魔導工兵器LiON ~世界は歪んでいる~
夕日ゆうや
第1話 LiON
『我らに憎悪なき自由を!!』
ラジオから流れてくる言葉を聞き、俺はすぐに
人型戦闘駆動兵器
気高き力の象徴――そうは言われているが、実際科学者がつけた由来を俺は知らない。
魔導工学の権威でもあるライオネル=カーターが、作り上げたとされる
僕にはよく分からないことも多いが、魔核が動力炉。魔導筋力が人のそれと同じような筋力を生み出している。
そして頭脳とも言えるのがバイオフィルム。
僕はその全容を知らないが、ここまで完璧に14m級の機械を生み出すとは思ってもみなかった。
戦車よりも硬い装甲と、戦闘機よりも速い速力。そして操作性の良さ。
それらをまとめ上げたのが、ライオネルである。
彼はこのロボットを作り上げた際に名称を自分で決めたらしい。そしてブラックボックス化されたSシステムを封印した。Sシステムは全部で4機。
Sシステムを搭載した
僕は非搭載の
《機動電圧確保》
《MMP散布》
《リフトアップ》
《システム起動》
《G隊、出撃用意》
『けっ。またテロリストかよっ』
『そう言うな。行くぞ』
「
僕はそう呟き、電磁カタパルトに機体をのせる。
自重と重なった重さが、カタパルトロックを軋ませる。
ゴム動力のごとく発射された機体はみるみるうちにスペースコロニーに近づいていく。
スペースコロニー。
筒状のシリンダーのような形をした外壁が、秒速10mという早さで回転運動をしている。
内部は外壁部に遠心力がかかり、人間に擬似的な重力を与える。
現在はそのスペースコロニーに数万規模での移民が始まり、世界は安定しつつある。
地球の裏側から見える太陽が膨大な熱量を放っている。
「Mセンサーに反応あり。敵影二。オレンジマーク12
僕がそう告げると火月が舌打ちをし、機体を左翼に流していく。
『俺様がやってやるよ。テメーは援護だ』
「了解」
『お前ら。勝手に動くな』
僕は機体を右翼に展開させる。
ハンドガン二丁、魔力結晶のブレードが一振り。
接近戦に特化した機体。故に援護は苦手なのだが、戦えない訳ではない。
左右から挟み込めば、敵を攪乱させることも、挟撃することもできる。
悪くない戦法だ。
普段から実践形式での演習がなければできない動きだ。
チームワークはとれているといってもいい。
『敵機後方にシャトルを確認。ノックがいる。捕獲せよ。それが無理なら撃墜も許可する』
無線で流れてくる大熊の声は酷く冷たい。
「了解」
『は。言われるまでもねぇー!』
火月の機体が砲狙撃戦を開始する。
狙いは寸分違わず、敵機のコクピットを貫く。
それを肌で感じ取った別機が機体を隕石に近づけ、その陰に身を潜める。
僕は裏側からその敵機に向けてハンドガンを撃ち放つ。
他の機体の砲撃に比べれば威力も射程もないが、間接部を狙えば話は別だ。
LiONの構造上、間接部は非常にもろく、数発のMMMであれば破壊可能だ。
ジークフリートのようにはいかないが。
僕はトリガーを引き絞り、敵影の間接部を確実に破壊していく。
敵機も反撃を開始するが、高速戦闘が得意な僕にとって、その銃弾はたやすくかわせる。
僕は機体を左右に振り回し、敵機との距離を詰める。
テロなんてするから。
断罪の剣をふり下ろし、敵機を破壊する。
内部エンジンが暴発し、溶けて消えていく。
『よくやった。まだ敵機はいる。右!!』
大熊の無骨な声が耳朶を打つ。
僕は機体を翻し、視界の端に映ったRUⅡをハンドガンで撃ち抜く。
機体の損傷が大きい。
うまくいけば撤退だろう。
だが、
こちらに向かって無反動砲を放つRUⅡ。
「馬鹿野郎」
僕はその敵機に向けて再びハンドガンを撃つ。
今度はコクピットハッチをあぶり、はじけ飛び、ひしゃげる。
物理法則も、生態レベルも同じこの世界では、彼らも等しく死ぬ。
自分の命を投げ出してまで守りたい理想など、バカバカしいと思う。
命よりも大切なものなんてないのに。
RUⅡのコクピットが砕けていく様を見つめ、僕は超望遠カメラで敵影を探る。
「こちら内藤、敵機を破壊した」
『こちらは敵の砲撃を受けている、援護に回れ』
大熊がそう告げると、爆発の光を観測。
あっちか。
機体を隕石の陰から離し、眼下に広がる太陽を視野に入れる。
澄み切った宇宙空間に、先ほどまで息をしていたLiONの残骸が浮かぶ。
シャトルがさらに加速し宙域を離れていく。
『やべーぞ。このままじゃシャトルが逃げる!』
火月がうめくように叫ぶ。
大熊の機体がダメージを受ける音が無線に混じる。
どうする?
