第2話 狼と獅子が見たもの、何が起こるのか

今、何か映らなかったか、レーダーを見たが、気のせいだとわかりほっとした。

 ここ最近、上司、いや上の連中は皆、苛立っている。

 数日前の会議は無事に終わった、それは問題なかったのだ、ところが、その後だ。

 議会長の一人がドラゴンの司政官を呼び出したのだ、それも秘密裏にだ。 

 一体、何の用でと思い探りを入れたがわからない。

 呼び出しをしたのは議長は猿人だという報告を知った上司の狼人は鼻面に深い皺を寄せた。

 続けて探れという命令に部下達は渋い顔をしたのは無理もない。

 

 「おいっ、モニターを見ろ」

 緊張の混じった声に再び視線を向けると今度ははっきりと赤い点が映っている。

 「船だ、しかも追跡艇だ、何を追いかけている」

 確認する、だが。

 「わかりません」

 「何だと」

 

 映らない、こんなことあり得ない、追跡艇の反応はわかる、モニターに映っている、だが、何を追いかけているのか確認できないのだ。

 「追跡している船は、獅子です、ライオンの」

 その言葉に追跡艇を捕獲だと狼は吠えた。

 「し、しかし」

 「言い訳なら後でなんとでもいえる」

 まずいことにならないかと思った、だが、何を追跡しているのか、わからない、確かにおかしいのだ。

 

 獅子人のライオネルは緊張した顔、声で部下に伝えるとモニターが数時間前に捕らえた宇宙船を見た。

 国、所属、獣人、それともランクづけすらされていない亜人かと思ったが、そんなの星の住人が宇宙艇ではなくロケットを発射するなどあり得ない。

 「不明です、所属もどこのものかわかりません、ただ」

 古いです、そう言った部下の声は驚きを隠せない。

 「あまりにも、こんなものが飛ぶなんて」

 「通信回路は」

 「呼びかけていますが、応答なしです、いえ、その機能さえ搭載されているのかどうか」

 「武器反応は」

 「ありません」

 ただ、飛ぶためだけの、そんなもの何の役に立つ、だが、ライオネルは感じていた、それは獣人の持つ感かもしれない。

 何かあると。

 

 「司令官、追跡艇、いえ、船が近づいてきています、小型ですが」

 「どこだ」

 「狼人の船です」

 「邪魔するな」

 ライオネルは思わず叫んだ、自分たちが先に見つけたのだ、それを横から出てきて、奪うつもりか」

 自分の怒りが伝わったのか、部下は回線を開いた。

 そのときモニターを見ていた獅子人の部下が叫んだ。

 「大変です、狼の奴、打ってきました、我々の目的物を」

 「確認してるのか、範囲が」

 無茶苦茶だと部下がモニターを叩いた、その時、音がした。


 爆発、ではない。

 機械、金属音でもない、では、なんだ。

 

 「艦長、モニターを」

 「見てたください」

 「何だ、これはロケットのようだ、だが」

 

 獅子人たちは今度こそ、はっきりと映し出された、自分たちが追いかけていたものを見た。

 モニターにほんのわずか、よぎるような錯覚かと思うような光を見つけたとき、胸騒ぎがして追跡をしようとした。

 だが、映らないのだ、しかし、音はした。

 船内一、耳の良い部下の言葉を頼りにここまできたのだ。

 

 「モニター、出ます」

 

 映し出された者を見てコクピットにいた部下、いやライオネルも驚いた。

 それはロケットだ、だが、あまりにもシンプルなのだ。

 円柱状の棒といってもいいだろう

 「船体に何か書かれています」

 「解読しろ」

 だが、ライオネルの言葉に、ほどなくして解読不能という答えが返ってきた。

 「どこの獣人、それとも亜人かさえわからないのか」

 「それが、あっっ」

 部下が叫んだ。

 「あいつら、見つけたのはこっちだぞ」

 「高速艇か、いつの間に」

 

 「こちらの船艇に収納できるか」

 「大丈夫です、巨大というほどではないですから、しかし、旧式にもほどがある、こんなのが飛んでるなんて」

 狼人のパイロットは呆れた声を漏らし、船に近づいた。

 「何か書かれています、文字にしては解読が」

 「それはいい、ライオン、あちらには渡すな、役に立つ」

 返事をしようとしたパイロットの言葉が途切れた。

 ロケットが燃えたのだ。

 それは一瞬だった。


 「なんだ、猿、いや、生き物ではない」

 「馬鹿な、なんだっっっ」

 獅子は、狼は自分が何を見ているのかわからなかった。

 だが、確かに、目の前に現れたのだ、それは。


 火が燃えているようだが、それはある生き物の形をしていた。

 猿だ。

 だが、生きているわけではない、火が燃えながら猿の形をなしていた。

 いや、それだけではない、背中に翼がある。

 猿人でも亜種は存在する、だが、翼を持つ者はいない。

 それに、翼はどう見ても爬虫類系。


 「ドラゴンの翼、か、まさか」

 ライオネルは自分が何を見ているのか信じられなかった。

 そして狼人のコクピットからも、驚きの声が。


 突然、咆哮が響いた、翼が大きく揺れ、それは飛んでいく。

 追いかける事のできない早さだった。


 

 部下の言葉にカーマインは驚いた、モニターに映し出されたのは赤い炎だ、スピードを上げて近づいてくるものが何か、見ようとした。

 だが、それはドラゴンたちの目には、ただの赤い炎にしか見えなかった。

 

 「航空ステーションに何か侵入、いえ」

 「どうした」

 「通信です、迎えに来るようにと」

 部下の言葉にカーマインは慌てた、何かが起こる予感だ。

 だが、それが何なのか、はっきりとはわからない。

 そのとき部下が叫んだ。

 

 「狼人と獅子人の船艇が近づいてきます」

 「拒否だ、こっちは忙しいんだ」

 「しかし、奴ら」

 「時間を稼げ」

 わかりました、部下の言葉にカーマインはステーションに向かおうとした、そのとき腕の通信機のアラームが鳴った。

 「司政官が、アビゲイル殿が、そちらへ向かっています」

 えっ、どういうことだ、今朝は寝ていて、起き上がれる状態ではなかったはずだ。

 「それが、自力で」

 

 本当に、何かが起ころうとしていた。

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