第13話

 テリワドが用意した避妊薬はテリワドの母親オキソン侯爵夫人が店で扱っていたものだ。


 家族計画は貴族にとって大切である。子沢山すぎては管理させる領地も嫁がせる貴族家も難しい。愛し合う夫婦にこそ必要な避妊薬なので、女性用の店でも扱われていた。

 貴族に人気の避妊薬は女性の体に負担も少ないと評判がよかった。


 まさか自分の息子が友人――リリアーヌ――を売春婦にするために使用していたなど侯爵夫人は考えもしておらず、そのショックも店を手放すことに繋がった。

 同じ学園に通う生徒を売春婦に仕立て上げていた三人に容赦のない冷たい視線が降り注ぐ。騎士たちの力も再び強められた気がする。


「あんたらねぇ!!」


「好きで男の相手していたんだろうがっ!」


 レボールは自分たちだけが悪いわけではないと言いたくて必死だ。声を荒らげてリリアーヌを睨むがリリアーヌは怯まない。


「避妊薬に文句言ってるんじゃないわよっ! 私で金儲けしたことに文句言ってんのよっ!」


「やっていることは一緒じゃないかっ! 間接的にお前の体を守ってやったんだっ!」


「はあ??!! ふざけんなっ! ならその金はあんたらのじゃなくて私のでしょうっ!

寄越しなさいよっ!」


「結局売春を認めるのだな」


 サジルスは小馬鹿にするように言った。


「あんたらが私を売っていたことを認めたのよっ!」


 先程、この婚約破棄騒動の顛末をリリアーヌの名前を出して包み隠さず文章にして全貴族に配られるとエトリアは説明した。その時顔を青くした男子生徒たちはまさにリリアーヌを買った者たちであった。

 彼らはもうこの場にいない。急いで父親に相談しなくてはならない。自分たちの名前は載せられていないことを天に願いながらその場を後にしていた。


「ふんっ! 男とヤルことが好きなくせに」


 テリワドも声を荒らげた。

 リリアーヌは鼻息荒くテリワドに言い返す。


「あんたらも仮面舞踏会に行っては毎回違う女とシケこんでいたじゃないっ!

自分たちのことを棚上げするんじゃないわよ」


「私はそんなところには行ってないっ!」


 セイバーナは慌てて関与を否定する。状況を見ているここの者たちは信じるかもしれないが、噂が出回ると噂を聞いただけの者はそうは取らないだろう。


「やだぁ!」「汚らわしいわ」「羨ましいぜ」「酷いわね」「俺もやっときゃよかったな」


 様々な声が聞こえた。


 元婚約者たちは目元まで扇で隠しているが、頬をひくつかせていた。仮面舞踏会への出入りは聞いていたが、乱交までは聞いていなかった。


 エトリアがサッと手を挙げると野次馬たちは沈黙する。


「見苦しい罵り合いは王城でなさって。若い淑女の聞く会話ではないわ」


 エトリアの一言で騎士たちは五人を立たせて引っ立てていった。


 その後ろ姿にエトリアが優しい声音で声をかける。


「セイバーナさん」


 セイバーナとそれに付き添う兵士が止まる。セイバーナは首だけ振り向いた。


「お酒はほどほどになさった方がよろしいわね。どうやらお酒にお強くないようだから。

それと、人をもっと観察し友人を精査することもお勉強なさって、ね」


 セイバーナはペコリと頭を下げると再び歩き出した。


 セイバーナはテリワドたちに泥酔させられ、真っ裸でリリアーヌとベッドに入れられた。朝起きた時、裸で絡んでいたリリアーヌにびっくりしたセイバーナであったが、朝の元気な状態の時に誘うように触れられれば若いセイバーナには我慢などできるわけもなく、リリアーヌの手に陥落したのだった。

 その一度きりの過ちが約二ヶ月前。セイバーナはリリアーヌの取り巻きもしていない。


 しかし、一週間ほど前にリリアーヌから『生理がない』と言われ、責任を取るつもりでこの事件となってしまった。


 五人が食堂から出た。

 エトリアは出口を向いたまま声を出した。


「アロンド。わたくしも帰城するべきね」


「いえ。大丈夫です。私が戻りまして証言いたしますから。王女殿下はご友人とのお時間を大切になさってください」


「そうね。きっとすぐに次の婚約が決まって。もしかしたら、あと一年の学園生活もできないかもしれないものね」


 婚約相手によってはすぐに婚姻することもあるし、他国ならその国に留学という名の花嫁修業に行くこともありえる。


 エトリアが少しばかり寂しそうに笑い、ヘレナたちは悲しそうに俯いた。

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