隣の美人お姉さん、俺が居ないとダメそう。
オーミヤビ
第1話 プロローグ
「おーい、
「うおっ、急に押してくんなよっ。…何?」
「ごめんごめん。今日放課後にカラオケ行くんだけどさぁ、葉月も来ない?」
「あー…、俺はちょっとパスで」
「えぇ、マジ?
「いや、今日はごめん。また今度頼むわ。それじゃっ」
・・・
「ふふっ、
「ちょっ、何っ!?へ、変なこと言わないでよっ!?」
「まあまあ、また今度頑張りなって。アイツ、一人暮らしだから色々と忙しいみたいだしさ」
「え、そうなの?……大変なんだ」
「いやー、でも憧れるよなぁ。親の元を離れてフリーダム…いいなぁ」
「まぁ、たしかに。門限とかも気にしなくていいしね」
「それにアイツ、スカしてるけど顔は整ってるから、女とっかえひっかえで連れ込んでても可笑しくないよね~」
「は、え、ちょっ。ななな、なに言ってんの?!は、葉月がそんな、そんなことあるけっ───」
「可能性の話だって、そんな慌てないでよぉ。んでも、一人暮らしならそれでもバレないよね」
「ぅぅ、そうだけど…」
「葉月、好きな人とか居るのかな……」
***
小学生、中学生の時期は、大人という存在は極めて高い壁で、まるで絶対的なモノであるかのように感じられた。
親や先生などといった、身近に接する大人が従うべき対象であるのだと刷り込まれているのが理由のひとつだろうか。
門限を一分でも破ったり、宿題を家に忘れたりしたときは、それはそれはこの世の終わりなのではないかと、冷や汗をかいたものである。
だが高校生になり、視える世界が広がると、そういった大人のメッキというのはポロポロと剥がれていった。
難攻不落の牙城が、案外、わらの家のようではないかと感じられるようになった。
これもまた、理由はさまざまあるだろう。
自立して動くようになったり、いろいろ経験して価値観が変わったり。
さまざまな要因で、大人というものに対する絶対的な尊敬は薄らいでいく。
俺、
通学距離の関係などで一人暮らしするようになって。
バイトを始めて、ろくでもない客に相対するようになって。
大人って案外大したものじゃないんだな、と思い至った。
一応言っておくと、大人を舐めてるわけじゃないよ。
ただ、昔ほど絶対的なものであるという印象はなくなったというだけ。
高校生だと、このポジションに部活の先輩なんかがスライドインしてくるのかもしれないけれど、生憎俺は部活無所属。
そういった、超えることのできない壁という存在は身近にいなくなっていた。
というかむしろ、そんな存在だったはずの大人を、面倒みてる立場にもなりつつあるし…。
***
一人暮らししているアパートに着く。
一介の高校生が高い家賃を払えるわけでもないので、やっすいボロアパートだ。
まぁ、最低限の“住”を満たすことができればそれでいいしね。
勢い付けて踏み込んだら抜けそうだな、なんて思える階段を上り、自分の部屋の扉の前……を、通り過ぎ。
となりの部屋の扉をノックする。
インターホンを鳴らしてしまうと、ほかの部屋の人まで反応してしまう可能性があるからだ。
「すいませーん」
少し待っても反応がなかったため、呼びかけてみる。
そこで不意に、違和感を感じた。
なんだか、焦げ臭いニオイがする。
ずっと嗅いだら体調崩しそうなニオイだ。
───ドタドタと、扉の向こうで物音がする。
と思ったら、その音を隔てる目の前のトビラは勢いよく開け放たれた。
「ご、ごめん。ちょっと…、取り込んでてさ」
現れたのは、黒髪の女性。
あまり手入れをしていないためかボサボサにケバ立っており、艶もない。
服装もくたびれた短パンにキャミソール1枚という、だらしない感じだ。
しかし顔だけは、すっぴんだろうに妙に綺麗で、つい言葉を失ってしまう。
……だが、すぐに我に返って。
「焦げくさっ!なにがあったんですか?!」
「あー、えっと。ちょっと料理をしてみようと思ってさ。君に頼りっきりも申し訳ないし…」
ちっちゃくなるように肩を
…いあ、まぁ。それは大変良い試みだとは思うよ。
思う…けど、ちょっと待ってくれ。
「すいません、今もジューって音がするんですけど、これはなんですか」
「…あ、」
今ようやく気付きました、とでも言わんばかりに声を洩らして、急いで部屋の中へと戻っていった。
「…あわや火事じゃないですか。まったく…」
ぽつりと、呆れのため息交じりにつぶやく。
まぁ、彼女には聞こえてないだろうがね。
…冷蔵庫の中身、全滅してないといいなぁ。
なんて思いながら、俺は部屋の玄関をくぐった。
─────────
新連載です。
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