第12話 幹部会合

 朝食も食べ終わり、ウィルからもらった品を整理したり、ノアが風呂に入って体を清めたりして時間を潰していた。そろそろ日が頂点に昇り切る頃合いだ。前世基準で言うなら十二時である。


 ノアは奴隷時代の習慣が抜けないのか、家を掃除している。

 休日の主婦みたいなことをしているノアを片目に、俺は何もすることがないので適当に浮いていた時のことだ。


 家のドアがノックされたのだ。ウィルが来たのだろう。


「はーい」


 とノアが玄関のドアを開くと、そこにいたのは案の定ウィルだった。

 彼は初対面の時のような緊迫した雰囲気が無くなり、年相応の男の子としての顔つきとなっている。こう見るとしっかり子供だ。年齢的には高校一年生なんだからそらそうなのだが。


「ノアさん。それにレイさん。幹部会合の準備が整いました」

「うん。分かった。とりあえずレイを布に包むから、ちょっと待ってて」


 ノアがそう言うと、リビングで二人の会話を聞いていた俺の下へと歩いてくる。


「レイ、昨日と同じようにお願い」


 おっけー。


 俺はノアの要望通りに布に包まる。とは言え、俺一人だけだとやりづらいためノアに手伝ってもらっているが。

 そうして、俺とノアの準備が整った。


「行きましょう」


 ノアの背に背負われながら向かうは昨日と同じく司令部だ。

 昼間と言うこともあってか、外にはある程度守護者の皆さまが暇を潰している。


「幹部の人たちか……どんな人なんだろ」

「ご心配なく。皆さんちゃんと良識のある人たちですよ」


 その一言にノアは一旦安心したようだ。


 俺の知識としても彼らは個性こそあれど常識人だ。まあ、ここで常識を失ったらやっていけないとも言えるんだけどね。理性を失うことは簡単だが、それで何かが解決するわけでもない

 

 守護者たちの扱いは表面上は良いものだ。命のやり取りを強制させられるが、領内でも領主やそれに近しい立場でなければ享受することなど夢のまた夢である食材や娯楽、それに土地。


 実際、資源が限られている箱庭で与えられる待遇としては、釣り合うのは命くらいだろう。


 再三言っているが守護者の武力は強力だ。反乱でも起こされたらたまったものではない。それを防ぐために守護者は隔離されているのだ。ひとまとめにしてしまえば管理もしやすいし、何より家族と離れさせることで実質的な人質として機能させている。


 防衛上の合理性と言う理由が一番だが、守護者たちを四つの地域に分けているのも相互に意思疎通を取らせないという目的もある。

 一応、生活区画には政府の監視も付いているが、極力魔物に近づきたくないという理由から区画内にまで入ってくることはない。


 リベラートが自分たちのことを「都合のいい地雷」と言っていたように、上層部にしてみれば暴発したら厄介だけど使い道は明確にあるから使ってやる程度にしか思っていないのだ。


