第二十四話 犠牲者第一号となった可哀想な狼さん達



 『ユーレン』を出て、約一時間。

 街からは十分離れた。後ろを振り向いても、街はもう見えない。すれ違う人も少なくなった。 


「――そろそろいいか」

 

 今歩いている道――馬車もよく通る人の手が行き届いている道から離れ、森の中へと、邪魔な草やら枝やらを掻き分けながら入る。


 そして、そのままさらに奥へと進んでいく。





 森に入ってからも、十数分歩き。

 周りに人がいないことを確認し、荷物を地面に置いて、一休憩。

 鞄の中から、水を入れた皮袋を取り出し、喉を潤した。


 その後――鞄に入れていた、も取り出す。

  

 

 

 森の中に入った理由――それは変装する為である。

 人が通るような道で着替えて、変装するところを誰かに見られたら、変装する意味が無い。 

 

 俺は――“正体不明の魔族殺し”的な存在を目指す。


 まぁ問題もある……俺は、今まで変装をしたことがないのだ。(当たり前だが)

 つまり、経験0。……上手く変装が出来ているかどうか、まったく自信が無い上、変装をすることにもやや抵抗感がある。仮面とか付けるのなんか恥ずかしいし。


 それでも…………顔バレしながら魔族を倒す方が嫌なので仕方がない。


 人――一般人にバレた場合でも、たとえ黙っといてくれと頼んだとして、口を滑らせる奴が出て、噂として広がるだろう。そうでなくとも、彼等は魔族に人質でも取られたら、ペラペラと知っている俺の情報を喋ってしまうだろうことも目に浮かぶ。貴族だったら……弱みを握ったとかで脅してくるとかしてきそうだ。

 

 まぁ、変装以外にも……一応手がないこともない。

 ルミエラに手伝って貰い、ここ一年の間に光の応用で、光学迷彩――透明になる魔法は使えるようになったのである……しかし、さすがに常時使い続けるのはしんどいのと、何かの拍子に人前で解けてしまった場合、普通に詰むから却下した。



 

 

 まず、顔を隠す為の仮面。これは、かつて俺がお土産として買った、“ジェイソン”風の仮面だ。

 

 最初は、防具としても使える騎士の兜を考えていたが……絶対暑苦しそうなので止めた。前世で、体育の授業でやった剣道の時間に着けた、頭の防具ですら暑くて仕方なかったのに……あれの金属バージョンとか、終わってる。

 

 ジェイソン風の仮面は、買い取って貰えなかったので、棄てるのもあれだなぁって感じで、処理に困っていたところだし、丁度良かったと考えよう。せっかくだし、使わないと。

 ジェイソン風の仮面を付け――後は、髪の色も隠すために、深いフードのついた黒ローブみたいなのを着て――、


 はい――完成。

 

 丁度、水たまりがあったので、自分の姿を確認してみる。


 ……。


「……前世だったら、これで街歩いたら職務質問一直線だな」


 水たまりに写ったのは――自分でも少し引くぐらい立派な不審者だった。何人か殺ってそうな見た目で、実に不気味だ。


 ……やり過ぎなような。これ、騎士とかと出会ったらしょっぴかれるんじゃね?

 怪しい奴め! みたいなこと言われても、何も言い返せないぞ。


  

 いや、うーん。


 でも……これ着けて戦ってたら、勇者とは思われないだろうし……。



 

 ――まぁ、いっか。

 

 気味悪がられるかもしれないが、俺が求めているのは人々の賞賛とかではないので、距離を取られていいかもしれない。 




――――――――――――――――――――――

 

 

 水たまりにうつる自分の変装に気を取られていた俺は――、


 ガサッという音がしたので、周りをキョロキョロと見渡し。

 

 20mぐらい先にある草むらで、いくつもの影が動いたことで、ようやく自分が魔物に狙われていることに気付いた。

 

 こちらが気付いたことに、向こうも気付いたのか、威嚇するように唸りながら、草むらから2mぐらいの大きさの頭から角のような物が生えた狼の魔物が出てくる。

 

 しかも……それと同時に、合計で五十匹程の数の狼が俺の前後左右、あらゆる方向に展開していた。


 ――参ったな。全然気付かなかった。

 昔は、魔物が脅威だったので気配には敏感だったけど。魔物よりも強くなってからは、そこらの魔物には何も感じなくなってしまった。

 

 でも、囲まれるまで気付かないってのは、少し反省するべきだな。溜息をついて、一瞬目を閉じる。


 

 そして、その一瞬を隙と捉えたのか、真っ正面にいる狼が口を開き。鋭い牙、そして強靱な顎で以て、俺を噛み殺そうと飛びかかってきた。


 人間より大きい肉食獣が飛びかかってくるとか、前世なら悪夢だな。


 なんて呑気に考えながら、大きな口を開けて、涎を垂らして向かってくる大狼の顎に向けて、ジャストミートで、右足を蹴り上げる。

 

 下顎骨を蹴り砕く。――と、共にさらに頭蓋骨も破壊。内部の大切な脳もごっそりと破壊する。

 

 手応え有り。

 ――狼の頭は、消失。

 中身はぶちまけられ、草を青色に染めた。

 そう青色。魔物と魔族の血は青色だ。

 


  

「「「――――ッ!!」」」


 仲間の呆気ない死に、怒っているのか、悲しいのか、吼える狼達。


 こちらを警戒しているようで、こちらが一歩歩み寄ると、向かい合う狼は、後方へと一歩下がる。


 立場は逆転した。

 狩る側と狩られる側の立場が。


 と、狼の群れの中でも一体だけ他よりも大きな個体。おそらくボスが、遠吠えのような雄叫びを上げた。


「――ウオォォォーン!!」



 ――そして、雄叫びを上げたボス狼は、すぐさま俺から背中を向けて逃げ出し、同時に俺を取り囲んでいた狼達も、一斉に四方八方に逃げ出す。

 ――撤退の合図だったようだ。


 判断が早い。これには、某師匠キャラの人もニッコリすることだろう。

  

 生き残る為に全力で逃亡しようとしている。でも、残念ながら逃がすという選択肢はない。

 

 

 まずは――背を向けている大きいボスっぽい狼。

 大きく地面を蹴り地面に穴を開けながらも、ぴょんとジャンプ。あっという間に、逃亡しようとするボス狼の真上に。


 そして、落下。頭を踏みつけた。


 それで、おしまい。あっさりとボス狼の命は、終わりを迎えた。頭部が無いのだから、動くことはもうない。青いシミになった。



 群れのボスを失った狼達はもう烏合の衆。キャインキャインと鳴いて混乱しているので、蹴り飛ばし、殴り潰し、最終的に一匹残らず処分した。

 


 そういえば……魔族にばっかり気を取られてたけど、魔物も群れを作っているんだったなー。

 ――『ユーレン』周辺の魔物をなるべく掃除しながら行くことにするか。 


 



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る