまずは肉体をさずけます。」


クソ神が立つ横の地面から虹色に光るマンホールの蓋が現れる。


「なんだ、マンホールのふた?」

「あれは魔法陣よ・・アンタ、バカね、」


空飛ぶLEDが皮肉混じりに教えてくれた。


俺が魔方陣か初めて見た。しかし魔方陣と言われても七色に光るマンホールの蓋にしか見えないんだが・・・


まじまじと魔法陣を見ているとそこから1人の人間が出てきた。


その人間の姿は俺だった。


神の言い方からして俺の体が出て来るのは予想で来ていたから驚きはしなかったが、こう他人目線で自分の体を見ると不思議な感覚になるもんだな。


「これは私が魔法で作った、アナタの肉体です。身長や容姿はもちろんホクロや傷まで全く一緒に作りました。

しかしあれですね、あなたの生殖器は大変可愛らしいのですね。」

「やかましい。」


余計な事を言わないで貰いたい、本当なら殴ってやりたいがここまで良くして貰っているのだし、もう殴る気は無かった。

それにクソ呼びもできないな。


「それではこの体に入って下さい。こう体と魂を合わせる様にして下さい。その際は体を動かさずに数秒じっとして下さい。そうすると自然と体と魂が馴染みます。」

「分かった。」


神の言う通りにした。

すると神の作った体が俺の意思で動き始める。

前と全く変わらない体だった。

昔に妹と小鳥を助けた際に付けた腕の傷もあった・・・てかなんでこんな傷まで知っているんだよ。

少し恐怖を感じた。


がしかしすごいな本当に。


そんな事を思い体を軽く動かす。その時少し自分の体に違和感を感じた。


「体が戻った所であなたに特典を授けます。まず一つ目に魔力を与えます。これが無いと私の世界では何もできませんのでね」


俺の体が少し光ると内部に暖かい何かが現れた気がする、その謎の何かが身体中に巡る。


「これが魔力か?体が暖かくなっただけで何も変わってない気がする。」

「まぁ、最初の方は魔力自体も少ないので何も感じ取れませんがレベルがアップするごとに魔力量も増えますので安心して下さい。」

「レベルアップなんてあるのかよ!ゲームみたいだな。」


―――――

異世界転生あるある


その3

レベルアップ機能ありがち

―――――


「ですが、しっかりと魔力は体に刻まれていますよ、その証拠に・・ほら」


神はそう言い指を指す、その方向は口うるさい空飛ぶLEDがいた場所だった。

神の指が示す先を見ると何かが飛んでることに気づいた。


大きさは20-30センチほどでサラサラなショートな金髪に可愛らしい顔立ちと白い服に白い肌。見た目は幼く、俺の妹をそのまま小さくした様な感じだった。


その姿を見て俺はこう思った。


「空飛ぶアニメフィギュア?」

「誰が空飛ぶアニメフィギュアじゃ。」

「そのツッコミは空飛ぶLEDか。お前、そんな可愛い見た目してたのか。」

「は?か・・・可愛いって急に何よ。」


俺は思った事を言っただけなのだが急に顔を赤らめ始めた、以外と可愛い所もあるのだな。


「てか、いい加減普通に呼びなさいよ。」

「おれ、お前の名前知らないんだが。」

「・・そうか、自己紹介が済んで無かったわね。私の名前はピナ。神様に使える妖精の1人よ。」

「なるほど、わかった。これからピナと呼ぶ俺のことは夏と呼んでくれ。」

「了解よ。」

「それにしてもなぜ急にピナが見えたんだ?」


疑問をピナに問いかけると隣にいた神が答え始めた。


「それについては私が教えます。妖精とは魔法で出来た存在なのです。その為、魔力が無い者には妖精はただの光物にしか見えません。しかしアナタは今、魔力を手にしました、なのでピナの姿も見えるようになったのです。」

「なるほど、理解できた。」

「よろしい、では続いて二つ目の特典を授けましょう・・と言いたいのですが二つ目はアナタの体にもう授けてます。」

「・・・?」


俺の頭に疑問符が浮かび上がる。


「そうです。二つ目の特典は身体強化です。」

「身体強化!、だからこんなに体が軽いのか!」


俺はこの体を貰った時に明らかに前よりも体が軽い事に違和感を覚えたいた、体が馴染んでいないから少し違和感を感じていると思っていたが・・・なるほど、理由が分かった。


「アナタの筋力は前の世界の5倍以上あります。それに伴い体力も上がっていますのでこちらの世界でも優雅に旅ができるでしょう。」

「それは助かるありがとう。」

「そして最後、三つ目の特典についてです。」


来た。三つ目の特典


ここまでは【魔力・筋力強化】と良い流れが来ているがこの二つに関しては俺の個人的な予想ではあるが他の転生者と共有の物だろう。

そうなるとこの三つ目の特典が本命、俺専用の恩恵だろう。


大体の場合はチートスキルやこの先を有利に進めて行く特技などがもらえるはずだ。

この能力次第で魔王の討伐の能否が決まると言っても過言ではないだろう。


「三つ目の特典は、ナビゲーター役としてピナを連れて行かせましょう。」


ピナ?

