トリアエズの町②
クダラノはプレイヤー達が作り上げたゲームだと、よく言われる。
その言葉は正しく、一番最初の頃のここは ただランダムに出現するモンスターを討伐し黙々とレベルを上げるだけのゲームだった。
正直、クソゲーと評されても仕方ない代物だ。
しかし、段々と増えた人々は考えた。
効率よくモンスターを倒すため、確実に生存率を上げるため、皆が快適に活動するため、どうすれば良いか。
そうしてプレイヤー同士が集まり、町ができ、物品はラベリングされ、秩序とルールが作られた。
ある意味、それは俺達 人類が辿った歴史と同じともいえる。
けれど先にも言った通り、あくまでこの世界のモンスターはランダムに現れ、エリアのレベルは目安である。
たまには低レベルのエリアにバカ強いモンスターが登場してしまうことも、無いことはないのだ。
時間は、少し
トリアエズの町に到着した俺達は、とりあえず大通りを散策することにした。
この町はクダラノに潜ったプレイヤーが必ず最初に立ち寄る場所。
それだけに町の規模は大きく、並ぶ店の数も非常に多い。
正確ではないが、常に数十万のプレイヤーがここに滞在しているともいわれる。
「町っていうから、もっとこじんまりしたのをイメージしてた」
派手に飾りつけられた店がどこまでも居並ぶ光景に、ヒロカが感嘆の声をあげた。
その言葉の通り、トリアエズは現実世界でいえば立派な大都会に相当する。
初期の名前を使い続けているため、
「あ、服屋がある!」
「クレープ売ってる!」
後ろを歩く3人は楽しそうにはしゃいでいるが、その姿を振り返った俺は彼女達に悲しい事実を伝えねばならなかった。
「この町、というかクダラノ内で提供されるサービスは、全てプレイヤーによるものだ」
ゲームが寄越してくれるのは悪趣味なモンスターとたまのトーナメントの案内だけである。
唐突に語り出した俺に、3人は首を傾げる。
「どういうこと?」
「そこの服屋もクレープ屋も、俺達と同じプレイヤーが商売でやってる。自分が物を売る時、品物をただで人にくれてやるか?」
「……あ」
そこまで言えば、意味を理解したようだ。
「つまり、あの可愛い服も、美味しそうなクレープもお金払わないと買えない?」
「そういうことだ」
「でも、こういうのってスタート時にいくらか持ち分があるもんじゃないの?」
不満そうなアカネが言うように、実際そういうゲームは多くある。
初期設定でも10Gは所持してるとか、こん棒だけは持ち物の中に入っているとか。
「残念ながら、クダラノはそんなに人が良いゲームじゃない。俺達レベル0の場合、HPは1だしMPは0。装備、アイテム、金も一切なしだ」
そう断言すると、3人から「ええーっ」とか「けち!」という声があがった。
それはご尤もで、それがクダラノの面白くもあり殺意を覚える部分でもある。
「普通のプレイヤーは、まずはレベルアップを目指す。そのためにはモンスターを倒さなければならない。そのためには装備や魔法を充実させなければならない。そのためには」
「お金が要る」
物分かりの良いミドリコに、俺は頷く。
「とりあえず金を稼ぐことが、プレイヤーが最初にする目標になるんだ」
何だか夢も希望もない話ではあるが、地獄の沙汰も金次第とは昔の人はよく言ったものだ。
多くの子供達が、ここで初めて金の大切さを思い知ることとなる。
「じゃあ、何かしたければお金が必要ってこと?」
「何をするにも金がないと相手にされない」
「はあー、世知辛すぎ」
答える俺に、両手を頭の後ろで組んだアカネがつまらなそうにぼやいた時。
「おお、お前らも来てたか」
往来の向こう側からかけられた声に、俺達は足を止めた。
見れば、10人ほどのプレイヤーが手を振っている。
スカウターで名前を確認してみると、ご丁寧に『小林』『竹内』『木暮』と登録されていた。
その周囲にいる連中も授業で一緒にログインをしたクラスメイト達だ。
「ほら、初めての奴等は俺達が色々教えてやらないとだからさ」
聞いてもいないのに小林が他のメンバー達を顎でしゃくる。
「そうなんだ」
自信満々に言うだけあって、小林達は色々といじったアバターとそれなりに買い揃えた装備をまとっていた。
元々持っていたクダラノのアカウントで潜ったのだろう。
「お前らも助けてやってもいいぜ」
「俺ら的にも負担だけど、まあ見捨てる訳にもいかないからな」
竹内と木暮もこちらに近づいてくるから、俺は丁重にそれをお断りした。
「ありがとう。でも大丈夫だから」
すると、驚いたように顔を見合わせる小林達。
そして、何故か弾かれたように高らかに笑い出した。
「大丈夫って、一体何が大丈夫なんだよ」
「分からないことが分からないって、典型的な素人なんだよなあ」
おちょくるような言い様にアカネが後ろで「はあ?」と凄むから、とりあえずそっちを先に押さえつけた。
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