第42話 夏イベってこと?

 俺が今いる場所と言うのは、魔物による殺伐とした空気が漂う魔界であるはずだ。だというのに、目の前では若き少年少女が笑顔で走り回りながら、その艶やかな肢体を適度に晒し、日光を反射し透明ながらに輝いている液体と戯れている。


 婉曲的な表現をしたがはっきり言ってしまえばただの水である。水着を着て水で遊んでいるだけである。


「レイも来なよー」


 遠くからノアが俺に向かって手招きをしている。なんと言うことでしょう。まるで青春の一ページ。ラブコメ作品の一コマのような輝きだ。


 どうしてこうなったのかと言えば、時は遡ること数日前。





 *





『魔界の調査?』

「うん。魔界の安全度も前とは比べ物にならないくらい増したでしょ?だからこの前よりも深いところまで調べられないかなって」


 フィーネによって率いられた魔物のほとんどを壊滅させたことによって、魔物の数が大幅に減少している現在。魔界の情勢はここ十年を顧みても類を見ないほどに安定している。


 そんな事実があるからか、リベラートは俺たちウィル班に魔界の調査を依頼してきたのだ。


『目的は?』

「まあ色々と知っておきたいってことが一つ。何か役に立つような物が見つけられないかなと思ったのが一つ。後は、食べられそうな植物の種とか飼育できそうな動物とかを持ち帰ってきて欲しいってことが一つかな」


 割とまともな理由だった。


「なるほどねー。それで、レイがいるあたしたちに白羽の矢が立ったと」

『そうだね』


 俺が魔物避けになるという性質上、やはり魔界の調査を行うとなると俺は必須だ。俺と一番接点があるウィル班改めノア班に白羽の矢が立つと言うのは道理だろう。


 余談であるが、この数週間でウィル班のリーダーがノアに変更となった。理由としてはノアが最年長であることと、この班の象徴的な俺と言う魔物が一番信頼を置いているのがノアであるからという理由らしい。


 閑話休題。


「私たちだけで行けってこと?」

「いや、付き添いとして、エリクとローゼにお願いしているよ」


 前はノア班だけでの調査だったが、今回は幹部の二人が付いてくるらしい。


『幹部が付いてくるのか』

「魔物の数が減ったとはいえ、より深くまで潜ってもらうことになるからね。後は、役に立ちそうな物資を持ち帰ってきて欲しいから、人手は多いほうが良いかなって」


 まあ合理的な理由だ。

 前回はただユニーク個体がいるかどうかの調査であって、必ずしも戦う必要はなかったし、ジュリアとウィルと言う逃げるのに特化したメンバーがいたからな。


 そう言う理由もあって、俺たちはもう一度魔界を調査することになったのだ。


 そして、まあなんだかんだとありまして、魔界を色々と見て回ったのだが、どうやら俺が居住していた場所よりも更に南に、割と大きな湖を発見した。


 それにジュリアは大興奮。


「泳いでみたい!」


 という要望から、一度はしっかりと調査を行い。司令部へと帰還後、リベラートからの許可を得て、なぜか持っていた水着を持参してまたここに戻ってきたのだ。


 湖があるならば近くに海があるのかなとか、なんでこの世界に水着っぽい何かがあるのかとか思ったが、まあここはゲームの世界だ。恐らくそう言うデータかなんかがあったのだろう知らんけど。


 続編で何かしらやる予定だったのかもしれないし。


 という訳で、ソシャゲの夏イベみたいなことが始まった。夏じゃないけど。


 水着姿のノアやジュリア、ローゼと言った女性陣を始めとして、顔が良いし体も引き締まっているウィルとエリクも水着姿で遊んでいる。


 皆戦いを生業としているからか、体のラインが素晴らしい。なんというか、機能美的な何かを感じる。ローゼには、母性的なものをその胸部と臀部から感じ取れるが。あれでよく戦えるな。

 

 ノアが着用しているのがワンピースタイプの水着で、清楚な印象を増幅させている。ジュリアはオフショルダーってやつだろうか。肩が露出しているやつ。ローゼは、ホルターネックでその抜群のプロポーションを遺憾無く発揮している。


 卑猥な話になってしまうが、この体になって性欲とは無縁となったのは良かったのかなとも思う。ものもないしな。迫力を感じはするが。


 エリクとウィル?


 え、描写が必要か?


 まあエリクはダボッとしたパンツに地肌に直接上着を羽織っている。ラッシュガードと言うには素材が違うが、まあ用途としてはあってる。


 ウィルもまあ似たようなものだが、上着の丈が短い。半分くらいしかない。以上。


 没データなのか続編で実装されたのか、はたまたこの世界に元からあったのか、まあ後者は考えづらいけれど、中々気合いが入っている水着である。


 ファンタジーの世界なんだからまああまり深く考えたらいけないのだ。そもそも守護者の生活や与えられる衣類やら食料やらは、領内基準で全て最高級の品。水着くらいあってもおかしくは無い。自分たちで作ったのかもしれないし。


「レイー、早くぅー」

『今行く』


 ノアに急かされてしまったので俺は彼女達の下へと向かう。


 そういえば、あれだけ悠々と遊んでいるが、水中に魔物は居ないのだろうか。まあいないんだろうな、なんでかは知らないけど。


 俺は年頃の少年少女たちが楽しく遊んでいる様子を見れて、なんだか微笑ましく感じながらノアの下へと急いだ。

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