第12話

 アロンドは騎士たちに安心しろと、手をかざした。


「王家の護衛術や情報収集力を侮らない方がいいですよ」


 凍えるような低い声になったアロンドにリリアーヌは驚いて動きを止めた。騎士たちはホッとしてリリアーヌの拘束を続ける。


 アロンドは長い前髪の奥にある侮蔑の目をリリアーヌにぶつけてから再びセイバーナに向いた。


「そちらのお三方はテンソー男爵令嬢のふしだらさをご承知の上で貴殿にテンソー男爵令嬢をご紹介なさり、貴殿とテンソー男爵令嬢が肉体関係になりやすい状況を作ったのです」


「なっなっなっ!! なんでっ!?」


 セイバーナは友人と信じていた三人とアロンドとを交互に何度も見た。本当に何も知らなそうなセイバーナにアロンドはため息を漏らす。


「テンソー男爵令嬢が公爵夫人になることを望み、ツワトナ公爵令息は公爵家同士の婚姻を望んだため、他の公爵令息をご紹介するという結論に至ったようです。

紹介する条件は、一つ、ヨネタス公爵夫人になった後でもホヤタル侯爵令息、オキソン侯爵令息、ツワトナ公爵令息との肉体関係は続けること。二つ、婚姻後妊娠した場合、誰の子種であってもヨネタス公爵令息の子種だと言い切ること。

髪色や瞳などは先祖を遡れば一人くらいその色を持っている者がおるでしょうから誤魔化せるとお考えになったようです。

ご自分たちは婚約解消いたしましたが、ご自身の身分を鑑みすぐに次の身分の高いお相手が見つかると思われておいでなのでしょう。

『男爵令嬢を娶るつもりはない』と豪語されているところも証言が取れております」


 セイバーナがワナワナと震え顔を赤くする。

 リリアーヌが男子生徒たちと親しいのは知っていたが、肉体関係があるとは思わなかった。真面目なセイバーナはそんなに身持ちの軽い令嬢が存在することを知らなかったのだ。


「ホントに馬鹿ね。王族にこんなことしてタダで済むわけないじゃない。

どうしてそぉっとやらないのよぉ」


 リリアーヌは恨み言のように呟いた。セイバーナは心ここにあらずで床を睨みつけている。


「お三方に唆されたからですよ」


 アロンドの説明にセイバーナが唇を噛む。


「お三方はヨネタス殿に『エトリア王女殿下はヨネタス殿に執着している』『公にやらないと握りつぶされる』と助言なさったのです」


「はあ? なんのためによっ!」


 リリアーヌが復活! 理由を教えろとばかりにアロンドを睨む。


「ヨネタス殿に貴女を『確実に』押し付けるためですよ。快楽を逃さず責任を押し付けたかったようですね」


「うわっ! サイテー……」


 野次馬から声が漏れたがそれを咎める者などいなかった。


「テンソー男爵令嬢」


「なにっ?」


 三人を睨んでいたリリアーヌは頭も向けずに返事をする。


「貴女はヨネタス殿に妊娠をほのめかしましたね」


 リリアーヌはビクリと肩を動かす。


「だって! そうでも言わなきゃセイバーナは婚約解消しないってこの三人が言うからっ!」


「それは、ある意味正解ですよ。ヨネタス殿からエトリア王女殿下に婚約解消を申し出ることはなかったでしょうね。

しかし、貴方の妊娠を信じたヨネタス殿は責任感の強さゆえ、エトリア王女殿下に婚約解消を認めてもらわねばならないとお考えになったのです」


「そんなバカ。いるなんて思わないじゃん」


 リリアーヌの声は消え入りそうだ。 


「ところで、本当に妊娠なさっているのですか?」


 リリアーヌが下を向いたままで首を横に振る。


 リリアーヌが妊娠していないと知ったセイバーナは啞然とした。

 アロンドは鼻でため息を吐く。


「でしょうね。オキソン殿が用意した避妊薬はかなり強力なものですから」


 アロンドの説明にエトリアは小さくピクついた。だが、ここは口出しをせずにアロンドに任せることにした。


「それは効能も強いですが、料金もお高いのですよ。ですので貴女と肉体関係を持つ時にはホヤタル殿に料金を支払うシステムになっていたのです。余剰分はお三方で分配していたようですね」


「何よそれっ!」


「間接的な売春です」


 アロンドは淡々と説明したがリリアーヌは目を剥いて怒りを表した。

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