EXルート:爆滅魔王ルドラの誕生

大噴火な特待生

第20話 イドの統治方法

 統一性の無い真新しい城下町の外れ、竜脈移動の祭壇が設置された広場にて。


 

 港を見渡すことのできる広場にはヴィッシュ達に降伏した侵略者達と、他の領から新天地を求めて集まった階級外アウトカースト達が集められ、何となく別々に固まっていた。


「一体これから何が起きるんだ? 見ろ。近くの港っぽい場所に沈んだはずの飛行船が浮いてるぜ」


「わからん。もしかしたらイケニエの儀式か何かをおっ始めるんじゃねえか?」


 ひそひそと話し合う降伏した侵略者達は、半分になった飛行船を持ってきたイド人の意図がわからずに困惑しており。


「何が起こるんだろ? おばあ様は、昔はここで暮らしていたんだよね?」


「そうともさ。絶対シャクティ様に逆らっては、いけないよ」


 階級外アウトカーストの中でも最長老の老婆は、質問好きな子供に大事なことを教えていた。


 そんな彼らの目の前で突然に竜脈移動の祭壇が光り輝き、二人のメイドを侍らせたルドラが現れる。


 彼女は戦士階級クシャトリヤの赤い制服の上に巨大なルビーがゴテゴテと付いた全身鎧を身に纏い、金髪碧眼の美貌を薄布のベールで隠している。


「お前達は今日からシャクティの民である。逆らうも従うも自由にしろ。従うなら守ってやる。しかし、血統兵装トリシェーラ!」


 金髪ツインテールのメイド、チュリが出した拡声の神具で声を大きくしたルドラは、困惑する侵略者達と拝んだり手をこすり合わせる階級外アウトカーストを無視し、真紅の三叉矛を港跡に突きつけた。


 港跡には半分になった飛行戦艦が氷で浮かされている。


「逆らうならば、容赦はしない!」


 彼女の宣言と共に照射された全てを焼き尽くす熱線は飛行戦艦の残骸に直撃し、氷と周囲の海水を一瞬で蒸発させながら、みるみるうちに飛行戦艦の姿形を失わせていく。


「おいおいおい、鋼鉄製の船を海上で溶かしちまうのかよ……」


「ああ、神様。俺達は、もうおしまいだ。悪魔に目を付けられちまった……」


 その様子に元侵略者達は絶望し――


「あれこそがシャクティ様のお力! 決して逆らってはならぬよ」


「わああ! すごーい!」


 老婆は目を見開いて警告する。領主の力に階級外アウトカースト達は歓声をあげた。


 最終的に飛行戦艦は、新たな領民が見守る前で、海底にへばり付く金属塊となってしまった。


 照射が止められると、金属塊を海水が飲み込んでいく。


 下手人のルドラと二人のメイドは、恐れおののく元侵略者達と、歓声を上げる階級外アウトカースト達に背を向けて来た時と同じく光り輝き始める。


「この本にぜーきんの支払い方と、お話の伝え方が書いてあるよ~。りょーしゅ就任の記念で、今月はむりょ~!」


 彼女たちが消える直前、振り返ったチュリの伸びやかな声と共に冊子が大量に降り注いだ。


#####


 城の中庭に設置された竜脈移動の祭壇が光り輝き、城の主と二人のメイドが現れた。先ほどまで領民候補達を脅しつけていたルドラと、冊子をばらまいてきたチュリに、賑やかし役のメリィである。


 城へ帰ってきたルドラは真っ先にベールを邪魔そうに上げると、メリィとチュリの二人に手伝ってもらいながらルビー過多な全身鎧を慎重に外していく。


 ご主人様を待っていたメイド服のエルフ、アリサもタオルを片手に祭壇へ登っていく。


「これ重ったいわね! 何とか、ならないのかしら?」


「シャクティの儀礼用装備ですからね。儀式の時だけですから、お諦めください」


 ルドラは文句を言ってメリィを困らせつつ、祭壇横に備え付けられた待機用の机に、次々と巨大なルビーで装飾された鎧のパーツを積み上げていく。


「あんなので本当に言うことを聞くの? あたしだったら逃げちゃうんだけど」


「それはルドラさまが強いから、言えることですわ。領民予定者はシャクティ領まで、戦士階級の護衛に守られて来たという話です」


「ああ。そういう事なのね。逃げ場無しの生きるか死ぬか、と」


 クロエ曰く力で押さえつけるイドの統治方法に疑念を抱いたルドラだったが、タオルで彼女の汗を拭いてあげているアリサの話で、疑念は氷解した。


 ルビーの鎧を脱ぎ終わったルドラは祭壇を降り、中庭を転げ回る謎の生き物っぽいものと邂逅した。


 その謎生物は緑色に輝く小さなフクロウだ。


「何コイツ? 魔物……なの?」


「あっ、それは……」


 フクロウは跳ねては転がりを繰り返しており、気になったルドラは青い目を細めて近づき、何か言いたげなアリサを庇いつつ観察する。


 一際大きく跳ねて転がった緑の謎生物は、警戒するルドラの足下まで転がってくると、首をクルリと回して上を見つめた。


 大きなくりくりとした黒い目と、いぶかしげな碧眼が交差する。


「ルドラか、かえったのだな」


「なぁ!? コイツ、ヴィッシュだったの!?」


「ええ。なんでもガルーダの新形態を発見したとかで、先ほどから、ずっと練習しております」


 アリサの説明でフクロウの正体を理解したルドラは、転がったままで固まっているガルーダヴィッシュが不安になり問いかけた。


「あんた、さっきから固まってるけど、大丈夫なの? 変なところでも打った?」


「せんれつな、赤であった」


「ななな! このっ! 変態!!!」


 紳士の心を打たれていたらしい足下の変態ヴィッシュに、真っ赤になったルドラは即座に真紅の三叉槍である血統兵装トリシェーラを展開し、突きつけて閃光を放つ!


 ガルーダその者となっているヴィッシュへんたいは閃光を緑光の竜巻で迎撃しつつ、周辺を風の結界で保護した。


 城の中庭で血統兵装の衝突による突発的な大爆発が引き起こされる!


 あえて開放されていた結界の上側から爆風が吹きだし、外から見ればまるでシャクティのドーム型の屋根を持つお城が噴火しているような有様となっていた。


「おお! またこの風景を見ることが叶うとは! 長生きはするものじゃて」


「良かったね! おばあ様!」


 遙か昔によく見た風景に、老婆は子供と一緒になって喜びながら、膝をついてひれ伏すと領主も知らないシャクティ流の礼拝をした。


 この世のものとは思えない光景を見た元侵略者達も、自らの信じる神に祈りつつ、見様見真似でひれ伏す。


 領民たちにシャクティ流の礼拝が伝搬していく。


 ルドラが初めて行った統治の為の武力誇示は、大成功である。

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