二大勢力、ランバルス

◆◇◆◇◆◇◆◇


「あった! 俺のアイドレ!」


 魔女がただ一人で啜り泣く中、ルプスはついに、アイドレのある格納庫へと辿り着いた。


 ———が、他の機体は見当たらない。おそらくさっきの襲撃で、出撃しているのだろう。


 アイドレを発見したルプスは、すぐさまアイドレのユニットコンテナに飛び移る。


「———?!」




 ……と。





「初めまして、お初にお目にかかるよ。


 ……俺の名前はハレルヤ。


 ランバルス、ディーサイド隊所属———コールサインはD-5だ、よろしく頼むよ」



 そこにいたのは、髪を橙に染めた、好青年であった。


「……牢屋のアレは、お前か?」


 アイドレに乗っていた謎の青年。ハレルヤと名乗るその男に、ルプスは物怖じせず質問する。


 と言うのも、牢屋にて自分を導いたあの声———その不確定な存在があってこその信頼だった。


「ああ、アレは俺だ。何せレーヴァテインのヤツが、ここにいるお前を助け出せ……と言うものだから、わざわざ潜入してこの通りさ」


「そういうことか、だからランバルスのお前が……!」


 ———ランバルス。それはこの基地の長、スルーズと対立するもう一つの一大勢力。


 ここもスルーズと同様、魔洞地脈を追ってはいるものの、ここの思想はもう一つある。


 ソレは『魔術世界の排除』。……そのような目標も掲げている組織、なのはルプスにも当然分かっている。




 がしかし……


「そのレーヴァテイン……が、俺に一体何のようだ? なぜこの俺を助け出すような真似をした? 第一、この機体は魔術世界の———」


「だから、と言うのもある。ただ、やはりレーヴァテインの『予言』は正しかった。


 だからソレに従って、君と……そして、『魔女』も助け出す。それが俺の目的だ」


 魔女も助け出す。

 その言葉とは裏腹に、ルプスはここに魔女を連れてきてはいなかった。



「……ちょっと待て。ルプス、君……魔女は連れてきたか?」


「あんなもの、連れてくるわけがないだろう。信用に値しないからな。


 無論、お前もだ。余計な行動を起こしたら撃つ。……早撃ちは俺の得意分野でね、舐めてもらっちゃあ困るんだ」


「ルプス…………


 ……そうか。……ルプス、なら君は、早くアイドレを起動して、ここから逃げろ」


「言われなくても———いや、魔洞地核はどこにある?! 俺はソレも探しに———」


「はっきり言おう。そんなことをしている時間はない」



 が、その答えはどうも不自然で。



「何だと?! この騒ぎはお前らが———」


「違う。襲ってきたのは———だ」


「っ?!」


 そうだ。ランバルス勢力———ことハレルヤは、ただここに潜入していた、本当にそれだけのこと。


 だがしかし、それでもここを襲った第三の勢力がいる……それはもちろん、魔術世界以外にあるわけがないのだ。


「まあ……魔女は俺が連れてくる。……いいや、連れてこい、って命令だ。


 何せ、ヤツが魔術世界に捕まった———ソレが一番、最悪のケースだそうでな」


 そう言いつつ、ハレルヤはアイドレのコックピットより、その身を寄せる。


「…………信じて、いいのか?」


「……好きにすればいい、とのことだ。

 残念ながら、レーヴァテインのヤツは、お前がその質問をすることまで織り込み済みだったそうでな」


「———そうか」


 信じたのか信じていないのか、その答えも口に出さず、ルプスはコックピットの方へと向かう。

 そしてその際、すれ違いざまに……ハレルヤは何かを呟いた。





『シスターズ』


「———?!」


 ルプスはどこかハッとしたような、目を見開いた顔つきになっている。

 その言葉を、どこかで聞いたことがあるのか。



「待っ、待て!……貴様、その言葉をどこで———」



 振り向いたそこには、もうハレルヤの姿は見えなかった。

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