影の慟哭

明(めい)

第1話

物ごころついた時から中学二年になった現在まで全く友達ができなかった。


どこへ行っても締め出されるのである。


クラスメイトからはそこにあっても誰も気にとめることのない影の如く扱われてきた。


僕自身も、うつむいて人の影ばかり見てきた。


そのせいか、気がつけば人の影から性格や心理を読み取る能力がついてしまった。


例えば小説の読者は文章や行間から作家の人となりを知ろうとするように。音楽家は楽譜から作曲家の意思を理解しようとするように。


このことを誰にも言ったことはなかった。言える人がいないから。けれど僕のその読みは、おおかた当たっている。


今年から同じクラスになった河野さんは、常に学年トップで控えめな女の子だ。


これはあくまで外見で、誰にでもそういうふうに見えるのだと思う。


だけど僕から見る彼女の影は、他の生徒と違ってひと際目立つ。すっきりするくらいにくっきりと黒くて、輪郭が歪んでいる。


後ろめたいことのなさそうな生徒は大抵、輪郭がはっきりしていて、影自体は灰色がかった黒である。僕はいつも、一番後ろの窓際の席にいるのでいろいろな生徒の影がよく観察できる。西日が射して、影が延びても、僕から見える濃さや歪みは変わらない。


河野さんのような影には、常にむしゃくしゃしていてストレスを発散させたい、自分の欲を我慢できずに満たしたいというタイプが多い。


それでもすっきりして見えるのは、ストレスを悪い形で発散させているからだと思う。


彼女の影は、僕が五歳の時に見た父親の影と重なる。多分、万引き常習犯だろう。


気持ちは四六時中、盗むことを考えている。僕は黙ってその影を見ている。


まだ誰にもばれていないみたい。先生にもクラスメイトにも。ばれていたら噂くらい

は僕の耳にも入るだろうから。


放課後のホームルームが終わって、ノートや教科書をしまう音が聞こえてくる。僕も教科書をしまおうと革鞄を開けた。


悪臭が漂っている。緑色のぐにゃぐにゃしたものが入っていたので手を突っ込み、そっと取り出してみると、カエルだった。足先をつまみ、西日にあててみる。


カエルの小さな影が窓に長く延びたけれど、なにも読み取れない。

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