宇宙には獣人が住んでいて、人魚もいるらしいです
木桜春雨
第1話 宇宙には獣人が住んでいる、らしいです。
数百年ごとに行われる議会は大切だ、欠席などあり得ない。
だが、ドラゴン族のアビゲイル・クラインの姿がないことに会議場は、いつもとは違う空気を漂わせていた。
噂は本当かと囁きあう者、中には、これは好機だと表情には出さないが、喜ぶ者たちもいた。
「侵略、それがどれほど野蛮な行為か、理解しているのか」
アビゲイルの代理として出席したカーマインは、少しでも早く帰りたいと思っていた。
会議が始まる前に狼族のリーダーに声をかけられたときの、嫌な気分が拭えなかった。
「アビゲイル殿が、今回の議会に参加しないとは、噂は本当か」
「多忙でしてね、自分たちのテリトリーを広げようとする行為で星、一つを侵略という野蛮な行為をする連中がいるか」
忙しいんですよとカーマインは言葉を続けた。
狼族、しかも純血の一族はプライドが高い、自分たちは優秀だということを知らしめるために数年前は星一つを破壊した。
そこに住んでいる原住民を奴隷にするためだ。
だが、それが議会で問題となった、今でこそ、派手な行動はしていない、だが。
「ウルフェン殿、捜し物は見つかりましたか」
赤いドラゴンの言葉に白狼の目が鋭く光った。
やはりとカーマインは思った、半年ほど前から狼族の動きがおかしいとアビゲイルから聞いていた。
探査用の宇宙船を飛ばして何かを探している、それも秘密裏にという話にカーマイン自身も探りを入れたが、余程、慎重に動いているようで掴めないのだ。
長い話し合いが終わった。
本来なら、まだ、先に開かれるはずの会議だった。
だが、急遽、開かれたのは議会の最高責任者が亡くなったこともあるのだろう、高齢なので無理はないと思っていた。
獣人は基本的に長寿だ、怪我には強いが、反面、病気に対する抵抗力というものに個体差がある。
同じ病気にかかっても大人が死ぬこともあれば、子供が生き残る、その反対もしかりだ。
薬を飲んでも効くとはかぎらない。
早く帰ってアビゲイルの容体を確認しなければ、半月ほど前に熱を出して倒れた彼だが、薬を飲んでも効く様子はみられない。
回復の見込みが、治らないのであれば後任のドラゴンを早く見つけてほしいと言われているのだ。
正直、考えたくはない、それにアビゲイルは狼族の動向が気になっていてベッドで寝ていても、通信とモニターで部下に探らせている。
それでは治る病気だってよくなるわけがない。
ステーションに向かう足が自然と早くなる、そのときだ、呼び止められた。
「竜族の司政官殿でいらっしゃいますか」
小柄な猿人だ。
「お急ぎのところ、すみません」
竜、司政官、古い名称で呼ばれてカーマインは驚いたが、相手が猿人、それもかなり年寄りだとわかり、首を振った。
「緑の竜殿はご病気か」
その言葉に、やはりと思ってしまった、内緒にしていたが、こういうことはどこからともなく、ばれてしまうものだ。
それに、ここに来るまえに狼だけでないライオンにまで声をかけられたことを考えると、あることないこと、噂をばらまかれているのだろうと思ってしまた。。
猿人はフードの下から何かを取り出した。
「これを」
声を潜めて素早く周りを見回す、まるで、このやりとりを見られてはまずいというように。
「我ら猿人、恩を忘れてはおりません」
それだけ言い残すと素早く去って行く。
渡された革袋の中味を見ると瓶の中に入った液体と手紙だ。
「これ、固まって結晶のようになっていますが、血です、それと手紙ですが、獣人の字ではないですね」
「ドクター、どうすれば」
「人魚、ですね」
「なんだ」
「この手紙に書かれているんです、翻訳機を使いましたが随分と古いので完全な解読はできません、しかし、人魚とは」
「どういう意味だ」
「ある惑星の生き物の名称です、ですが」
実在はしません、その言葉にカーマインは説明を求めた。
「確か、空想、想像の生き物だと」
「猿人だと」
「ええ、人魚の血を」
「何故、奴らが」
テーブルに拳を思いっきり叩きつけたのはライオンだ。
以前は光沢を放っていた鬣だが、今はところどころ抜け落ちていて艶もない、だがそれだけではない。
体、皮膚にも異変は起きているのだ。
「あいつらも探しているんだろう」
「自慢の鼻でも嗅ぎつけることができないのか、プライドの高さが邪魔しているのかもしれんな」
「しかし、何故、猿人が、奴ら人魚をどうやって」
「わからん、だが、手に入れるのは我々だ、狼やドラゴンには負ける訳にはいかん」
「カーマイン殿、先ほどから奇妙なことが」
「なんだ、これは」
「通信を求めているようですが、キーがかけられています」
「解読しろ」
日本政府カラ、竜ヘ。
人魚ヲ、オクル。
地球から発射された宇宙船、それは諸外国にも知らされず発射されたものだ。
いや、知っていても、黙認しただろう、宇宙人との邂逅は昔のことだからだ。
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