王道系ファンタジー漫画の主人公キャラに転生したら、村にもう一人転生者がいた~何やら主人公に成り代わりたいみたいなので譲ってあげたら世界が滅亡しかけてるんだが……~
第二十一話 頭では理解しているけど、感情が邪魔をする
第二十一話 頭では理解しているけど、感情が邪魔をする
グレッグさんに別れの挨拶を済ませた後、冒険者ギルドから出た俺は、ひとまず宿へと戻った。
旅に出る前に、やらないといけないことが沢山ある。宿もいつ戻ってこれるか分からない以上、キャンセルしなければならないし。それに伴って、これまで集めた大量の思い出の品も持って行くには多過ぎる為、殆どを売って、そのお金を足しにして、非常食やら今より良い剣を買ったりしようと考えている。
――と、いう訳で現在、俺は思い出の品の片付けに励んでいた。
まぁ、思い出の品といっても………木彫の騎士のフィギュア? みたいなのや、前世の映画のジェイソンの仮面に似ていたので買ったどこかの部族の仮面だとか、精々そんなものばかりなので、生まれた時に買って貰ってずっと一緒だったぬいぐるみとか、特段思い入れのある品物は無く、たしかに少し惜しくはあるが、悩む時間は殆ど掛からなかった。
うーん、それにしても……今見るとかなり珍品ばかりだ。修学旅行で、観光客が木刀や龍が巻き付いた剣のキーホルダーを買うようなノリで買っちゃったんだよなぁ……。
……これ、売っても二束三文な気がする。
――そうして半分の作業が終わったぐらいの時、そんな折だ。
『――ねぇ、ブレイブ。今、話せる?』
ルミエラがテレパシーで話し掛けてきたのは。
片付けを中断し、心の中で強く念じて返答する。
“あぁ、大丈夫だけど何か用か?”
『……良かった。無事なのね。
少し前から、なんか嫌な感じが強くなったから……。もしかしたら魔族関連で、最近何か大きなことが起こったりしたのかと思ったの』
……! 嫌な感じって……いや、光の精霊だし、直感的な何かで分かるのかもしれないな。
情報を共有しとくか。
“――――――という感じで、ユースティア王国もベルクラント帝国も最大の都市が陥落した上に、対抗する組織も壊滅したらしい”
俺が説明を終えると。
『………そう』
無言でずっと話を聞いていたルミエラは、そう一言を呟くと、再び無言に。
テレパシー故に、彼女の顔は見えないので分からないが……複雑な顔を浮かべているんだろうな、と何となく、そう思った。
整理する時間が必要だろうから、俺も喋り掛けず、少しばかりの沈黙が訪れ――――ルミエラが俺に尋ねたことで沈黙は破られた。
『……それで、アンタはこれからどうするつもり?』
尋ねられたのは、今後の俺の行動。
そうだよな……彼女としても、俺がどう行動するかは気になるところだろう。
……どう答えるべきなのか、悩む。ここで、戦いに行くと言ったら、多分否定してくるとは思うが……。
――どうにか説得し、契約まで漕ぎ着けることが出来ないだろうか?
ルミエラと契約出来れば、四天王に勝てる可能性がさらに高くなるだろう。
友達だし、手伝ってくれないか……? とかそんな感じで頼むか?
――――そして……色々と考えている内、
“……どうするって、今まで通り生きていくさ。
これからは、魔族から隠れながらになるだろうけど”
――結果、俺は……“嘘”をついた。
『…………そうね。それがいいわ。
――何にしても、魔族――四天王には気をつけるのよ。
アンタがいくら強いといっても……魔将は兎も角、四天王からは全力で逃げなさい。
……じゃあ、またね。』
そんな注意? いや、心配する言葉を俺に告げ。テレパシーは途切れた。
――――――――――――――――――――
ルミエラとの契約も、聖剣イデアも俺にはかなりキツイ難題だ。
だが、ルミエラとの契約と聖剣イデアは――魔王を倒すのなら必須の力であることも同時に間違いない。
もっとも……この2つの力を得ても、もしかしたら勝てるかもって可能性が産まれるだけで、魔王に勝てる保証なんて欠片も無いっていうのが、本当に恐ろしいところなのだが……。
ただ光明もある――魔王は四天王とは比べ物にならない程強い。それは逆に言えば、四天王ならそこまでしなくてもどうにかなるということでもある。
とは言いつつも心の底では分かっている――とっとと出来うる限りの準備をして、挑むのが最適解だということは。
――それでも……あの時、ルミエラとの契約に漕ぎ着けるのは……正直、無理だったし、嫌だった。
だいたい…… 原作のブレイブはルミエラの過去とかも何も知らなかったからまだいいが……。
……全部知った上でとなると話は変わる。
――――今まで、一年以上掛けて築き上げた友情を盾にして、「世界を救いたいけど、力が足りない。君の過去は知っていて、もう世界の為に魔族と戦うなんて心底嫌だということも知っているけど、そんな事情知らない。俺の義務感からの行動に、命を懸けて手伝ってくれ!」
――と、どうオブラートに包みまくっても、そんなことを言う羽目になる。
だからといって、原作でのやり方も俺には出来ない。
原作では、ブレイブ君の世界をどうしても救いたいという熱意に、かつての勇者に面影を見たルミエラが、先代勇者が封印という不完全な形で未来への負債にしてしまったことに後悔していたことを思い出して、仕方無く、協力してくれていた。
じゃあ、俺が同じ様なことを言えばなんとかなるのか?
――それは無駄だ。純粋に世界を救いたいという思いでもなく、義務感でなんとなしにやっているのだから。
俺が世界を救いたいと語ったとしても、薄っぺらいものになるのは明白だ。
そして――
俺自身、こんな非常時に、心配して声を掛けてくれる、片手で数える程しかいない友人の一人にそんな厚顔無恥なことはしたくない。
グレッグさん然り、今、この街に住む普通の人でもやっている親しい存在を守る、ということさえも放棄して、友人の命を自分の都合で利用するようになったら、人間として最低最悪だ。
ルミエラとの契約は無理で嫌。なら――聖剣イデアはどうか?
正直、こっちも最悪だ。……俺が真主人公君に譲った理由の一つだし。
原作でも、聖剣なんて重要な物があっさりと手にできるなんてある筈もなく……当然困難が待ち構えていた。
その困難が問題だ。
単に、強い魔物がいる、とかであればなんとかなるかもしれない。
ただ……あれは……人間の業の深さ――ルミエラが封印されることとなった過去と向き合うことになるんだが……
突破するには――絆や愛とかの力がいるのに、ヒロイン等の仲間がいない中……どうすれば……。
あと、
でも……
……カエルレウムを実際に見て、行けそうならそのまま倒す……そして、僅差だったら――仕方ないよな。あれもこれダメ、これもダメなんて全てを否定してても意味が無い。
――最悪、聖剣を取りに行くことは考えとこう。モチベーションが死ぬかもしれないけど。
本当に……俺は、勇者に向いていないな。
田舎で、何の責任底辺冒険者をやっているのがお似合いだと自分でも、思う。
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