強襲②
この世界のモンスターは、一般的なゲームやファンタジー作品で見られるものとは一線を画す。
一言で表すのは難しいが、それまで見たことのないような見た目、予想外の動き、俺達の常識が通用しないステータスをランダムで取り揃えている。
その弱点も様々で、例えば俺が一番最初に遭遇したモンスターは赤いヘドロのような見た目の一角獣だった。(後から知ったことだが、クダラノの中ではかなり良心的な姿のほうだ)
それなりにゲームをやり込んだガキだった俺は、当たり前のように一角獣の角へ攻撃を仕掛けた。
どんなゲームでも、一角獣の弱点は角以外にない。
けれど結論からいえば、やつの弱点は口を開けた時に喉の奥に見える第3の目だったのだ。
角はただの飾りだったらしい。
その弱点を探すのに7日、死ぬこと多分100回超(その頃はログイン停止のペナルティはまだなかった)、実際に倒すための作戦を3日ほど考え、29回のチャレンジの末、やっと俺はヘドロ一角獣を倒した。
ちなみにこいつは今の
つまり、この一角獣すら他のモンスターに比べれば討伐が簡単な部類だということ。
クダラノでモンスター1匹を倒すというのは、非常に骨の折れる作業なのだ。
レベルやレア度が上がる度、モンスターの討伐も困難になってゆく。
物理に弱いのか魔法に弱いのか、はたまた両方を合わせないといけないのか。魔法の場合はどの属性が効くのか。
異なる二つの属性の攻撃魔法を同時に浴びせないと防御を突破できないやつもいた。
かと思えば、それまでハズレ魔法として誰も取得していなかった呪文だけがダメージを与えられるモンスターなんかもいたりする。
とにかく、クダラノの敵は多種多様で滅茶苦茶な生態であり、それはもう嫌がらせの部類といっても過言ではない。
また、一度誰かが倒したモンスターなら弱点も攻略されるだろうと思うが、そうは問屋が卸さない。
同じ姿でも性能は全く違うことがほとんどで、逆に前回効いたはずの火属性の魔法で攻撃したらモンスターのHPが回復したなんて意地悪をされたりもする。
クダラノのモンスターを狩るには、常に未知の敵と対峙しながら、冷静に相手の弱点を探し当て、倒す力が必要とされる。
こんな理不尽なゲーム誰がやるのか。と思うが、世の中にはそんな馬鹿が多くいるのだ。
最初はそのクソ難易度に怒り狂いながらも、幾度となく挑み、研究し、モンスターを倒し、その快感が忘れられず また次の旅へ……。
そうやって、人はいつしか深みにはまりクダラノの沼から抜け出せなくなる。
クダラノのモンスター討伐を主体にしてる奴は真性のドMなんじゃないかと時々俺は思う。自分自身も含めて。
そんなこんなで、モンスターを倒すには それなりの知識と経験、そして倒しきるだけの強さが必要とされる。
レプティリアンの前に立ち塞がると、相手も俺を敵と認識したようだった。
ギロリとした気味の悪い目に見下すように睨まれる。
「おい、お前なにしてるんだ!」
親切なプレイヤーが、逃げながら俺を心配する声をかけてくれた。
傍から見ればレベル0の超初心者が高難易度モンスターに立ち向かっているのだから、正気の沙汰とは思えないだろう。
しかし、俺には力はないが知識と経験だけはそれなりにある。
クダラノのモンスターには本当に色々な奴がいる。
言い換えれば、強さ以外で倒せる奴なら今の俺にも勝機があるかもしれないということ。
レプティリアンの外装は黄色い鱗で覆われているが、それほどの厚さはない。
これは物理攻撃には備えていないタイプにも見える。
そう思わせて騙してくる狡猾なモンスターもたまにいるが、今はとりあえず物理以外でダメージを負わせられる敵と仮定しよう。
ならば魔法攻撃が効くのかと思えば、そうとも言い切れない。
このレベルのモンスターならば、奇襲や突発的な戦闘から己の身を守る為に通常時でもシールドや探知機能を起動させていることが多い。が、その様子もない。
一体、どんな生態の奴なのだろうか。
レプティリアンと対峙し、考え込んでしまった俺の耳に
「このクソモンスターがああ!」
野太い雄叫びがどこからともなく聞こえてきた。
それとほぼ時を同じくして、レプティリアンの顔面に直撃する火属性の攻撃魔法。
はっと見上げれば、俺の背後の八百屋の屋根の上に5人ほどのプレイヤーが立ち並んでいた。
「ここまでよ」
「これ以上、町に被害は出させない」
スカウターで見た彼等のレベルは30~40程度。
レプティリアンとも戦える、このトリアエズの町では恐らく最高クラスの上位プレイヤー達に違いなかった。
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