第七話 カインside2
「久し振りだな、ブレイブ。
まさかこんな王国の中央部から外れた街にいるなんて思わなかったぜ」
そう声を掛けた俺に、ブレイブはただ一言、
「……あぁ、久し振り。」
――――とだけ返してきた。
顔は無表情だ。久しぶりの再会だってのに、その表情からはまるで何の感情も読み取れない。
(まぁ、村ではほとんど関わりもないし、そんなもんか)
そう納得した俺は、突然の再会だったので何を話すか迷ったが、無難に景気話でもすることにした。
「ギルドにいるってことは冒険者なんだろ? 調子はどうだ?
ちなみに俺は、村を出てから色々成果を上げて、もうAランク冒険者に成ったぞ。今、ここにいるメンバー以外にもまだまだたくさんの仲間が居て、パーティー名は“ワールドブレイカー” って名前だ。カッコいいだろ」
「「「ワ、ワールドブレイカー……!? 」」」
俺がチーム名を言った途端、ギルドでこそこそと聞き耳を立てていた、原作に登場すらしていないモブ共が一斉に騒ぎ始めた。
「そのチーム名って……最近、オーガを倒したっていう超新鋭のパーティーだろ!?」
「いや……それだけじゃねぇ。噂によると、貴族の令嬢や騎士なんかもメンバーに入っているらしい……!」
「貴族ってマジかよ……あいつ自身もたしか凄まじいスピードでAランク冒険者にまで登りつめたって聞くし……そんな大物がこんな田舎の街に一体なんの用だ……?」
モブ冒険者達が俺と俺のパーティーを賛美しているのが聞こえる。
そう――原作の一部を終わらせた時、俺は異世界で相当名が知れ渡った有名人となった!
俺だけじゃなく“ワールドブレイカー”も実力者が沢山集まった最強のパーティーとして王都はもちろん各地でも有名になっている。
パーティー名を“ワールドブレイカー”、と名付けた時には、少し中二病臭いかな? と思ったが、この世界には中二病という概念なんか無い。みんないい名前だと褒め称えてくれたし、今世は何もかもがうまく行く、やっぱり異世界は最高だ。
もちろん名前に深い意味なんてなく、仲間にチーム名を聞かれたから、その場で即興で考えて言ったんだが、今では少し気に入ってたりする。
さすが俺って感じだ。ネーミングセンスが冴えわたってる。
はっ、それにしてもギルドのモブ共からの羨望の目は気持ちいいぜ。自分が特別な存在だっていうことが実感出来る。
ブレイブもこの情報にはさぞ驚き、そして劣等感を感じる筈だ。同じ村で同じ時に旅立った人間があっという間に手の届かない存在に成り上がっているんだからな。
そう確信した俺は、モブ共からブレイブへと意識を戻し、どんな負け惜しみを言うのかを期待した。
ブレイブは口を開くと、
「あぁ…………うん、すごいね」
それだけ言うとまた黙った。
…………は? それだけ?
おい…………もっと驚けよ、悔しがれよ!
「カインさんにはとてもとても敵いません……能無しの僕にとって、同じ村に生まれたことだけが誇りです」、とか言って俺の引き立て役になるのがお前のやるべきことじゃないのか!?
それを何スカしてやがるんだ!
こんな王都からかけ離れた田舎にいる雑魚冒険者の分際……で………………………………。
――――いや、待て。そういうことか?
ブレイブは、原作において村から出てからの約二年で、人類最強となって世界を救った才能の化け物だ。原作なんて関係なしに、冒険者をしている内に、その才能を開花させていれば、Aランクか、それに近いランクの冒険者になっていてもおかしくはない。
もしかして実は、俺に並ぶ程に有名な冒険者なのか……? くそ、分からない……!
俺は、女の冒険者にしか興味が無かったから、野郎の有名な冒険者なんか全然調べていないんだ!
何しても……気に食わねえ……!!
俺はブレイブを叩きのめすことが出来る案を考えることにした。
そんな時だった。
――ボロボロの冒険者がギルドに飛び込んで来たのは。
顔色が酷く悪く、肩で呼吸をする冒険者は、なんとか息を少し整えると、
「た、大変だ! はぁはぁ………………た、たくさんだ……沢山の魔物の群れだ!!
山から魔物の群れがこの街に向かってきている!!」
と、悲鳴をあげるようにして、そう叫んだ。
そしてそれと同時に鐘の音が何度も聞こえた。
街の真ん中に設置されている鐘が鳴っているのだ。
鐘はどの街にも基本ある。警鐘として。
鐘を鳴らすのは、魔物といった街の脅威に対する緊急連絡みたいなものと考えていい。
つまり、さっきの冒険者の言うことは本当のことだと見るべきだ。
ギルド内はざわつき始め、冒険者達も顔を俯かせている。情けねぇ。
「……くそっ、またか」
「しかも群れ……統率している強い個体がいると見て間違いないな」
「最近はとうなっていやがる!?」
普段なら面倒くさいことが起きることを知らせる不吉な鐘の音……だが、今の俺にとっては幸運が舞い込んできたことを知らせてくれる素敵な音だ。
(くくっ……やっぱり今世の俺は本当にツイてる)
「みんな安心してくれ!
魔物の群れの討伐は俺達のパーティー“ワールドブレイカー”が請け負った!」
俺はそう宣言した。
このタイミングでの魔物の群れ……まさにグッドタイミングって奴だ! ここで白黒つけてやる!
俺はブレイブを――――ざまぁ、する!
奴はこの街のトップの実力者の筈……まがりなりにも世界を救える程のポテンシャルを持っているんだし、それぐらいは余裕でなれるだろう。
そんなブレイブに、この街の奴らは、今回の魔物の群れを倒すことを期待しているに違いない。
そこで、だ! 俺がその魔物を先に倒す!
俺の計画を説明すると――――、
魔物を俺がさっさと倒す→俺は賞賛され、ブレイブは何やってたんだ、と非難される。
ブレイブなんかより、この俺がいてくれたら良かったのにな、と言う奴も現れるだろう!
そしてブレイブは居心地の悪さからくる焦りと俺への嫉妬で、功績を求める。果てには、勝てないような敵に挑んでこっぴどくやられて、失望されていくという負のルーティーンだ!
そのブレイブが勝てなかった敵が、手を出されたことに怒って街を襲ってきてくれたら、さらに完璧! それを俺が倒して、ざまぁは完了する!
―― なんて最高の計画なんだ! 嫌いな奴を踏み台にして潰し、尚且つ俺の名声にもなるという二度美味しい計画!
潰してやるぞ、ブレイブ!テメェはもう主人公じゃないってのに、成り上がろうとしやがって!
モブになったんだから、そのまま落ちぶれてろ!
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