イベントに参加してみましょう①


 『クダラノ全プレイヤーを対象としたイベントが開催されます。初心者の方もぜひ参加してみましょう♪』


という通知が運営からプレーヤーあてに発信されたのは、キャンディが仲間になって10日ほど過ぎた日のことだった。


「イベント?」


同時にお知らせを受け取った3人娘が異口同音にその言葉を口にする。


折しも全員が世界樹の家の広間に集まっていた時で、やれやれ また教えてやらないとな……と思い口を開きかけたのだが。


「イベントっていうのは、クダラノの運営や上位プレイヤーが開催するちょっとしたゲーム大会みたいなもんだよ」


俺を先回ったキャンディがそう説明してくれた。


「へえ、そうなんだ」

「どんなことするの?」


そして感心したように聞き返す3人。


まあ、確かにクダラノに1年いるキャンディなら色々知っていて当然だろう。


別に誰が説明したって構わない。


俺の負担も減って嬉しいはず……、なのに ちょっとだけ切ない気持ちになるのは何故だろう。


「内容は毎回違うんだ。指定されたモンスターを倒すって時もあれば、クイズ大会みたいなのもある。でも他のプレーヤーやパーティーと競い合うってとこは変わらないかな」


そう。イベントとは競技トーナメントのようなガチの催しでなく、不定期に開催されるお遊び的な雰囲気のものだ。


「そのイベントで勝つと何かいいことあるの?」

「ある!」


ミドリコの問いに、ここぞとばかりキャンディが声をあげた。


「勝ったプレーヤーやパーティーは景品が獲得できる。今回は、なんとクダラノポイント1000が付与されるんだって!」

「へえ、すごいな」


景品の中身を知らなかった俺も、つい横から口を出してしまっていた。


「そうなの?」


反対に3人は何だそれと言いたげな顔をしているが、それはポイントの有難ありがたみを知らないからだろう。


「そもそも、ポイントってなに?」


アカネが口にしたように、クダラノのポイントとは初心者のうちは謎の存在である。


「皆はポイントいくつ持ってるんだ?」


俺が聞くと、それぞれが自分のステータスを確認したようで


「私は3」

「私は1」

「うちも1だ」


ミドリコ、ヒロカ、アカネの順に答えたように、1ヵ月近くクダラノにログインしていても中々貯まるものではない。


「要は、ショップのポイント貯めると非売品のノベルティが貰えるみたいなもんだよ」

「ああ、なるほど」


そんなキャンディの例えで分かるのかと思ったが、アカネの反応を見るにピンときたようだ。


俺にはさっぱり理解できなかったが……。


「クダラノの場合は、プレイを続けると色々な場面でポイントが付与される。だけど獲得するのがかなり難しいんだ」


彼女達が持っている1ポイントは、トリアエズの町の復興を頑張ったご褒美に運営が特別にくれたものだ。


ミドリコが2多いのは、1は特殊モンスターを倒した時に獲得、1はレベル3エリアで他プレイヤーを助けてあげたらお礼にもらえた。


ポイントの価値を知らなかったからだろうが、あのプレーヤーは今頃後悔しているだろう。


「そんなチマチマしかくれないとかケチすぎん?」


アカネが口を尖らせるが、キャンディはにんまりと笑う。


「だからこそだよ。ちょっとずつしか貯まらない分、交換できるものには大きな価値がある。デュフフ……」


嬉しそうに語る姿はちょっと不気味だが、まあ気持ちは分からないでもない。


「ポイントで交換できるものとしては、特殊技能や稀少魔法、一点もののアイテムなんかがある」


それはめちゃくちゃレアなものばかりで、アマテラスさえ所有していないものも多い。


自分で話していて、俺とてソワソワしてしまうくらいだ。


「へえ、稀少魔法って例えばどんなものがあるの?」


最近キャンディと本格的に魔法の研究をしているせいか、ヒロカが食いついた。


「指定した地点にワープできるとか、1つのアバターの中で姿形を変化させられるとかだね」


後者の魔法については、スィーティーが自分で開催したイベントで特別に提供した技術だった。


「特殊技能、っていうのはどういうものなの?」


今度はミドリコ。


普段戦闘をしている彼女は、魔法やシステムの重要さを他の2人よりも強く感じているのかもしれない。


「これは結構面白いのが多くて、例えば武器やアイテムを取り寄せられる通称“四次元ポケット”とか、変わり種だとネタバレ絶許ぜっきょシステムなんてのもあるね」


嬉々としてキャンディが例にあげた2つは、俺にも馴染みのあるものだった。


「四次元ポケット?」

「うん、正式な名称じゃないけど。なんで そう呼ぶのかはボクも知らないんだけどね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る