第20話 師弟
「さっきの戦いを見た感じ、ノアってかなり才能がありそうだったのよね」
まるでこの家の住人のように自然に食卓を囲っていたリリアが言った。
馴染みすぎじゃない?距離感どうなってんのよ。
その一方でツバキは小動物のような仕草で小さくちぎったバケットをちまちま食べている。会話に参加する気配は今のところなさそうだ。
俺?俺はノアの隣で浮いてるけど。
食べられないからね。仕方ないね。
「才能?」
「ええ。あそこまでルオに食らいつけるのは中々よ」
「ルオってそんなに強いの?」
「まあ、単純な肉弾戦ならトップクラスじゃない?どう思うツバキ」
「……そうですね。能力なしならボクよりちょっと弱いって感じでしょうか」
リリアとツバキの評価に、ノアはあまりピンと来ていないようだ。
さもありなん。ツバキの強さがどれくらいなのかまだ分かっていないのだ。ルオがどんな戦い方をしたのか俺は知らないが、まあノアは手も足も出なかったと考えるのが妥当か。
「まあ、そんなところね」
「能力ありだったらどっちが勝つの?」
能力なしならツバキよりも少し弱い程度。なら能力ありならどれくらいなのか。
至極真っ当な疑問をノアはぶつける。
「能力ありだったらそりゃ、ツバキの圧勝に決まってるわ」
その一言にノアはちょっと引いていた。
ルオとどんな戦いをしたのだろうか。引いていると言うことはノアはルオに負けたのだろうし、そのルオ相手に圧勝できるツバキが信じられないって感じか。
「ルオとツバキじゃ相性が悪すぎるわ。ツバキには死角がないから」
「死角がない……?」
「ああ。そう言えば言ってなかったわね。ツバキの能力は『天眼』効果範囲内であればどこであろうと視覚とすることが出来るわ。視点を複数にすることもできる。あとは、ちょっとした透視能力とか、魔力が見えたりするわ」
ノアにツバキの能力の詳細を説明したリリアは、その後に小声で「客観的に挙げてみると万能すぎるわね……」なんて言っていた。俺もそう思う。
「ちなみにアタシは『未来視』。数秒から数分後の未来が見えるわ。アタシの行動次第で未来は変えることが可能」
「未来視……。反則じゃん」
「ふふん。アタシだって幹部の一人なんだからね。当然よ」
ちょっと嬉しそうだ。
「ただまあ、相性はあるわよ?例えばノアの能力とか。あれって念能力よね?」
「うん。そうだよ」
「たとえ未来が見えていても、アンタの能力みたいに事前に対処が難しい能力とかはどうしようもないもの」
まあそうかもな。ノアの能力を喰らわないようにするなら効果範囲外に逃げるとか、能力を発動させないようにノア本体を徹底的に攻撃するとかくらいか。
いや、それなら未来視持ってるリリアなら可能だな。
リリアは相性が悪いとか言っていたが、ノアくらいならどうとでもなるような気がする。
「じゃあ、リリアとツバキならどっちが強いの?」
ノアのその一言によって食卓にピリついた空気が流れた。
押しちゃいけないスイッチを押しちゃったんじゃないか……?
「それはもちろんアタシよ!どれだけ目が良かったところで、未来を見れるアタシに攻撃を当てるなんて不可能だからね」
「未来が見えることと攻撃を当てられることはイコールじゃないですよ……?いくら未来が見えようともボクに攻撃を当てられるとは思わないでください」
ああ。なんか負けず嫌いが発症してる。
二人がお互いをライバル視していることはよく分かったが、質問をしたノアは結論が出ないことに困っている様子だった。諦めろ。
まあ、俺から言わせてもらえば五分五分だろう。
恐らく千日手になるのではないのだろうか。
未来を見ることであらゆる攻撃を避けることが出来て、尚且つ相手がどう動くかも分かるリリアに分があるように思うが、それは理論値である。
ツバキは圧倒的な視点の多さで持ってリリアの行動を予測することができるし、素の戦闘能力やセンスが抜群である。リリアとて、能力を常時使用しているわけではないのだ。
未来を見て最適な行動をとってくることを前提とした立ち回りで持って相殺されるだろう。ということで、どちらかの体力が尽きるまで戦闘は続くと思う。
というか、現在のツバキは魔法を使えるのだからちょっとツバキに分があるか?
いや、それすら読まれるだけか。
「能力を用いなかった場合はボクの圧勝ですから」
「そこまでじゃないわよ!」
あーあ。その反論の仕方では言外に能力なしの素の戦闘ではツバキに勝てないって言っているようなものだと思う。
まあ、この南部において最強はリベラートだと思うけども。
「あ、あの……。もう分かったから喧嘩はしないで欲しいかも……」
「喧嘩なんかしてないわよ。事実を伝えたまで。…………んん゛っ!まあそう言うことで、ノアには素質がある。まあ新人なら誰もが通る道だけど、師匠を付けるべきだと思うわ」
リリアのその発言に、なんだかんださっきまで言い争っていたツバキも頷いている。
「どちらにせよ、戦う術は身に付けておく必要があるのだし、ノアの戦闘スタイルに合った師匠を探すべきね」
「私の戦闘スタイルに合った師匠……」
「うーん。誰が良いのかしら」
ノアの戦闘スタイルは能力による遠、中距離スタイルだ。周辺に物体があれば尚良いのだが、まあ地面とかを念で持ち上げてそのままぶつける脳筋スタイルもいいのではないだろうか。
今のところノアが会ったことがある守護者はみんなフィジカル寄りの能力者だな。
「……リベラート?」
「ボクもそう思います……」
リベラートね。リベラート!?
あいつ暇してんのか?統括だろ?
「ノアの戦闘スタイルは能力重視の物になるわ。アタシやツバキにエリク、それからアリベルト、ローゼは能力そのものに攻撃能力があるわけではないから」
幹部全員じゃねえか。
「他の守護者たちなら能力を主とした戦い方の子はいるけど、立ち回りとしてはリベラートが一番近い気がする」
「そ、それに、リベラートくんなら指導力はお墨付きだし……」
他にも師匠として優秀な人物がいる気がしなくはないが、恐らく事情を知っている幹部たちを教育係に付けたいのだろうという意図を感じる。
俺の監視とノアの指導。これを両立させることができるのだからまあ人手や時間などコスパが良いのだろう。
リベラートの能力は何だったか。
「ちなみに、リベラートの能力は何なの?」
ノアが聞いてくれた。むっちゃナイス!流石ノア。
「リベラートの能力は『聖気転用』。言ってしまえば聖気を用いて魔法を使うことができるわ」
魔法技術が腐らない能力と言うのは便利なのか、それとも魔法が使えなければ意味がない能力と言うべきか。
「それに、リベラートくんの魔法技術は超一流です……。彼の膨大な魔力量と聖気量、“面”での制圧力なら彼以上の人物はいないと思います……」
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