第3章「覚醒」

世界を旅して得た学びを胸に、南城航平は日本の地に舞い戻った。帰国後、彼はかつての職場であるローマン証券を訪れ、旧友との再会を果たす。しかし、そこで目にしたのは、AIに取って代わられた人間トレーダーたちの姿だった。


「南城、お前も知っての通り、うちはAIトレーディングシステムを全面的に導入したんだ」と、ローマン証券の幹部、岩瀬が説明する。

「人間のトレーダーは、もういないのか?」と南城が尋ねると、岩瀬は困ったように肩を竦めた。

「一部は残っているが、大半はAIに置き換えられた。今や、AIが稼ぎ頭なんだよ」


南城は、AIの脅威が現実のものとなっていることを実感する。彼は、世界各国の取引所で学んだ教訓を思い出していた。

「人間には、AIにはない強みがある。相場の本質を見抜く力、未知の状況に対応する柔軟性。それを武器に、勝負をかけるしかない」


南城は、ローマン証券を辞し、独立トレーダーとして新たなスタートを切ることを決意する。彼は、自身の投資哲学である「南城メソッド」を実践する場を求めて、都内の証券会社を回った。


「南城さん、あなたの投資哲学には興味があります。ぜひ、うちで実践してみませんか?」

ある中堅証券会社の社長、木村が南城に声をかけた。木村は、AIー時代でも人間トレーダーの価値を信じる数少ない経営者の一人だった。


南城は、木村の申し出を受け、その証券会社でトレーダーとして働くことになった。彼は、「南城メソッド」を存分に発揮できる環境を手に入れたのだ。


新たな職場で、南城は「南城メソッド」の真価を発揮し始める。彼は、世界の市場で培った洞察力を活かし、AIでは予測できない相場の動きを読み解いていった。南城の取引は次第に成果を上げ、社内で注目を集めるようになる。


「南城さんの取引手法は独特ですね。AIとは全く異なるアプローチです」と、同僚の山田が感心する。

「相場には、データでは測れない人間の感情が反映されている。それを読み解くことが重要なんだ」と南城は答えた。


南城の活躍は、業界内でも話題になり始めた。AIー時代に、人間トレーダーが成果を上げているのは稀有な存在だったからだ。南城は、講演会や雑誌の取材を通して、自身の投資哲学を広めていった。


「人間には、AIにはない創造性がある。その力を信じることが、これからの時代を生き抜く鍵になる」

南城の言葉は、AIの脅威に怯える人々に希望を与えた。


南城の名は、日本の金融界に轟き始めた。彼は、AIに支配された市場で、人間の叡智の価値を証明したのだ。南城は、自身の投資哲学を更に進化させるため、日々研鑽を重ねた。


「これで終わりじゃない。AIもまた進化し続ける。人間は、常に新たな価値を生み出していかなければならない」

南城は、自身に課した使命の重大さを感じずにはいられなかった。


ある日、南城は恩師の佐藤から連絡を受ける。佐藤は、南城の活躍を耳にし、是非とも会いたいと言ってきたのだ。二人は、かつて南城が通った大学の研究室で再会を果たした。


「南城君、君の活躍を聞いて、本当に嬉しく思う。私の期待に応えてくれたね」と、佐藤は満面の笑みを浮かべた。

「先生、あの時の先生の言葉があったからこそ、ここまで来られました」と南城は答える。

「でも、これからが本当の勝負だ。AIの進化は留まることを知らない。君には、人間の可能性を追求し続けてほしい」

佐藤の言葉は、南城に新たな決意を与えた。


南城は、自身の投資哲学をさらに磨き上げることを誓った。彼は、AIには真似できない人間の強みを極限まで追求し、新たな投資の地平を切り拓いていくのだ。

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