ピナ・・・ピナ・・・・ピナってこのさっきからうるさい空飛ぶアニメフィギュアの事か。


まじか・・・


「いらねぇぇぇぇぇ!!」

「うるさぁいぃぃぃ」

「ごぎゃばぁぁ」


ピナが俺の腹部に猛烈な勢いで体当たりした、その衝撃に「ごぎゃばぁぁ」と人が出してはいけない声を出したまま体が吹き飛んだ。


「痛ってぇぇ・・・って?痛くない」


衝撃は凄まじかったが体には一切、痛みが無かった。

これは身体強化のおかげだろうか。


「ナツ、失礼にも程があるわよ。私こう見えて、妖精界でも№1の実力を持つのよ。そんな私が付いて行ってあげるんだから感謝しなさい。」

「そうだな。確かにピナの突進は凄まじい威力だ。いざとなれば爆弾を持って、そのまま敵に特攻してもらおう。」

「敵の前に、アンタに特攻してやろうか?」


「アナタたち、仲良いですね、」

「「仲良くない」」


神の『仲が良い』問いに対してピナと意見が初めて合った。


「ナツさん、ピナは私の側近の中でも優秀な子です。必ずあなたの役に立ちますよ。」

「・・・わかったピナを預かります。ピナもいらないとか言って悪かったな。一緒に冒険してくれるか?」

「・・いいわよ、神様の命令だしね。」


頬を赤らめながらピナが返事をする、普段の男勝りな言動とのギャップで不意にも少し可愛いと思ってしまった。


「それでは、あとの事は旅の中でピナから教えてもらってください。」


神がそう言うと俺の足元に魔方陣が現れた。

旅立ちの時がやって来たのだろう。


「それでは二人とも健闘を祈ります」

「「はい・おう」」


ピナは『はい』と俺は『おう』と返事をした。


最初は殴ろうと無礼を働こうとした、俺にここまで良くしてくれたこの神・・・いや、神様には感謝しかないな。

お礼はしっかり伝えるべきだろうな。


「神様、ありがとうございます。」

「っふ・・ついに神様と呼んでくれましたね。」

「当り前だろ。ここまで良くしてくれて、尊敬しない訳にはいかないからな。」

「ふふっ、アナタって意外と良い子ですね。」

「・・・」


素直に褒められるとなんか歯がゆい気分になるな。


「ナツさん、出発の前に何か聞きたい事ありますか?」

「じゃあ、最後に一つだけ。なぜ俺の世界とこの世界を繋ぐゲートが開いてたんだ?たまたまって言ってたが。」

「・・・・あぁ、そのことですか。」


神が何か後ろめたそうにしていた。


何だろう、何か疾しい事でもあるのか?


「実はあのゲートはのです。」

「・・・はい?」


待てよ・・・この状況は良く転生ストーリで見る展開じゃないか?


「私の趣味がアイドルの応援でしてその日も爆撃ツインボムテール族と言うアイドルのライブに向かう際にうっかり、ゲートを閉めるのを忘れていました。」

「・・・」

「いやぁ・・・まさかあの一瞬でアナタの魂がこちらの世界に来るとは思いませんでした。」

「・・・じゃあ、アンタがゲートを閉めていたら。俺はこの世界には。」

「はい、来ませんでした。」


―――――

異世界転生あるある


その5

転生理由が神のミス

――――—


俺の内側から。怒りがあふれ出す。


「ふざけんなぁよぉぉぉ」

「あ、時間の様ですね、行ってらっしゃい。」


神の言葉と共に足元の魔方陣が消え穴が開く。

その空いた穴に俺の体は吸い込まれるように落ちた。


視界が暗闇に染まる。


「クソォォ、神がぁぁぁ、」


暗闇を落ち進む中で神への怒りをあらわにする。

今までの感謝の気持ちは全て吹き飛ぶ。

絶対に魔王を討伐して、あのクソ神も討伐してやる。


俺の心に【復讐】の二文字を刻み、最悪な異世界への旅立ちをしたのだった。


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