パンチラなかった未来2【IF】

窮国の死姫

第12話 婚約者の見た夢

 夢の中をゆっくりと歩いて進む。


 私の目の前にあるのは最果てを見通すことも叶わない長い長い廊下。


 通り過ぎる廊下の壁には、思い出深いワンシーンの切り取られた絵画が飾られており、横目に見れば懐かしい。


 軽く絵に触れてみれば、その頃の様子が脳裏に映し出され、つい微笑んでしまう。


 過去を懐かしむのも良いけれど、今日の目的は別にある。


 私の夢はこうして過去の事を思い返すだけでは無く、関わった人間のあり得た未来と、あり得る未来が見れる。


 あり得た未来は、何も干渉しなければそうなるだろう未来。


 あり得る未来は、何らかの干渉をした結果、変わった未来。


 私の歩く廊下から分岐した別の廊下が、関わった人間の未来の絵画が展示される廊下となっており、未来のあり得るとあり得たは、壁の左右で分けられている。


 無数に分岐する未来を全部網羅するには時間が足りない。でも、今後の参考になるから、知り合いが増えた時は軽く確認している。


 お菓子に囲まれた絵の多いチュリの廊下を通り過ぎる。


 彼女が菓子店を買い取ると、大体は自分好みの物ばかり作らせて倒産させてしまうから、今回は何とか止められて良かった。


 お金を食べ物以外のことに使うように言ってみたけれど…………一生懸命ダイエットする未来は避けられたかな?


 チュリのあり得た未来の変化にちょっと後ろ髪引かれつつ、私自身の思い出の廊下を歩いて行く。


 しばらく歩くと、私とヴィッシュ君の後に控える絵の多いメリィの廊下まで辿り着いた。


 ……実のところ、彼女とチュリはヴィッシュ君の未来によく登場していたのを私が先に雇ってしまった奉仕階級シュードラ


 ある意味引き抜きだ。


 引き抜いた理由はいくつかあるけれど、一番重要なのはヴィッシュ君と国外へ逃亡する未来があったから。


 婚約者(私では無い!)との結婚を嫌がるヴィッシュ君の為、メリィが率先して逃亡を主導しており、常識的なチュリは完全に巻き込まれる流れ。


 海外に逃げた後、色々とあって三人で仲良く暮らしていたから、身分差での駆け落ちも同然。


 そして私が引き抜いてしまった影響で、代わりにクリシュナ家が雇ったのはメリィの姉だった。メリィの話によると、彼女の姉は甘やかすのが好きらしい。


 ……ヴィッシュ君の現状には、私の責任もあるということ。


 今後の教育に頭を悩ませつつ、思い出の廊下を歩いていると、新たに見えてきたのはヴィッシュ君の廊下だ。


 横目に見た彼の未来は女性の比率が高く、いわゆるハーレム状態になってる。


 これも私の責任だ。


 私は夢で見た未来に干渉し、自分にとって都合が良い状況にしている。


 だけど、あるべき未来を知っている上、こうして夢を見るたびにあり得た未来の絵画が視界の隅にちらつくから、どうしてものようなモノがある。


 特に二人の奉仕階級シュードラの件以外にも私が先んじて婚約者になったりと、ヴィッシュ君の未来には積極的に割り込んでいる。


 私が割り込んだせいで未来が変わりひどい目に遭っている娘を見かけると、どうしようも無いを感じるから……。


 何とかしようと試行錯誤した結果が……彼のハーレム状態なのだと思う。


 私も出来るだけ手伝うので、ヴィッシュ君には頑張ってほしい。


 今後の行動予定を整理しながら長い廊下を進んでいると、次に見えてきたのはルドラ=シャクティの廊下だ。


 彼女は私が失敗した未来でヴィッシュ君を何度も助けてくれる恩人。


 激しい気性のせいで教師にかみつき放校処分になるパターンが多いけれど、同じく問題を起こして放校処分されたヴィッシュ君とコンビを組んで魔物狩りをしてみたり、辺境で一緒に田舎暮らしをしてみたり、と属性の影響で相性が良いのかそんな未来が多い。


 現実では、ヴィッシュ君と模擬戦したと思ったら、あっという間に女領主になってしまった。


 ……ちょっと訳がわからない。


 これも相性の良さ?


