【連載】ゼニジャー

ゆめ ちかぷ

第1話 ゼニジャー☆エン坊との出会い の巻

ここは大きな通りに面した草むら。おとなりは只今工事中。


その工事現場では、ショベルカーが土をほっている。


たくさんの土を持ち上げたその時、


ヒューン。


なにかがはじけ飛び、草むらに落っこちた。


コロコロコロ。


今度は転がった。


「イタタタタ」


そう言って起き上がったのは、江戸時代のお金、一文銭(いちもんせん)。こげちゃ色で、五円玉みたいにまん中に穴があいている。


でもよく見ると、その穴は五円玉とは違って、四角くなっている。


せっかく土の中で眠っていたのに、ショベルカーにほり起こされ、おまけにふっ飛ばされて、地面にたたきつけられたのだ。そりゃ痛いはずだ。


「大丈夫ですか?」


草かげから声がした。


「ああ、なんとか」


一文銭(いちもんせん)がそう言うと、草かげから、泥だらけの一円玉が出て来た。


一文銭は一円玉をにらみ付けてこう言った。


「おまえは何者じゃ?」


「えっと……ぼくは一円です」


「なに?一円とな?変わった名前じゃな」

と、一文銭は首をひねった。


だって一文銭は江戸時代のお金。だから一円が自分とは同じお金だなんて、知るワケがない。


だから一文銭は、えらそうに胸を張ってこう言った。


「こう見えても、オイラはゼニじゃ」


 江戸時代は、お金の事を「銭(ぜに)」とも言っていた。つまり一文銭は、「オイラはお金だ」と言ったのだ。


 しかし一円玉は現代っ子。江戸時代の事なんか知るワケがない。だから、


「ゼニジャーさん、はじめまして」

と、にっこりほほえんだ。


 どうやら、ゼニジャーという名前だと思ったようだ。


 いっぽうの一文銭は「ゼニジャー」と呼ばれて、なんだかうれしいような、なつかしいような、不思議な気持ちになっていた。


「ゼニジャーさん、ぼくの事、分からないですか?一円て、一番小さいお金なんです。こんなに汚れちゃってるけど」

そう言って一円玉は、体に付いている泥を払った。


「なななんと!おまえさんが一番小さいお金じゃと?オイラだって一番小さい銭(ぜに)じゃぞ。銭(ぜに)はお金の事じゃから……おまえさんとオイラが同じとな?はてはて?」

 

ゼニジャーが土の中で眠っている間に、江戸時代は終わり、明治、大正、昭和、平成と時は流れ、今は令和。


もちろん、そんな事などゼニジャーが知るワケがない。

 

そこでゼニジャーは、一円玉にあれこれとたずねた。


「そうかぁ。オイラがいた江戸時代は、もうとっくの昔に終わっていたのか……」


 空を見上げたゼニジャーは、そっと目を閉じた。


「じゃあ、オイラはもうこの世界じゃあ、用無しってわけじゃな」


 とうぜん、江戸時代のお金は、今はもう使えない。


 そんなゼニジャーの言葉を聞いた一円玉も、すぐにこう言った。


「ゼニジャーさん、ぼくも同じく用無しです。ずっと前からこの草むらにいるから、もう誰にも使ってもらえません」


そう、ずっと前にこの草むらで遊んでいた男の子が、この一円玉を落としたのだ。だからその日からずっとここで独りぼっち。


「あ〜あ、また仲間達のところに戻って、お金の仕事がしたいなぁ」

そう言って一円玉も、ゼニジャーと同じように空を見上げた。


「財布の中にはたくさんの仲間達がいました。でももう戻れない。だからぼくも用無しになっちゃいました」

と、今度はうつむいた。


そんな一円玉をゼニジャーは見つめた。


「おいエン坊(ぼう)、顔を上げるんだ。おまえさんは今でも立派な銭(ぜに)じゃ。そのほこりだけは無くしちゃならねぇ。オイラはともかく、エン坊が用無しなんて事は絶対に無い!」

 

ゼニジャーの瞳が、こうこうと輝き出した。


「いいか、エン坊。願いってもんはなぁ、叶えるために、心の底からわき上がって|来るんじゃ。だから諦めるな。仲間のところに帰りたいと願うならば、きっと帰れる。よし!オイラがエン坊のために、人肌脱いでやらぁ」


こうして一円玉は一文銭(いちもんせん)をゼニジャーと呼び、一文銭(いちもんせん)は一円玉をエン坊と呼び、すっかり仲良くなった。


「エン坊よ、こんな虫や猫しかいないような場所にいてはダメじゃ。さぁ行くぞ」


さっそくゼニジャーは、エン坊を連れて草むらを出た。


そして道路へ出たとたん、叫んだ。


「な、な、なんじゃこりゃーーー!」


・・つづく・・

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