第二十三話 さらば『ユーレン』



「……食糧よし。武器もよし。

 ――行くか」


 肩には、長持ちしそうな干し肉等の食糧と飲料水を入れた皮袋をいっぱいに詰め込んだバッグをかけ。腰には、武器屋で買った騎士が使っていた中古の剣。あと鉄製の棍棒。

 これらが、手持ちのお金と今まで買って宿に放り投げていた大量の思い出の品を売り払ったお金を併せることで購入した旅のセットである。


 当たり前だが……長持ちする保存食の類は終末化しかけたこの世界において需要があるようで、足元を見られて、随分と高くついた為、思っていたよりもお金を食糧で買うために使う羽目になった。


  

 だが、武器の方は意外と安く買えたのでセーフ。

 最初に入った武器屋は、普段よりも二倍ぐらい高く売られており、食糧を買って減らした手持ちでは、大した武器は買えないかもしれないと少し落ち込んだのだが、めげずにいくつかの武器屋をまわってみると、とんでもない安値で売っている店が何店舗かあったのである。

 

 だが、安いのには裏があるかもしれない。不良品とか、曰く付きの武器かと思ったので、安売りしている武器屋の主人に尋ねたところ、高値で売っている武器屋は、まだ商売を続ける人達で、今こそが売り時! と判断して、商売魂逞しく、値をつり上げているとのこと。


 反対に、安売りしている武器屋は、廃業し、『ユーレン』を離れて、南の街に逃げるつもりの人達のようで、かさばる上に重い武器はこの街にいる内にとっととお金に変えて、荷をなるべく軽くしたいらしく、相場が荒れているようである。


 ――もちろん安売りしている店の方で剣を買った。オマケで、安い武器からなら、一つ好きなのを選んでいいというので、鉄製の棍棒を貰い、剣と棍棒の2つの武器を手に入れた訳である。

 

 ちなみに……騎士の剣は武器屋に何本もあった。

 なんでも、中央地域の騎士達が、魔族に勝てないと悟り、落ち武者のように南へ南へと逃亡していっているらしい。

 その際に、戦う気力もへし折れられたようで、武器も手放していくそうだ。

 ……騎士の誇りとやらはどこにいったんだろう…… 剣と一緒に置き去りにしたのか?

  

 まぁ何にしても、安く買えたので良かった。



  

 ――最後の出来事さえ無かったら全ては完璧だったのに、とも思うが。

 

 最後……立ち寄ったものの、値段が釣り上げられていた為、買わずに出た武器屋の店の店主の一人が、俺が買った後に安売りしている武器屋に来て、転売してがっぽり稼げる風なことを言いながら、ウヒウヒ笑って、武器やら防具を大量購入して買い占めをしていたので、つい物申してしまったのだ。

「世界が滅びかけているんだから、戦っている人が少しでもいい武器や防具が使えるよう、安くしろとは言わないが、それでも普段通りの値段で売ってあげればいいのに」、と。

 そう言ったところ、奴はこう言った。

 「ふん。商売の絶好の機会を見逃す奴があるか。人類が滅ぶ? 馬鹿馬鹿しい。どうせ誰かが倒す。今までだって、そうやって人類はなんだかんだ生き残ってきた。俺達、優秀な商売人は、魔王が倒された後の未来を見据えているのさ」ってな。


 つい笑ってしまった。

 この期に及んで、あいつは――商売魂逞しい武器屋共あいつらは、まだ魔王を誰かが勝手に倒してくれると呑気に思っているらしい。目の前にいる勇者は四天王ぐらいは倒そうと思っているが、もう魔王は無理だと諦めているというのに。

 本当に……傑作だな。

 

 未来を見据える?……少なくとも、俺は今、仮にこの街が魔族に襲われたとしても、見捨てる……とは言わない。目の前で死なれたら俺の後味が悪いし。ただお前を助ける優先度は一番下だぞ。――

 悪いけど、平等に助けるなんて理念を持っていないんだ。私情を持ち込んでしまうタイプなんでね。


 

  

 …………そんな感じで、優先順位が決まったりしながらも、準備は完了。今から、街の出入りする門へと向かう。

 『ユーレン』から出て、帝国にいると思われる玲瓏のカエルレウムを始末する為に。




――――――――――――――――――――

 


 

 歩くこと10分。『ユーレン』の門が見えてきた。


 いつもは、出入りする人はそんなにな門なのだが……近付くにつれて、普段とは違う異様なことになっていることが分かる。



 街の門の前には、見渡す限りの人、人、人。あと、馬。

 大勢の人間と何十台もの馬車が門の前にいた。

 

 人が多ければ、その分、会話する人も出てくるし、騒がしくなる。 

 そんな中、一際響き渡る音――馬車の御者達が大声で客寄せをしていた。

 

「この馬車は最南の街『アウステル』に向かうぞ!

 少しでも長生きしたい奴はこの馬車に乗りな! 今なら、安めにしてやる!」


 他の馬車の御者も負けじと声を張り上げる。


「うちの馬車は高いが、Aランク冒険者のガルドさんを護衛として雇っているぞ!」


 冒険者という護衛がいることの安全性を伝え、対抗。

 危険だが、安いか。安全だが、高いか。究極の二択だな。


 というか……ガルド……? もしかして真主人公君にざまぁされたガルドさんじゃないか! ざまぁされたその後は知らなかったけど、生きていたのか!


 ……うん、ぶっちゃけどうでもいいな。


 馬車を使う予定もないし、ガルドさんのお世話になることはなさそうだ。


 王国から帝国への道は、何ルートもある。 

 以前、セリャドの祠がある『スラン』に行った道でも、ベルクラント帝国に行けはするが……橋は架かっておらず、船で向こう岸まで送ってもらわないといけないので、今も船を出してくれる人がいるか分からない以上、避けるべきだ。

 それに……ユースティア王国の中央地域がどうなっているのか確認しておきたいってのもある。


 という訳で、今回、帝国への行き方として考えているのは、この街『ユーレン』から真上に進んでいき、中央地域の様子を軽く見た後、中央地域に架かる王国と帝国を繋ぐ唯一の橋――ルゥリエ大橋を渡って、入るルートである。


 

 ここには、中央地域(地獄)に行く馬車はどう考えてもなさそうだし、用はないので、パパっと列の合間を縫って、『ユーレン』から出た。





 

 青々とした木々が生い茂り、小鳥の囀りも偶に聞こえてくる、大自然を味わいながら、一人で道を歩く。

 それは良いんだが……南に向かっているっぽい馬車と何度かすれ違ったが、その際に中央に向かって逆走している俺を、馬鹿な奴でも見るかのような目で見てくるのは勘弁してほしいなって思う。


 今は、南に逃げるか、街に籠もるかが集団心理。そんな中、集団心理から外れて、一人中央地域へ向かう俺――なんか間違ってるような気がしてきて嫌だ。


 ……そんな目で見られると、俺も南に逃げたくなるじゃんか。



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る