 現実逃避気味に夢の中を歩いていると、ようやく今回の目的であるアリサ=チェダーの廊下が見えてきた。


 気を取り直して方向転換し、彼女の廊下に踏み込む。


 アリサ=チェダーの廊下に並ぶ絵画は、真っ白なキノコを頭に乗せて森で朽ち果てた彼女ばかりだったけれど、一つ興味深い絵画を見つけた。


 それは黒ずくめの者達が、真っ白なパペットマッシュルームを刈り取ってから彼女を運ぶ絵画。


 気になって追ってみると、更に飛行船に乗せて運んでいる。


 ……確かコレはヴィッシュとルドラ=シャクティが、一緒になって真っ二つにした飛行戦艦。


 嫌な予感がするので、密室での謁見が描かれた絵画に触れてみる。


 #####


「お主らが我が娘を送り届けてくれた者達か? 直答を許す」


「は! 森の中で王女があのような状態になっているところを見つけ、急ぎ連れて参りました次第でございます!」


「公務中に船が沈んだと聞いた時に覚悟していた。生きているだけ奇跡よ。下がれ」


「は!」


 謁見の場。聞かれた跪く男達の代表が顔を上げて答えると、消沈した長耳の王がぞんざいに手を振り追い払った。


 少しすると執事が現れて首を振る。


「陛下、真実の鐘は鳴りませんでした。彼らは嘘を言っておりません」


「そうか。本当に善意の者だったとはな……」


 執事の報告に目を閉じた王は、深く椅子に座り込み顔を覆った。


 #####


 きっちりと正装して顔を出していた者達については、要注意人物として顔を覚えておく。


 アリサの実家が嘘を見抜く神具を所有しているのを知れたのは運が良かった。


 厄介な神具だけど、存在を知っていれば対策はある。


 情報は大事。


 アリサの父もパペットマッシュルームの情報を知っていたら、もっと違う質問をしたと思う。そして生きては返さなかった。


 森で彷徨っていた王女を送り届ける。とは、善行に聞こえるけど、それがパペットマッシュルームに寄生された死体となると話は別。


 その後の絵画にはお察しの展開が描かれており、絵に触れる勇気はとても持てない。


――キノコに操られて暴れるアリサを見て、嘆き悲しむ彼女の家族達の絵画。


――アリサと同じくキノコが頭から生えた家族達の絵画。


――キノコが頭に生えた森エルフ達が燃える大都市の中を彷徨っている絵画。


 全く染められている者が居ないので、全員の目とキノコが真っ白。


 パペットマッシュルームに寄生されたエルフ達の中心に立つアリサ=チェダーは、もう死んでいるのに泣いている様に見えた。


 それを最後に私の意識は沈んでいく。


 軽く確認するだけのつもりが、ひどい夢を見てしまった。


 起きたら……お仕事だ……。


 ……。


 #####


 まだ日も昇っていない早朝に目を覚ました私は微光神具の明かりを頼りにベッドから抜け出すと、サイドテーブルの上にあるハンドベルを取り上げ鳴らす。


「クロエお嬢様、入室してもよろしいですか?」


「いいよ」


 神具の仄かな明かりを頼りに、忘れてしまう前に似顔絵を描きつつ、少し待っているとメリィが入室許可を求める声が聞こえてきた。


 私の許可の後にキッチリとメイド風制服を身に纏うメリィが部屋に入ってくる。


「何か御用でしょうか?」


「昨日ちょっかいを出した侵略者の町に、イドの罪を悪用する者がいる」


 記憶を思い返しながら似顔絵を書く私に、ナイトガウンを羽織らせながら問いかけてきたメリィ。


 彼女は私の返事に表情を硬くした。


「……町ごと消毒しますか?」


「ルドラ=シャクティの再開拓にケチを付けたくない。とりあえず、ブラフマン家の諜報部に任せる」


「かしこまりました」


 流石の私もそこまで過激な事はしない。


 中心人物だけ狩れば十分。


 それに、せっかく領地を整えても領民がいなければ、困ってしまう。


 私の差し出した要注意人物の似顔絵を受け取ったメリィは、一礼した後に部屋から去っていった。


 一仕事終えて安心した私はナイトガウンを脱いで丸めると、ベッドに潜り込み二度寝を試みる。


 今度は、昔の夢を見て癒やされよう。



 ――あとがき――

 こんな調子で暗躍している婚約者クロエさんの回でした。

 文字通り未来が見えちゃうのは大変そうですね。


 ルドラみたいに夢だと思い込めれば良いのですが、権力を持っている分把握できてしまうという。


――あとがきのあとがき――


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