第二話 営業所は大騒ぎになるが、周囲は何故か盛り上がる

 運転席側のドアはへこんでるが幸い車は動くので、一度、社員寮のアパートに帰宅し、休み明けの月曜日に事務所で報告した。

 結構、一番偉いO営業所長に怒られたが、僕の直属のO上司からは、


「何で俺に連絡くれんの。連絡くれたら助けに行ったのに」


 と非難気味に言われた。

 まあ、電話番号知らなかったので(泣)

 これはO上司が所長代理に昇進して、N上司(所長)と共に営業所のチームが二つに分かれて間もなくだったので、電話番号ちゃんと聞いていなかったのだ。痛恨のミスだ。というか、20代はミスばかりの時代なのだが(泣)

 助けに来てくれなかったN上司は大らかだが、用心深い日和見タイプである。

 対照的にO上司は福島県会津の出身でヤクザとも渡り合うタイプの熱血営業マンで、度胸と気っ風きっぷが良かった。

 色々と怒られはしたが、僕の全くの不注意の事故なので反省するしかない。


「O営業所長。僕がヤクザの事務所にお詫びに行きますので任せて下さい。たぶん、慰謝料とか一本ぐらいは請求されるので、本社にも相談します。あと、代車料金も取られますね」


 と、O上司が指を一本立てながら言い出した。 

 計算が早い。慰謝料の相場は百万円なのか。

 ヤクザ対策が手馴れている。


「そうか、本社は俺から連絡しとく。そっちは任せたぞ!」


 O営業所長は九州男児の熱い男で妙にこの案件解決のために熱くなってくれている。

 なんだか、気のせいか、みんな楽しそうだ。

 営業マンって、日頃からピンチが来たら逆に燃えるという気質があるのかもしれない。

 月末の売上げの追い込みとかあって、売上が足りないと歴戦の営業マンは勝手にトラックに菓子を積み込んで、百万円ぐらいのお菓子を問屋に持っていくこともある。

 そして、社長に頼み込んで許可を現地でもらうという荒業をやる人もいた。

 人間関係が出来ているからできる事で、僕は流石にそれはやったことはない。


 お得意さんの担当していた問屋さんの社長にもヤクザに車ぶつけてと言ったりしたら、


「それは大変だったな。何か困った事があったら、何でも相談してくれ」


 と、いつも仕事には厳しいのに、今日は人情があって非常に頼りになる社長である。

 まあ、僕は自分の失敗をつい話してしまうというか、自慢話に変えてしまう悪い癖があるので、そうやって精神的なストレスを解消しているのかもしれない。


 ここまで書いて、新卒で入った営業マン時代全体が黒歴史とも言えると僕はこのエッセイを書いていて気づいた。

 この後、「ヤクザの組事務所に菓子折りもって謝りにいく編」とか、「小指のないインテリヤクザE氏との交渉編」とかのエピソードもあるのだが、これを書いてしまうとこのエッセイ自体が黒歴史というか、公開停止になりそうなのでこの辺にしておく。


 このお話はほとんどノンフィクションであるが、三十年ぐらい前の話なので、記憶が曖昧な部分があり、登場人物について、若干、正確ではない部分もある。

 あくまで、僕の主観であり、その点はゆるく捉えて下さい。

 今後は他の事故のエピソードとか、担当スーパーの娘さんに愛の告白してしまった話に続きます。

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