第5話 色々な噂

「数ヶ月前、街では見なれない連中と接触するようになって直ぐに屋敷の人間が一斉に解雇されてその連中が居座るようになったそうで…」


 カリオストはそれまで取引のあった商人とも連絡を取らなくなり、何故かダンジョンから呪われた品物を買い取るようになった。


 元はそんな頻度で出土する事もなかった呪われた品物、それがやたらと増えだした事もありカリオストに感謝してる冒険者もいる。


 しかし呪われた品物の危険性を知る商人や人間はいずれ何か起こるのではないかと少しずつバッカニアから離れていった。


 その後カリオストはジョゼを中心に何人もの冒険者を雇って更に多くの呪われた品物をダンジョンから集めているらしく、話をした冒険者から見ても「正直不気味っすね…」と言うのが本音だ。


「なっ成る程……」


「だからジョゼ…と言うかカリオストの一派といざこざとか起こすとどんなやぶ蛇が来るか分かったもんじゃないっすよ、アンタよそ者みたいだから一応忠告はしとこうってね」


「情報ありがとうございます、今後は気を付けます」


「ははっ気にしなさんな、それじゃあな」


 バイスにはカリオストもジョゼも止める力なんてない。

 嫌な予感がするがこれ以上出来る事もない以上は下手に目をつけられる事を避ける事をバイスも選んだ。


 次の日は休み、仕入れた商品の手入れをしたりかまってくれないと拗ねるプニの相手をして過ごした。


 更に翌日、再びバザー市場で大風呂敷を広げてダンジョンからの出土品を並べる、以前よりも冒険者が好みそうな物を意識したラインナップだからか数名の駆け出し冒険者がバイスに商品の説明を求めていた。


 若い青年冒険者が石で出来た人型の小さな像を手にして話をする。


「こんな石の像が何の役に立つんだ?」


「それは簡易版のゴーレムだね、魔力を込めて投げると人間と同じ大きさになって動き出すよ。戦闘力はないけどモンスターから逃げる時の囮や盾として使うなら優秀なアイテムだね」


「こっちのマジックスクロールは一体何の魔術が込められているんですか?」


「そっちはモンスター避けの結界だね、休憩や食事をダンジョンで取る時は使っておいて損はないアイテムだよ」


 バイスはダンジョンでバイトをしていた時の知識を利用して他の出土品に埋もれがちな優秀なアイテムを発見して商品として並べている。


 もちろん不良品などは買うことなくちゃんと効果を発揮する物を売っている、そして駆け出し冒険者などが必要とするアイテムを意識して集め値段も彼らが買える値段を設定していた。


 そして元はダンジョンで働いていた身の上なのでダンジョンのモンスターを倒す様な武器や魔道具は売るつもりはなかった。


 結果としてバイスの用意した品物は他の商人が取り扱う事が殆どないラインナップとなりその物珍しさから人目を引いた。


 数人の若い冒険者が商品の説明を受けて買っていった、そしてバイスが一人(本当はプニもいるのだが)になると初めてバイスの所で買い物をした冒険者のエリーが来た。


「こんにちは小人族の商人さん」


「はい、こんにちは…あっ君は確かこの前の…」


「エリーです、以前ここで買った『暗視の指輪』には結構助けられてますよ」


 そう言うとエリーは右手の人差し指にした指輪を見せてくれた。

 エリーの話だと暗い中でも物が見えるだけでモンスターの不意打ちから逃げたり出来たらしい。


 バイスは買われた商品がしっかり役に立っているようでホッとした、すると笑顔だったエリーが少し心配そうな顔をして話をしてきた。


「商品さん、実は最近妙な噂が広がってるのは知ってますか?」


「妙な噂?」


「はいっ何でも夜な夜な街を武器を持って徘徊する人間がいるらしくて…噂では冒険者じゃないかって言われてて」


 同じ街の冒険者が事件でも起こせば赤の他人でも街の人間は冒険者を同類と見るかも知れない。


 冒険者は街から街へと渡り歩く事も多く基本的に余所者として扱われる以上、中々信頼や信用を取り戻すのは大変な職業だ。


「そうですか、エリーさんも大変ですね」


「私はまだこのバッカニアで冒険者になる前から生活してたので良いんですけどね…何でもソイツに襲われた、なんていうことに人もいるとかで」


「夜な夜な襲ってくるですか、怖い話ですね…」


「商人さんには良いアイテムを売ってもらったので一応は話をしておこうと思って、夜に街に出る時は気を付けて下さいね」


「はい、分かりました」


 エリーの言葉にバイスは静に頷いた。

 その後エリーも二点ほど商品を買ってくれた、その日バイスは商人として初めてまともな利益を上げる事が出来た。


 夕方から夜になる時間、バイスは売れ残った僅かな商品を大風呂敷で包んで宿への帰路についていた。

 その顔は笑顔である。

 するとプニがテレパシーを送ってきた。


(バイスが喜んでる)


(うんっ今日は利益がちゃんと出たからね…)


 思えばここまでお金は出ていく一方だった。

 密かに自分には思った以上に商人は向いていないのかな、とバイスは悶々とストレスを感じていたのだ。


 結果がそんな直ぐに出る訳は無い、頭では分かっていても気ばかりが焦っていたのかも知れない。


 しかし今日の結果でまだ駄目だと決めつけるべきじゃないなと考えを改める事が出来た。


(そうだ、今日はこのお金で外で何か食べようか)


 いつもは節約の為に安くてもお腹を満たせる保存食で我慢していたバイスとプニ、嬉しい事があった日だし少しの贅沢を提案した。

 プニは頭の上で跳ねて喜ぶ。


(食べる食べる! プニは温かくて美味しい物が食べたい!)


(分かったよ、それじゃあ屋台街で煮物の屋台に行ってみようか)





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