第27話 報酬のプルプル

「……んっんん……」


 バイスが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。

 起きて周りの状況を確認する。

 誰もいない、バイスは小綺麗な部屋にいた。


 部屋にあるのはベッドと直ぐとなりには白く丸いテーブルと白い椅子、テーブルの上にはカットされた果物が乗せられた皿とコップ、そして水筒が置かれていた。


 部屋には扉が一つだけあり、外の廊下と通じている。

 バスは取り敢えず部屋から出るのはやめて誰か来るだろうと待つことにした。


 バイスは別に喉が渇いてもいなかったし果物も食べる気もなかった、そもそもプニの『擬態』で小人族に化けて変身していないなら食事を殆ど取る必要もなかった。


 プニの事を考えたバイスはそこでいつもは自分から離れないプニがいない事に気が付いた。


「プニ? ……プニーー」


 先ずは落ち着いて普通の声で呼びかける、しかしプニからテレパシーでの返事はなかった。


(そんな、まさかプニは…)


 カオススライムとの戦いで完全にプニは自ら危険だと分かった上での捨て身の攻撃を繰り出していた。


 相手がスライム、それも不完全な魔術で無理矢理呼び出されたような存在だからこそ出来る『融合』の能力を使った暴走の強制。


 普通のスライム相手でも成功しないであろう行為をプニはカオススライム相手にぶっつけ本番で成功させたのだ。


 しかしバイスは見ていた、プニの身体にもその無理をした影響が出ていたのを。

 もしかしたらプニはあのままヒビが全身に周り粉々に……。


 そこまで考えてバイスは頭を左右に振った、そしてふと気になる事を口に出してしまう。


「…と言うか、自分はあの爆発でどうなったんだ…?」


「どうって……もちろん、死にましたよ?」


 何気ない感じで、とんでもない事を言ってきたのは扉を開けて部屋に入ってきたエドリゴだった。


 エドリゴは手に銀色の小さな蓋付きの小瓶を持って現れた。

 バイスはエドリゴの無事に喜び、そして疑問を口にする。


「えっ死んだんですか?」


「はいっまああの大爆発でしたから」


 バイスは死んだのだ。

 目の前で凄まじい大爆発が起これば当然巻きこまれる、そしたら死ぬ。

 当たり前のことである。


 つまりはプニも死んだのだ。

 その事を理解したバイスはエドリゴに質問する。


「それじゃあ今の自分は…」


「ええっカオススライムを倒した功労者ですし、本来ならこのダンジョンとは無関係だったのに身体を張った貴方たちの事を主に話したら他の部下より前倒しで再生させてくれたんですよ」


「そっそうですか…」


 依然バイスとプニが行ったダンジョンとの契約、アレには様々な恩恵がある。

 その一つにあるのが再生。

 ダンジョンと契約したモンスターはダンジョン内で死んでも復活出来るのだ。


 冒険者に倒されたモンスターの魂はダンジョンコアに回収され、肉体を新しく再構成してその身体に回収して一時保存していた魂を入れる事で復活する。


 これによって世界中からダンジョンに途切れることなく来る冒険者を相手にしてもモンスターが居なくて物量でダンジョンが落とされる可能性がかなり減るのだ。


 ダンジョンコアとダンジョンマスターが存在するダンジョンだからこそ出来る離れ業である。


 当然バイスも依然はダンジョンで働いていたのでエドリゴの言うことは理解出来た。

 しかしそれなら何故プニはいないのか、それを質問すべきか迷った。


 モンスターの再生には魂が安定しているかが大事だとバイスは依然聞いた事がある。

 果たしてカオススライムと僅かとはいえ融合をしたプニが大丈夫だったのか…それはバイスには見当もつかない話だった。


 もしそれを聞いてエドリゴが首を左右に振れば、バイスは明日からどうやって生きていけばいいのか分からなくなる。


 怖いからこそ聞けなかった。

 バイスは自分の中のプニの大きさを更に強く自覚した。

 プニが自分にとってどれだけ大切な存在なのかを。


 無言となったバイスにエドリゴが語り掛けるように話しをする。


「バイスさん、今回の事はダンジョンと『魔王軍』のいざこざです。本来ならバイスさんとプニちゃんが身体を張る必要はなかった、しかし不甲斐ない僕らのせいで無理をさせてしまいました…」


「……エドリゴさん」


「ですので主が言ってました「今回の報酬も兼ねて色々と頑張った」…と」


「…………はい?」


 エドリゴが小瓶の蓋を開けた。

 すると中から飛び出して来る青いプルプル、それはプニだった。


「プップニッ!?」


(バイスーーーーーー!)


 プニはバイスの顔面に張り付く、バイスが呼吸をする生き物なら窒息する所だがバイスはそんな事は何も気にしていなかった。


 ただプニの無事が嬉しかった。

 バイスが手の平を広げるとプニはその手の平の上にプルンと着地する。


(プニ……良かった。本当に心配したんだよ?)


(プニは死なない、バイスも死なせない、だから二人とも無事なのは当然!)


 実際にはバイスもプニも死んでいる。

 今回はダンジョンマスターが頑張って二人を早く、そして同じくらいのタイミングで再生させたから再会出来たのだ。


 普通は再会は順番待ちなので仲の良いヤツと同じくらいのタイミングで再生するなど滅多にない。


 しかしバイスもエドリゴも余計な事は言わなかった。


 プニは上機嫌でプルプルしている、それを見れただけで十分だった。

 エドリゴは更に懐から袋を出してバイスに渡す。


「これは今回の二人への報酬です、見合ってるとは言えませんがこう言うのでお支払いするしかなくて…」


「とんでもない、勝手にエドリゴさんについてきただけなのに…助かります」


(金貨ざくざく! バイスとプニはお金持ちに!?)


 袋の中に確かに大量の金貨が入っていた、その総金額はバイスがバッカニアで稼いだ金額の数十倍はあるだろう。


 バイスはちょっと商人って儲からない職業なのかな?

 とか思ったかも知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る