第14話 品定め完了

「じゃあ、幹部の監視を付けるという方針でレイを受け入れるということで異論はないね」


 リベラートがそう言うと、幹部のみんなが一斉に頷いた。


「他の子たちにはなんて説明するつもりなの?」

「それはまた時間を掛けてじっくりとね。その時が来たら皆にも説得を手伝ってもらいたい」

「レイの安全性が証明できたらね」 


 と言うことで、今日はこれで解散だ。

 幹部たちもゆったりとした雰囲気を纏っている。


「それにしても焦ったわ。ツバキ、あれ本気だったでしょ」

「は、はい……。ボクは手加減が苦手なので……」

「あれを真正面から受けたウィルが可哀そうね。大丈夫?」

「まあなんとか。ツバキさんの一撃はかなりのものでしたが」

「新人が耐えられるような一撃じゃないわよ。ほんとに新人なわけ?」


 なんか会話の流れがツバキの一撃を防いだウィルへとシフトしている。

 まあ、新人にしては強いというかなんというか。


「僕はここに来る前は騎士団で鍛えられていましたから」

「そんなの皆そうよ。守護者になるやつなんて騎士見習いが圧倒的に多いんだから」


 守護者の誕生経緯は様々だが、圧倒的に多いのは見込みのある若者を魔界に放り投げ、命の危機を経て能力へと覚醒させる方法だ。

 まあかなり脳筋な方法だし、統計的に覚醒率は十パーセントを下回る。能力者に若者が多いのもここに理由がある。


 能力に覚醒する人間は十五歳から二十五歳の間であることが圧倒的に多い。それ未満やそれ以上の人間は全くと言って良いほど覚醒しない。

 歴史上いないわけではないらしいが、かなり限られていると聞く。まあゲーム内で聞いた話だけども。


 見込みのある若者と言うのは、騎士団や魔法師団に所属していて実力がある人物を指すのだ。最低限魔物に抗うだけの実力がなければ蹂躙されておしまいだからな。

 

 極稀に突然能力に目覚める人間もいる。まあその人物は原作開始してから登場することになるだろうけど。


「まあまあ。将来有望な新人が入ってきてくれたと言うことでいいじゃないか」


 リベラートがそう締める。


 お昼時だし皆もお腹が空いているだろうと言うことで、今日はここらで解散となった。

 幹部たちが次々と部屋を出て行く中で、ノアは最後まで残ってリベラートの下へと向かう。


「リベラート。ちょっといい?」

「ん?なにかな。というか、遠慮が無くなったね」

「レイを危険な目に合わせたんだから当然。それに、ローゼだって畏まる必要はないって言ってたし」

「それについては申し訳ない。でも、予想できなかったことでもないでしょ?」


 リベラートの言葉にノアがむっとする。

 理屈では分かっているが感情がついて行っていないというところだろうか。


「それで、なんの用かな?」

「ウィルが私に届けてくれた食料や日用品ってリベラートが調達したの?」

「ああ。それならそうだよ。昨日の時点で渡せればよかったんだけど、時間がなかったからね」

「あの差し入れに入っていた大英雄シルバの物語なんだけど、私じゃ字が読めないから教えてくれない?」


 ああ。シルバの物語。あったねそれ。ちょっと幹部たちのことで頭がいっぱいだったから忘れていた。


 ノアは字が読めないというのに本を寄越したリベラート。当てつけだったら許さん。

 冗談交じりにそんなことを考えていると、リベラートはなんだか心当たりがなさそうな様子で首を傾げている。


「俺、シルバの物語なんて入れたっけ……?」

「え?」


 え?


「俺がノアとレイに差し入れとしてウィルに届けてもらったのは食料と日用品くらい……。ああ~。なるほどね」


 少し考えたリベラートだったが、すぐに納得したようでニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべている。なんだその笑みは、はったおすぞ。


「それ、多分ウィルからのプレゼントかもね。彼は何かと君を気にかけていたから、多分そうなんじゃないかな」

「ウィルが……?」


 ノアはそれを聞いてなんだか不思議そうに首を傾げている。かわいい。


 だがまあなるほど。リベラートではなくウィルの独断だったか。歳も近いし何かと思うところがあるのかもしれない。


 字が読めないノアに贈るものとしては0点なのだが、まあまだ十六歳だし勘弁してやろう。

 ノアにプレゼントを贈るというその心意気を評価してやる。


「まあ、あまり気分を悪くしないで欲しいかな。彼なりにかんがえて贈った物だろうし」

「別にウィルに文句なんてない。どっちかと言うとレイを危険に晒したリベラート。あなたの方に文句がある」

「ああいや。ごめんって……」

「なら、私とレイに文字を教えて?それでチャラね」


 ふふん。とドヤ顔で要求するノアに対して、リベラートは困ったように頭を掻くが、すぐにいつもの表情に戻った。


「それくらいならお安い御用さ。文字が知りたいなら何時でもここに来るといい」


 そうして、今日のところはノアも解散となった。まあまだ今後も色々とやることはある。


 幹部以外の他の守護者たちにノアを紹介することとかね。


 とはいえ、文字を教われるようになるのはでかい。意思疎通への第一歩を俺は踏み出したのであった。

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