第3章:新たな魔洞地脈

換装、アイドレ

◆◆◆◆◆◆◆◆


「ふぇえ……はっ?!」


  魔女アルが目を覚ました時、既に空は暗黒に包まれている頃だった。


「アレ…………僕……寝て……

 あでも、確か……ヴェリタスが……はっ、ルプス?!」


 ふと、 魔女アルが振り向いたそこには、まあ呑気に寝ているルプスの姿が。


「こっちも……寝てるか……


 ……全く、危うく死ぬところだったじゃないか……」


 ———が、傍にあったルプスの寝顔を見た 魔女アルは、しばらくして、また独り言を呟き始めた。


「自分の寝床で……寝ると、するかな……」


 そう言って、開放されたユニットコンテナの上に登り立った 魔女アル

 が、再度ルプスの方を振り向いて。


「……ごめん、あんな依頼、受けちゃって。

 疲れたよね、僕のせいで。……ごめん、ホント」


 言い終えると、魔女 アルはさっさと降りていって、それから音はなくなった。


◆◆◆◆◆◆◆◆



 ———翌朝。

 9時。


「魔女! おい! 起きろ! 今すぐだ!! 早くしろ!! おい!!」

「なんだい……うる……さいなあ……」 


 ルプスはガラにもなく焦りまくっていた。

 何故こうなったのか、それは———、


「イド! 起きてるか、イド!」

『アイドレ:モードオフ。オハヨウゴザイマス、独立戦と———、


 ……オハヨウゴザイマス、イドです』


「だぁから、一体……なんなん!……だよぉ……」


  魔女アルは起き抜けでボケている。どうもこの魔女は、朝と起きた直後には弱いらしい。


「今はお前にしか頼めない……アイドレの換装作業を頼みたい!」

「アイドレのぉ……かんそー……?」


 そしてルプスは、そのハンガーの上を見上げる。

 そこに配置されていたのは、いくつかのサイドツー・ラヴエルフレーム用の換装パーツであった。


「そうだ。今俺は動けない、ならお前に頼るしかないわけだ!


 魔法でもなんでも良い、アイドレの損傷した四肢を、俺の指示するパーツと交換してほしい」

 

 ……先のヴェリタスとの戦闘にて、アイドレは決して無視できないダメージを負っていた。


 それに、前と姿形が同じだったんじゃあ、またすぐにヤツに見つかってしまう。オマケに素のままでは武装が貧弱!!……換装しない理由がないというわけだ。


 それに、この後正午より、ルプスは作戦を控えている。例の 魔女アルの依頼の1つ、魔物の一掃依頼だ。


「よし、右のそのパーツだ」


 故に、その依頼に合った装備で、ルプスは作戦に臨もうとしていた。


「これぇ?」


  魔女アルが腑抜けた声を発した直後、ハンガーの上にあったパーツが、魔力によってか少し浮き始めた。


「違う……今の俺から見て右だ」


 ……どうやら違ったらしい。


 結果、アルが浮かせたパーツは、アイドレの左腕に装備する武装……火炎放射器であった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


「……ふう。

 どうだイド、しっかり接続できたか?」


『両腕部、両脚部異常無し。最適化も完了しました。両肩部に相当するサブウェポンに関しては、戦闘モード時のディスプレイにアイコンで表示します』


「上出来だ」


『そのように作られています』


 ———いちいち返事はいらない。



「よし……魔女、よくやった。換装は無事終了だ」


「ぃやったーーっ! どーんなもんだい! ははっ!」


「……」


 なんだか予想以上に 魔女アルがはしゃぐものだから、ルプスはどこか反応に困っていた。


「あ……う、そ、そりゃあ僕に任せればこんなもの、朝飯前ってもんさ!……実際に、朝飯前だったろう……?」


「そうだな、まだ朝飯は食べてない。

 ……だが、残念ながら食べている時間はない」


 そう、そんな時間など既にないのだ。この時、既に時刻は10時半。


 ここから支度をして11時に出るとして、それでご飯を作っている時間も、買い出しに行く時間もないのだ。


「なーーーーっ!……だったら、僕はもうサポートできないんだぞ?!」

「……なんでだ」


「キミの生命維持で、もう魔力がいっぱいいっぱいだからだよ!


 ……いくら魔力と言っても、無尽蔵じゃない……ご飯食べなきゃ、お腹ペコペコじゃあ、魔力器官だって働かないさ、そりゃあ……」


「そうか」

「何が、そうか……だよ!!」


 が、ルプスには食べさせる気は一切無かった。何故か、それはもうサポートなど必要ないほどに万全の状態だったからだ。


「そりゃそうだ。お前の魔術なんか、もう二度と……頼りはしないからな」


「なんだとーーっ?! 結局キミは、昨日も僕の魔術に頼って終わったじゃないか———」

「アレはお前が勝手にやったことだ、俺は関係ない!」


「僕がやらないとみんな死んでたんだぞ?! 褒め言葉の一つや二つ、ないにしろ褒美くらいはあるべきで———」


「うるせえ! 何もやるもんか! 黙って俺についてこい!」



 その言葉を聞き届けた魔女は、どこかその顔をしかめて呟く。


「はあ……わかったよ、今日もご飯なしか……

 収入もないもんな、わかったよ……」


「やけに物分かりがいいな」


「ふん。

 明日はもう、いくらこの僕でも許さないぞ。


 ……それに、魔術を褒めてくれたって……いいじゃないか」


 と頬を膨らませながら言いつつ、魔女 アルはユニットコンテナに飛び乗った。


「……そうかい。

 じゃ、行くぞ、アイドレ」

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