暗闇

サカマサv

暗闇  完結

当たり前の日常が突然いなくなるなんてこと、それはよくある話。

戦争がよくある例。

日常でもある、私にはあった。

 いつもは楽しかった。いや、「今まで」のほうが正しい。困難はすぐに、突然やってきて、私の当たり前を壊してゆく。

苦しい、辛い、死にたい、どうしたらいい…

そんな感情とともに私は布団の中で毎日を過ごしている。

みんなは外、わたしは中。

外の世界が羨ましい。あんなに青々とした光輝いている空の下で、下校中の学生が面白そうに笑顔で喋って歩いている。その時は空というものがとても美しいものに感じた。

私も行きたい!外へ出てみたい、そんな思いが日に日に強くなってゆく。どんなに願ってもそれは叶わない。なぜなら私は見えない鎖に縛られているから。それらはとても強固で、1人じゃ断ち切ることなど出来やしないもの。

私を縛って何がいいの?

外の人たちは笑っている。眩しい。

中の世界はどんよりと暗く、人間の活力というものが無い。私はそれでも中の世界で暮らしている、ずっと。


−一年前−

中学校の入学式。

それはとても華やかで、桜がよく似合うものだった。新しい制服に身を包み、皆緊張とワクワクの入り混じった感情をしている。私もその中の1人。

クラス発表がされ、各々がこれから過ごす教室へ向かう。その足取りは軽い人や重く、辛い人もいる。色々な人がいる。

みんなが教室へ集まり、時間を待つ。知り合いがいても皆席についてどこかを見つめている。ピリピリとした雰囲気でもなく、なんだか落ち着かない雰囲気が教室を包む。よくある光景に過ぎない。私も席に着く。これから新しい生活が始まろうとしている。


 私のクラスは賑やかだ。皆元気で欠席者の少ない普通のクラス。授業では色々な人がいる。教師の話を聞く人、喋る人、寝る人、ノートに落書きをする人、それ以外のことをする人。それが人間。私はそれが面白い。個性豊かで私にとってこれが当たり前の光景。係の仕事をし、普通に生活をしていた。友達と喋り、ただ普通に生活する、これがどうしようもなく楽しかった。


−中学2年生−

クラス替えがやってくる。私はいつも通り登校した。教室に入ると、クラスメイトは早く新しいクラスを知りたいがため、浮き足だっている。いつもと違う光景。クラスを予想する人、願う人、別れや感謝の言葉を告げる人。私もその中の1人にすぎない。勿論、ワクワクしていた。

 第二学年は体育館へ集められ、静まり返っている。少しピリッとした雰囲気とともにソワソワとしている。教師が何か喋っていたが、内容なんて覚えていなければ聞いてすらいない。ただただクラス発表が気になる。皆同じ。

教師の話が長く感じでいる時、ようやくクラスが発表された。

約200人が同時に動き出す。それらはまるで獲物を追いかける肉食動物の様。

足取りが早い、自身の名前を探すことに必死で周りが見えていないのだろう。人と人の肩がぶつかる。そんな中、喜ぶ人、落胆する人、何とも思わない人等、たくさんの感情が行き交う。私は喜びと少しの残念さが混じっている。今はそれで良かった。

 新しいクラスで席に着き、休み時間になる。中学生になって1年は経つ為、それなりに皆喋れていた。周囲には喋り声が響き、それらは廊下にも及んでいる。仲の良い者同士が喋る、ごく当たり前の光景。そこで私は1人であることに気づく。知っている人はいても特別仲が良い訳ではない。会話をしに行くのも面倒に感じ、読書をしてしまった。それが、後々になって自身を苦しめることを知らずに。


4月、授業も始まり学校生活が時間と共に過ぎて行く。そこで変化があった。頭が痛い。体がだるい。授業に集中できない。

だんだんと学校に登校できる日も減っていく。

あまりにも突然で、始めは風邪かと思っていたが、一ヶ月経っても治らず、症状はどんどん悪化していく一方。苦しい、辛い、分からない。

授業に遅れができ、テストでも点数がとれず、ストレスが溜まりどんよりとした日々が続く。

終わりが見えない。辛い。

 後になってそれはうつ病だった。新しい環境で、体に負荷が掛かってしまっただろう。

当たり前が突然いなくなる、その寂しさはとても悲しく、理解してくれる人がいない。

薬を飲んでも頭痛は治らない。四六時中どこかしら痛い。孤独を感じる。助けて欲しい。頑張って学校へ登校しても、教室には友達はいない。遅かった。ただ授業を受けたいだけなのに体が言うことを聞かない。ただ1人、暗闇の中に取り残された。望んでなんかいない。考えれば考える程わからなくなる。

毎月精神科の病院へ行き、その度に薬は変わり、効果は強くなる。また症状が酷くなったら薬を変える。それの繰り返し。わからない。

私はいつしか人が苦手になった。私だけ苦しんで周りの同級生は元気に当たり前に外へいる。それがどうしようもなく許せなかった。理不尽。教室での孤独が嫌で、学校に行かなくなった。家でやることなんて無い。勉強は分からない。辛ければ寝る。現実から逃げるように。そう過ごした。ずっと。それでも辛い。学校へ行けって心の、中で唱えるように言ってくるものがいる。今は休みたい。休ませて欲しい。ほっといて。そう過ごしていた。

 でも、担任の先生はそのような状況の私に手を差し伸べてくれた。学校に行けない生徒が集まる教室を教えてくれた。そこでは自習や読書、休み時間には少しだけ賑わっている光景が広がっていた。それぞれ理由があって学校に行けない。そんな人たちが集まる教室だから、私にとってこの環境は良かった。みんなが優しい。気の合う子ができ、心の中が少し潤った。行ってみて良かった。


少し勇気を振り絞って前へ進む、これはとてつもなく辛いことだけどやってみる価値は十分にある。嫌なら逃げればいい。私は学んだ。外の世界で暮らしている人たちの気持ちが少しづつわかってきた。少しづつ、ゆっくりだけど私を縛る鎖は解けてゆく。

今の環境が嫌なら変えれば良い。それか、考え方を変えてみる。頭を使え。

そうしたらどんなに硬い鎖でも、解くことができる。私は外の世界をもっと知りたい。間違えればまた中の世界。怖いけど学んだことを活かせるチャンスでもある。一つの「人生」。一つの「命」。落ち着いて行けば自身の願いは叶う。暗闇から出る方法はいくらでもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暗闇 サカマサv @Sakamasa1031

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