凡人なのでダンジョンギミックを極めます

どらいあい

第1話 ダンジョンギミック

 そこは四角い石のブロックによって床、壁、天井が形作られた古い遺跡を思わせる場所だ。


 そんな場所に少し狭めの一室がある。

 その奥には小さな壺がありその壺の隣に僕は腰を下ろしていた。


 そこにお客さんが現れる。

 茶色い肌に禿頭の頭、人間のように目鼻口はあるが、人間よりもずっと凶悪そうな相貌は見る者に恐怖を与える顔をしてした。


 このダンジョンのモンスター、ホブゴブリンだ。

 身長は僕より少し高く革鎧を身に着け、手には剣を持っている。

 まともに戦えばその戦闘力は僕よりも高いだろう。


 僕は戦闘面での才能はないからね、おっと自嘲してる場合じゃないな。

 ボブゴブリンは部屋の奥にいる僕を見つけると武器を構えゆっくりと距離を詰めてきた。


 多少は知恵があるからこその行動、しかしその遅い動きが仇になった。

 そのままそのまま……よしっ今だ。

 僕は自分の隣にある小さな壺を押して少し動かした。


 その瞬間、ダンジョンギミックの一つであるダンジョントラップが発動してホブゴブリンが立っている場所の左右の壁から少し太めの尖った針が数本、無音で射出された。


 それがホブゴブリンの肩に刺さる。

 当然、痛がるわけだがそれから数秒としないうちに体の自由が利かなくなりホブゴブリン倒れた。

 即死性の毒針だ、まず助からない。


「うん、問題なく倒せた…やっぱりダンジョントラップはモンスター自身にも絶大な効果を発揮するね」


 本来、ダンジョントラップはダンジョンのモンスターじゃなくそのダンジョンに来た探索者を狩るための罠だ。


 だけどモンスターだって自分たちが住んでるダンジョンにどんなダンジョントラップがあるかなんて、全てを把握してるわけじゃない。


 使い方によってはこんな風に労力ゼロでモンスターを倒す事にも利用することができる。


 僕には探索者としての才能というものが全くない。


 大量のモンスターを一瞬で殲滅する強力なスキルも、自身より巨大なモンスター相手にフィジカルだけで圧倒できる人間離れした身体能力も、どんな戦況でも臨機応変に対応できる頭脳も…。


 そんなものは何一つ持っていない完全なる凡人だ。

 そんな僕が見つけたのがダンジョントラップ……いや、ダンジョンギミックだった。


 本来一対一でも適わないホブゴブリンをこれだけ少ない時間と労力で倒せたように、このダンジョンギミックというのは使い方によって大化けする可能性を秘めている気付いたのだ。


 何の才能もない凡人探索者の僕でもこのダンジョンギミックを利用することによってダンジョンで一旗あげられるんじゃないか。

 そんな風に考えていた。


 目の前で倒れたホブゴブリンが光となって消滅する、後にはホブゴブリンの赤色の魔石と手にしていた剣が残されていた。


 ドロップアイテムがあるのはついていたな。

 これで多少は稼ぎが増える、そしてこれで今日一日で僕はホブゴブリンを五体倒すことができた。


 その魔石は一つにつき2000円、ドロップアイテムは多分5000円くらいにはなるだろうから今日一日の収入は15000円くらいだろうか。


 探索者と言っても底辺はこんなもんだ、と言うかこれでもまだマシと考えた方がいいだろう。


「………はぁっ」


 分かってはいるけどついついため息をしてしまう、貧乏は悲しいね。

 僕はダンジョンから脱出するために移動を開始した。


 ◇◇◇◇◇◇


「ですからダンジョンのギミックでいくらモンスターを倒したとしても意味がないんですよ、本当に分かってますか不動友也ふどうともやさん?」


「すいません、それくらいしか倒せる手段がなかったので…」


 何故かギルドにてギルド職員の男性に小言を言われている僕だ。

 国が運営する国営の組織。

 通称ギルド。


 ダンジョンで集めたモンスターの魔石やドロップアイテムを買い取ってくれる僕ら探索者にとって日々の生活資金を得るためには欠かせない場所である。


 そんな場所にてギルド職員の男性に僕は小言を言われていた。

 周囲には他の探索者やギルド職員の目もあるので辞めて欲しい…。


「いいですか? ダンジョン探索者は実力がものを言う世界なんです、武器でもスキルでもいいんでちゃんと探索者の実力でモンスターを倒すようにならないと探索者ランクを上げることはできないんですよ?」


「そうですか…」


 ダンジョンギミックで倒そうが戦って倒そうが同じだと思うんだけど?


 そもそも何でモンスターを倒してきたのに、そしてそれを買い取ってもらってるだけなのにこんなことを言われなきゃいけないのだろうか。


 手に入れたホブゴブリンの魔石と剣を 渡し、ギルド職員の男性がカウンターの奥に消えたのでまたため息をつく。


「……はぁっ僕はそろそろ昇級試験を受けたいだけなのにな~」


 日本での探索者というのはまるっと分けて下級、中級、上級探索者と呼ばれている。

 このランクが上がれば色々とギルドからの融通がきいたりするので大抵の探索者はそのランクを上げるために頑張っているのだ。


 そして僕は下級探索者である。

 そこから中級に上がるために必要なのは一定以上の危険度を持つモンスターを一定の数倒すことなのだ。


 中級探索者に上がるための必要なモンスターの討伐数はとっくに越えている、だってホブゴブリンもそれに入ってるんだから。


 なのにあのギルド職員は実力が何だあーだこーだと言ってなかなか僕が下級探索者から中級探索者に上がる為の昇級試験の申請を受けつけてくれない。


 おかげ探索者になってもう五年以上経ってるが未だに下級探索者のままである。

 ギルドの男性職人が戻ってきた。


「こちらが買い取り価格です、12000円になります」


「…………わかりました」


 またか。

 このギルド職員が買い取りを担当すると結構こういう事がよくある。

 僕の予想よりも若干買い取り価格が安いのだ。


 ダンジョンから得られる資源は世間の物価だなんだにあまり影響は受けないはずなのだが…。


 何しろ常に需要があるからね、しかし実際に安いのだから僕の予想が外れたということなのだろう。


 僕は手にした今日の日当をポケットに入れてギルドを後にした。

 ……ちなみに僕はソロだ、ぼっちでは断じてないよ。




【作者コメント】


 この作品に主人公の友達は一人も出ません。

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