暗躍の保安舞隊

紺崎濃霧

第一章 姉妹編

プロローグ ―時代の流れ―

 西暦2028年:首都 出川。とあるビルの一角。

「ねぇ、黒田くん。」

一人の男が声を掛けた。年は若く、高身長。白い長袖ワイシャツに紺のネクタイ、黒のズボンをベルトでしめていた。ワイシャツに付けてある名札には、「SB財閥 春野 奈緒はるのなお」とあった。

 黒田くん、と呼ばれた男は春野の方向を向いた。体系はがっちり。黒縁の四角い眼鏡に、春野と同じような格好をしている。名札には、「SB財閥 黒田 俊樹くろだとしき」とあった。

「会議は一時間と三十分後に近衛財団このえざいだんと。その後は年末商戦の企画会議を第一ホールで行いますぁーよ、トップ。」

黒田は何も聞かれていないのに答えた。

「流石! よく分かってる。」

春野もこの対応ぶり。二人はかなり親交が深いよう。

「で、何です?」

黒田はウォーターサーバーからコップ一杯水を取り、飲んで捨てた。

 しばらくの沈黙の後、

「黒田くんはこの国に、この世界に、人類以外の高度な知能をもった生命体がいると思うかい?」

春野は部屋の窓から下を見下ろしながら黒田に聞いた。

「また空洞説の話か? それとも空上人か?」

黒田は即答した。更に続けて、

「大体、反重力や永久機関、フリーエネルギーの仕組みを見つけっちまったこの人類に、そんなものを見つけられていないとでも言うのか?」

 黒田は春野に聞いた。春野は少し考えて、

「ううん、確かにこの星の科学力の発展するスピードは過去最速を更新し続けている。反重力が初めて発見されてから二十五年なのに、それを応用した交通機関網の発展、永久機関の解明、フリーエネルギーを使用した発電の実用も始まった。更にはテレポーテーションの実験が開始されたこの時代に、そういうのが発見されていないということは不思議だよね。」

春野は言った。何処かせつなそうだった。

「シンギュラリティがあったのが三十五年前、人類が負けたあの日から。だったな。」

黒田は言った。

「青は藍より出でて藍より青し。の筈だった。誰もがそう思っていた。けど、人類も発展した。ひとつの矛盾だよね。」

春野は言った。

「だから、人類以外に知的生命体は居ません! 残念でしたー!」

黒田は嬉しそうに棒に言ったが、春野は顔を神妙にして言う。

「じゃあ、昔は?」

しばらく沈黙が続いた。

「こいつはこんなにも都市伝説を信じっちまってよぉ……これでも財閥のトップか……」

 黒田は片手を頭にかかえて、呆れて言った。

「おい!」

春野は黒田の方向を急に振り返った。

「まぁ、都市伝説かもしれない。嘘かもしれない。けどね、この財閥、そしてこの帝国が、ここまで繁栄した理由を、僕は知っているんだよ。」

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