 そんな実態が分かっているリベラート含め幹部たちが常識を失っているはずがないのだ。


 そんなことを考えながら、昨日通ったばかりの司令部の廊下を歩き、一つの扉の前へとたどり着いた。


「ここです。準備はいいですか?」

「すぅーーー。……うん、いいよ」

「では」


 少々緊張している様子のノア。深呼吸して落ち着いた後に、ウィルがおもむろに扉を開いた。


「失礼します」


 扉が開かれ、まず見えたのは大きな円卓だ。石か何かで出来た大きめの円卓を六人の人物が囲んでいる。

 一人は勿論リベラート。赤髪のイケメンで優し気な雰囲気を出している。


「……リベラート。これはどういうことかしら」


 呆れたように言うのは桃色の髪を靡かせている少し気の強そうな女の子。恐らく彼女は『リリア』だろう。


「はは。まあまあ、君が安易な行動をしなかったと言うことは、そういうことだろう?」

「……ムカつくわね」


 なんのこっちゃと二人の会話を聞いていたが、少し考えてなるほど分かった。


「あらあら。リリアちゃんったら、何を“視た”のかしら」

「リベラートがニヤニヤしてんだからどうせろくでもないことだぞ」

「同感だ」

「え、えっと……。でも問題はないんですよね……?」


 次々と言葉を発する幹部たち。

 順番としては、『ローゼ』『エリク』『アリベルト』『ツバキ』だろう。


「問題は……ないとは言えないわね」

「ほう……?」

「まあ、あまり驚かないことね。冷静になりなさい。アタシから言えるのはその程度よ」


 リリアの言葉に興味を示したのはアリベルトだ。

 少々堅物そうな雰囲気のアリベルトだが、その実意外とノリがいい。


 まあ、そうなことは良いとして、リリア・ミュラー。彼女の能力は『未来視』だ。数秒から数分先の未来を見ることが出来る。純粋に強力な能力だが、能力発現当初は脳への負担が大きく扱うのに苦労していたと聞く。


 彼女が未来を見て、俺の存在を知ったのだろう。それで、あれだけ呆れた様子でいられるのは豪胆と言うかなんというか。どんな未来が見えたんだろうか。


「はい。まあリリアにバレるのは分かってたからいいけど、その前に彼女の紹介をしなきゃね。とは言え、君たちも知っていると思うけど」


 リベラートが仕切りなおしたことで幹部たちの注目がノアへと向く。彼らは皆一様に苦い表情をした。


「彼女の名前はノア・グラン。先日の悪趣味な貴族の道楽によって追放された元奴隷の一人だ。だが、彼女は生きて帰ってきた。俺の力不足によって彼女たちを見捨てることになってしまったが、まずは生きて帰ってきてくれたことを喜ぼう」


 リベラートはそう言うが、当のノアは何とも言い難い表情をしている。だが怒りとかではない。

 恐らく、昨日謝ってもらったのだからもうその話はしなくていいでしょ的な感じなんじゃないかと思う。


 幹部たちはリベラートの一言に神妙に頷いている。


「彼女に関しては昨日からこの南部で仲間として受け入れることにした。この会合が終わってからこのことは他のメンバーにも周知させるつもりだから」


 リベラートがそう言うが、それに対して問いを投げかけた人物がいる。エリクだ。


「領主への許可は取ったのか?」

「必要ないだろう。俺たちがどれだけ増えようが減ろうが、領主たちはあまり関心を持っていないし、ノアの存在は誤差の範疇だ。その上、またノアが気に入られてしまう可能性も完全には否定できない」


 まあなんともひどい扱いである。それでいいのか。仮にも人類の英雄だろう。


「それじゃあノア、自己紹介を」


 リベラートにそう促され、ノアは一歩前へと出る。


「ノア・グランです。歳は十八歳です。これからよろしくお願いします!」


 一礼して自己紹介を終えたノアに温かい目を向ける幹部たち。


「あら、私たちはこれから家族同然の関係になるんだからそんなに畏まる必要はないわよ」


 ノアに対して落ち着かせるように言う、おっとりとした態度で母性を感じさせる彼女は『ローゼ』。

 回復系の能力を持っており、俺とは違って範囲継続回復という便利な能力である。


 ちなみに、母性溢れる体型や言動をしているがまだ二十歳だし、子供なんていない。というかいるわけない。ノアと二歳差とか言うバグ。


「そうだな。我らは仲間なのだ。もっと気を楽にして欲しいものだ。それに、そこにいるリリアは主よりも年下だぞ?」

「だからなんだし。……えーっとノアだっけ?まあ、仲良くしようぜ!」


 どうやらノアに対しての印象は悪いものではなさそうである。分かっていたことだが、俺としてはノアが受け入れられるか不安だったから嬉しい物だ。


「それで、その袋は何なんだ?」


 和やかな雰囲気だった幹部会合だが、エリクの一言によってリリアが少し険しい目つきへと変わる。その様子を見ていた幹部たちも自然と張り詰めた空気を漂わせ……。


 俺、お披露目なんだけど生きて帰れるよね?





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Tips:聖気

能力に目覚めることで扱えることが出来るようになる物質。能力への使用以外は武器に纏わせたり、拳に纏わせる程度が限度。


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