第三十二話 ボールは友達
ジャンプ踵落としから唯一生き延びた魔族は、やはり魔将のようで、他の魔族より少しばかり足が速かったが、ブレイブにとっては誤差の範囲。すぐに追い付いた。
まずは、逃げられないように足を潰し。その後、地面に転がった相手の顔が絶望に染まったのを確認し、尋問を始めた。
しかし、ブレイブには、尋問を行った経験なんてない。尋問初心者だ。痛めつけようが足りなかったのか、魔将は質問に答えず、話し合いで解決しよう、などという世迷い言を提案して来る始末である。
――なるほど……このぐらいでは、まだそんなことをのたまう元気があるのか。……もう少し痛めつけるべきだった。
とりあえず、罰として魔将の左腕を踏み潰すと、ようやく観念したのか魔将はポツポツと質問に答え始めた。……もう一度どうでもいいことを言い出したのなら、見切りをつけて始末しようと考えていたので運のいい奴だ。
魔将の情報を元に答え合わせをしていく。
まず、やはりこの魔将は王国側の四天王の指揮下にあったようだ。
肝心の四天王の情報だが、
とりあえず、二匹の最後の居場所を喋らせたが、おそらくその場所に行ったところで、いない可能性が高い。今一パッとしない情報だ。
役に立たない魔将に苛立ったが、幸いにして、本命である
王国側の四天王のこともあり、期待していなかったが、カエルレウムは一カ所に留まっているらしく、それが幸いしたようである。
カエルレウムは少し前から、帝国の都市――『ゼルトザーム』を占領し、拠点として住み着き、そこから魔将を筆頭とした部隊を帝国各地に送り込んでいるようだ。
『ゼルトザーム』――なんとなく聞いた覚えのある街だった。たしか帝国有数の栄えた街だった筈だ。
――つまり、
戦いの時は意外と近いと、ブレイブは気を引き締めた。
そして……最強の四天王。
話を聞く限り、魔族はもう戦勝ムードに沸いているようで、基本的に四天王は積極的に自ら前線に出て戦うことはせずに、魔将と一般兵に任せており、作戦も「手当たり次第に楽しく人間を狩っていきましょう」的な感じだ。
四天王の居場所と魔族の作戦も聞き終え、一応他の情報も聞いたが、大した情報は無かった。
しいていうなら、プルルスにケガを負わせたということで、未だに捜索されている銀髪の女が気になったぐらいである。
銀髪は、異世界ではありふれた髪の色だ。だが……四天王に怪我を負わせられる人間で銀髪というのは思い付かない。ヒロインには銀髪はいなかったので、尚更だ。
銀髪の女で強いといえば、第一部のボスだったレーツェル・フォン・ベルクラントが挙げられるが、死んだ人間を数えるのは違うとブレイブは真っ先に除外した。戦争が集結した時期にレーツェルは真主人公君達によって討たれて、死んだ話は一気に広まり、『ユーレン』でも話題になっていた。
何にせよ、魔族は死体をまだ見つけれていないということは生きている可能性がある。……四天王と戦える戦力なら、出来れば生きていて欲しいものだ。
――――――――――――――――――――
尋問が順調過ぎたので疑って、何度も脅したが、結局同じ答えだったので、多分正しい情報の筈である。そして、情報のお礼に、死の恐怖を抱く間もなく一瞬で殺してあげようとブレイブは決心していた。
――――が、
「……この化け物め」
ブレイブは、魔将が悪態をついているのを聞き逃さなかった。
魔将は物理的に攻撃が効かないからと、言葉の暴力を浴びせかけてきたのだ。これが、原作ブレイブ君なら化け物扱いされたことに、傷ついたことだろう。
だが、転生ブレイブは違う。ショックよりも、怒りが湧いてくる。
「化け物……だと? 俺が? 」
目の前の魔族は顔を青ざめているが、構わず睨む。
ブレイブはまだ誰一人として人間を直接手に掛けたことがない。自分の力があれば、王国と帝国の戦争にでも参加すれば、適当に木の棒でも振っていれば敵を虐殺し、死体の山を作れたことだろう。成り上がりなんていくらでも出来た筈だ。
しかし、ブレイブはスローライフを選択した普通の心を持った人間である。
化け物とは罪悪感も無く、楽しんで人を殺す――それこそ魔族のことを言う。平穏を求めているブレイブが化け物な訳が無い。化け物に化け物呼ばわりされるのは、非常に遺憾である。
その上、
「ひぃ……!?」
魔将は怯えた顔で、ブレイブを見上げてきた。
これでは、まるでブレイブが悪いことをしているように見える。
ブレイブは、目の前で怯える魔将を可哀想とはちっとも思えない。ただの被害者ぶっている屑だ。
「何故、そんな酷いことを言うんだ?」
「……すまない。仲間を、一方的に殺されたんで……つい、言ってしまったんだ。
あ、謝るから今回だけは見逃してくれ……!!どうか聞かなかったことに!! もう言わないから……頼む!!」
なるほど、この
――だが、まぁこちらも失言を許さないことに変わりはないが。
「仲間を殺された、か。
じゃあ、そもそも魔族が攻めて来なかったら良かったんだ」
そう――魔族が攻めて入ってくるからこんなことになっているのだ。魔族が攻めてこなければ、こちらの人が死ぬこともなかったし、ブレイブのスローライフはずっと続いただろう。
先に攻撃してきた魔族側が悪いに決まっている。
この終末世界になったのは、ブレイブも悪いし、真主人公君も悪いし、そもそも一村人に過ぎない勇者一人に世界の命運を託している情けない国も悪い。
だが、一番悪いのは、侵略してくる魔族だ。
そうだ。優しく殺してあげる価値なんて魔族にはなかった。
「元々生きて返すつもりなんかなかったけど……やっぱり絶対殺す」
ブレイブは、そう魔将に聞こえるように呟いた。
「――な!? どういうことだ!? 元々生きて逃がすつもりがないというのは!?」
魔将がギャーギャー喚いているが、関係ない。無視だ。
害獣を捕まえたら、駆除が基本である。
「フザケルナァ!? 俺は情報を吐いたというのに――」
魔将は何か色々言っていたが、どうせ罵声の類だろう。
そうだ! 最後に魔将の言っていた通り、融和――友達になってあげよう。
なにせ――――ボールは友達だ。魔族相手でも、ボール枠としてなら友達になってあげてもいい。
「サッカーをしよう。――お前ボールな」
「何を言って――」
言い終わる前に、ブレイブは魔将を蹴り飛ばす。トマトが潰れたように周囲に青い血が飛び散り――最後に生き残っていた魔族が死に、魔族の集団は全滅した。
――――――――――――――――――――
行くべき目的地は分かった。あとは向かうだけ。ただ――少しだけ、先程の魔将が言った、化け物という言葉が耳に引っかかった。
……考えたくはないが。
そう例えば、だ。例えば、人間に化け物と言われたら、どう反応してしまうのかを少し考える。
よくある展開だ。力を持った勇者が恐れられるのは。
果たして、ブレイブは前世で漫画で読んだ心優しい勇者達のように心無い言葉に、心を痛めながらも、我慢して耐えることが出来るのだろうか?
それとも――
色々考えてみたが、結局……その時になってみないと分からないという結論が出ただけだった。
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