このままじゃノックが逃げる。だが大熊の命を見捨てることなどできるか。
僕はエンジンを吹かし、魔力炉の熱を運動エネルギーに変えて、大熊のもとに向かう。
『クズ野郎!!』
火月の罵る声が聞こえる。
僕は味方を見捨てるほど、バカじゃない。
内心そう呟き、大熊の機体をマークするRUⅡにハンドガンを向ける。
瞬間、敵機は離れこちらに向き直る。
異様に立ち直りが早い。
だが、そんなことも言ってられない。
大熊の機体はすでに人間で言う両腕を失っている。
胴体フレームに内臓された無反動砲と機銃はあるが、LiONに対抗するまともな武装はない。
僕がやらなくちゃいけない。
『くそ。この距離からの狙撃なんて……!』
火月が舌打ちをし、ノックの乗るシャトルを狙っている。
僕は機体を流し、目の前の敵に集中する。
魔力スラスターを使い、敵機に急速接近。
琥珀刀を掲げ、ふり下ろす。
魔力の込められた刀は容易に装甲を貫き、溶断していく。
――政府の犬どもめ。
命が砕けるみたいな音がした。
血反吐を吐いたような気持ち悪さを感じる。
『ないとう』
僕は何をしてしまったんだ?
『内藤!!』
大熊の声に自我を取り戻す。
「はい」
『助けてくれてありがとう』
大熊はそう言い、合流ポイントに向かう。
「火月」
『てめーのせいで、ノックを逃したじゃねーか!』
苛立った様子で機体を合流させる火月。
『そんなこと言わない。内藤くんだって、頑張ったんだから』
『そうよ。生き延びることにまずは感謝なさい』
待機中だったNo9とNo11を載せた輸送艦が接近していく。
友軍の認識魔力コードが一致し、機体の整備と、修復を受けることになる。
ガイドビーコンを受けて、機体が輸送艦へと積み込まれる。
僕はコクピットから出ると、更衣室に向かう。
「てめーっ!!」
更衣室を開けるなり、火月が僕の胸ぐらをつかみ、壁にぶつけられる。
「お前が命令無視しなきゃ、反政府組織を叩くことができたんだぞ!」
それは分かっている。
だが、
「そこまでだ」
大熊が後ろから声を上げる。
「おれが生きていられるのも内藤のお陰だ」
舌打ちをし、その場から離れる火月。
「すまなかったな。おれを助けてくれて」
「いえ……」
僕は母の遺骨を詰めたペンダントを手にして、更衣室を出る。
休息室で缶ジュースを買い、喉の渇きを潤す。
「やあ、内藤くん」
「
「わたしも逃がしてしまったの。面目ない」
「……いや」
僕が悪いのは分かっている。
だから、雫にそんなに思い詰めないで欲しい。
「わたしを守ってくれたの?」
それもある。
言い当てられるとは思っていなかった。
「顔に出ているの」
「そうか……」
「もっと愛想良くしたらいいいじゃない」
クスクスと笑う雫。
それが分からないというのに。
「ライジングはあのシャトルを追うの」
また戦いになりそうだな。
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