第八話 普通の人間



 魔物の群れによる街への強襲。


 ――そんなことが一年の間に何回も起きるようになったのは五年前ぐらいからだと『ユーレン』の人達に聞いたら、彼等はそう答えた。その前はこんなことは三年に一回起きるかどうかだった、とも。

 当然といえば当然だ。魔物だってそこまで馬鹿じゃない。人間がアホみたいにいる場所に襲いかかれば、命を失ってしまうことぐらい理解しているだろう。

 所構わず、自分の命を度外視して特攻するような生き物が、ここまで滅んでいない訳がないのだ。


 

 続いて――これに関してどう思っているの? と俺は聞き込みをした。 

  

 それに対してのだいたいの答えは、始めの頃はおかしいとは思いつつも、冒険者や騎士が守り切って街に被害は及ばなかったので、そこまで深刻には捉えていなかったらしい。

 例えば、魔物同士のテリトリーの奪い合いが起きて生態系が狂い、安定するまでの数年間、住処を追われ餌に困り、飢えた魔物達が数回に渡って、街を強襲したという事例ならいくらでもある。

 そんな前例もあったため、今回のものも時間が経てば収まる程度の事態だと思っていたみたいだ。


 この世界では、常日頃から危険は溢れかえっている。盗賊に、魔物――――命を容易く奪ってくる存在は身近にいるのだ。多少のことに気を揉んでいたら、やっていけないということだろうか? 俺もその精神性を見習うべきかもしれない。

 

 

 しかし、それがこの大陸全土で起こっている(ここ最近などは特に1ヶ月に一回ペースで起きるまで頻度が上がっている)、大陸スケールでの話となれば、話は変わってくるようで、さしものタフな精神を持つ異世界の人々もここまでの異常事態はさすがに体験したことがなかった為、これからとてつもない不吉なことが起こる前兆なんじゃないかと不安を感じているという。



 この二つの質問を街の人にしたのは…………まぁ、なんとなく、という他ない。遠くない未来に起きる絶望の前兆に対して、漫画では描かれてない一般の人はどう思っているのだろう、と気になっただけだ。

 


 

 ――――この異変は転生前の漫画で説明されているものだった。

 魔王が封印から解かれようとしている前兆で、魔物が活性化しているのだ。





 


 さて――――街でそれなのだ。十全に兵や武器が整っている街がだ。

 おかしくないと思わないか?


 ――俺が育った村が無事なことに。



 正直ぶっちゃけると、いつ滅んでもおかしくない状態だった()

 原作で存続していたのは、奇跡だと思ってる。

 村なんてあっさり滅ぶからな……



 そんな村が、この世界で無事なのは、俺が幼少期から魔物を狩って食べて、魔物の数を減らしていたからだと思う。

 ちなみに言っておくが、好き好んで食べていた訳ではない。ただ単に飯が食べれない時があったからだ。

 畑が不作の年は必然的に親という村との繋がりが無い俺の飯が削られて餓死しかけた……。もしかしたら口減らしをしようとしたのかもしれない。

 捨て子を哀れんで拾いはしたものの、人間追い詰められれば綺麗事も言えなくなる。自分の子供でもない、どこの誰とも分からない子供にまで恵む余裕は無かったのだろう。


 ――まぁ……納得出来る。思うところが無いわけじゃないが……俺だってそっちの立場なら見てみぬ振りをしただろう。

 

 余裕が出た頃にふと原作のブレイブ君は何で生き残れたんだろう、と悩んだ事もあったけど、アリシアが真主人公君を家に誘ってご飯を食べているのを見て、本来ならアリシアと仲良くなって、アリシアの親がご飯を分け与えていたんじゃないかなと考え着いて、すっきり解決した。別の意味でもやもやしたが……


 まぁこの世界において俺とアリシアは他人だから、ご飯なんて貰えなかったけどね……。真主人公君もそんな所まで成り変わらなくてええんやで……?

  

 最初の狩りの時はもちろん魔物が怖かったが、そうも言ってられない極限状態だったので、恐怖をごまかして狂ったように魔物をひたすら殴りまくり、貪り食った。

 自分よりも弱いのだと分かれば後はただの肉。

 味を占めた俺は、それからも魔物を食べて十分な栄養が取れるようになったって話だ。今では、魔物を殺すことに慣れてしまった。良いことかどうかは分からないが……


 やっぱ異世界は弱肉強食なんだなぁ……力が無いと何も出来ない。


 で、村から旅立つ数年前から、魔物の数が一気に増えていった。ほんと、なんで原作では無事だったんだろ……この村。

 おかげで俺はたくさん食べて毎日お腹いっぱいだった……というか食べきれなかったぐらいだ。


  今でも、村が無事なのかは知らないけど、一応

村から旅立つ日の前日に、村周辺の半径十キロにいる魔物は一匹残らず始末した。

 俺からの最後の恩返しというやつだ。

 だから……当分は大丈夫だろうけど……魔物だって新たに移動してくるからなぁ……まぁ、もう独り立ちした俺にはもう気にしすぎても仕方ない。 

 拾われたお礼に、村を魔物から何度も助けた。

 これで十分恩返しを出来ただろう。



 俺は村の人達と同じように、余裕があったら人を助けようかなってぐらいにしか思わない“普通の人間”だ。故に……到底、主人公が務まる人間ではない。



 

 

 

 

 真主人公君が、なんかギルド内で宣言した後にパーティーを引き連れて飛び出していき、冒険者達はその突然の行動に驚き、しばらく固まっていたが、ギルドの職員達が指示を出し始めて、出遅れながらも街の防衛戦が始まった。


 ……それにしても、真主人公君が真っ先に飛び出していくのは意外だった。原作の真っ直ぐな心を持ったキャラ達と関わっていく内に、正義にでも目覚めたのかね?

 だとしたら、やっぱり主人公に相応しいのは彼だ。

 さすが、世界の命運なんて俺にはどれほど重たいのか分からない程、重いものを自分から背負いにいった男だな。





 

 それから数時間経った。 


 真主人公君含めた高ランクの冒険者達が最前線で頑張っているのだろう。歓声だけがたまに聞こえてくるのでただの予想に過ぎないが上手くやっているようだ。まぁ、その場にいない俺には正確な戦況がどうなっているのかも分からない。

 俺は俺に割り振られた仕事をこなさなければならないのだ。


 そう――――包帯とかを運ぶ後方での支援という仕事を。

 

 え? 戦わないのかだって?

 俺はまだDランク。新米をギリギリ脱出したペーペーだ。そんな俺が前線でバリバリ戦えなんてギルドが言う訳がない。無駄死にする奴が沢山出るだけだ。

 俺と同じように実力を隠して、低めのランクにいる人なんてまずいないのだから。



  


「おーい、その荷物はこっちだ!」


 そんな声と共に、突然肩を軽く叩かれた。


「うおっ……!?」


 そんなことをぼんやりと考えながら脳死で働いていた俺は、気づかなかった……。ビックリしたぁ。

 肩を叩いてきたのは、兵士の一人。ギルドの下ランクの冒険者達を指示して、支援物を運ばせている。


「はい、今すぐ運びます!」


 そう返事をして、俺は仕事に戻った。

 




 


 さらに数時間が経ち、俺が補給の仕事に飽き始めた頃、

  

「ッ――――!!“ワールドブレイカー”が魔物の群れのボスを倒したぞーー!!」


「「「ウオォォォォォォォォ!!!!」」」


 勝ち鬨が上がった。

 どうやら真主人公君達は無事に勝ったようだ。……少しだけ見てみたかった。どんな風に戦うのかを。


 

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