幕引きの機巧傭兵

「———どうなったぁ、一体っ!」


 魔女———アルの発した魔力衝撃波、白魔術。

 それに真っ先に包まれたのはヴェリタスの方だが、それとは別にアイドレも少なからずダメージを負っていた。


『モニター、復旧します』



 イドの声と共に映し出されたのは、今まさに地面へと急転直下しゆくアルの姿だった。


「っ、イド! アイドレは動かせるか!」

『フテラ装備、メインスラスター、異常なし。


 いけます』


「っし!」


 聞き届けたルプスは、すぐさまに操縦桿を握り締める。

 同時にアイドレは、落ちながらもそっとアルに近づき、その両腕で体を覆った。


「———死んではない、よな。現に俺は生きてるし」

『魔神力反応、共にあり。一時的な魔力の消耗による気絶と判断されます』


「そうか……


 よし、とりあえず魔女は大丈夫……として、魔洞地脈について測れるか、イド?」


『魔洞地脈———そのように思われる巨大な魔力反応は、数分前にここを移動しています』


「つまり、移送されたか……」




 ———こうしてあっけなくも、ルプスの完全復活計画は潰えてしまった。




◆◇◆◇◆◇◆◇




「ふぇぇぇ…………はっ?!

 こっここ、ここはどこだ?! 今僕はどこにいて、今はそもそも———、」


『オハヨウゴザイマス、アル様』


 起き抜けのアルを出迎えたのは、イドの音声だった。

 ———いや、それと、もう一つ。


「やっと起きたか。……いつまで寝てるのやら。


 もう翌朝だぞ、寝過ぎだ馬鹿」


「はっ……はぁあ?!……馬鹿だってぇ?! この僕が? キミより? 馬鹿だってぇ?!


 僕がいなかったら勝ててなかったのに、そんな言い分で本当にいいのかなぁ〜?」


「別に、俺とアイドレだけでいくらでも戦える。極論を言うならお前は必要ない」


「嘘ばっかし。僕の魔力供給がないと、未だにキミは死———、


 はっ、そうだ、魔洞地脈は?!」


「諦めた。輸送されてたからな、アレは仕方ない」


「そうか………………ぁあ……」


 ここでアルは、ようやくあたりを見渡し、ここがどこかを知る。

 そこは既に、見知ったルプスの家だった。


「ったく、お前の受けた依頼のせいでとんでもない目にあったんだぞ、こっちは」


「でもほら、楽しかったろう? 色々と戦えたじゃないか」


「死ぬところだったがな」

「うぐ」


 事実、今回は本当に絶体絶命だった。よくもまあ、ハレルヤのサポートと、アルの供給が間に合ったものだ。


「……そんなわけで、お前は身をもって知ったろう。


 この地に根付く二大勢力———ランバルス、スルーズの影。暗躍する魔術世界。


 今のところ、勢力図はその3つに分断されている。


 だがまあ、無論俺たちは独立傭兵。どの勢力にも位置せず、どの勢力からも依頼を受け、どの勢力にも敵対でき得る立場だ。


 ……どうだ、中々に面白いだろ? これは」


「はぁ」


 ……気の抜けた返事だった。


「次もそうだな、依頼を受けに行くのはお前が———」


 とルプスが言おうとしたその時、アルの腹の虫が、それはそれは大きな音で唸りを上げ———、


「ちっ違、僕じゃないぞ?!」


「お前以外に誰がいる」


「はぁあ?! そんなわ———」


 しかしまたその時、アルの腹の底から方向が響く。


「あぅう……」


 赤面し、その場にうずくまるアル。

 それを見かねたのか、ルプスはポケットからレメル———通貨を取り出した。


「ほら」

「あい……?」


「レメル。ここらの通貨だよ。

 依頼ついでに、これで何か買ってこい。お前の言ってた牛丼は買えなくとも、パンくらいは買え———」


「ホント?! 牛丼?! それじゃあ行ってきま〜———」


「話聞けっ! このポンコツ!」

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