性格の悪いマーケター

伏見同然

午前十時の会議室

 重苦しい空気で満たされた午前十時の会議室。僕は徹夜で練った企画を提案していた。


「それ、ズレすぎでしょ」

口を開いたのは、やはりマーケティングリーダーの菊地だった。企画のターゲット層である、ドラマに夢中になるような四十代の主婦層には複雑すぎて理解できない。もっとわかりやすく、頭を使わなくても本能で反応するようなものにしなきゃだめ。というようなことを捲し立ててきた。「アホを動かすには、頭使わなきゃなんだよ。クリエイターって名刺に書いてあるんでしょ、君」と言っておどけた菊地に続いて、乾いた笑いが会議室に響いた。


 僕は、湧き上がる怒りを、菊地の性格の悪さを分析することで鎮めようとした。何故こいつはこんなに性格が悪いのか。前から思っていたが、マーケターは人を括って見るところが良くないのではないか。「独身男性」とか「三十代女性」とか、多くの人を大雑把にカテゴリー化してしまう。目の前のひとりとして人間を認識できなくなる。菊地は僕のことを「勉強不足のクリエイター」という属性でしか見ていないのだ。だからマーケターは性格が悪くなるのだ。マーケターはだいたい皆が害悪だ。マーケターは滅ぼさなければならないと思った。


 僕は菊地のにやけた横顔を見ながら、マーケターを駆逐するための企画を練り始める。今夜も徹夜になりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

性格の悪いマーケター 伏見同然 @fushimidozen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