第5話 ドロスィーちゃん副学院長先生!!

~ イフリート ~


「ようこそプリティガール! 第一魔法学院はあなたを歓迎するわ!」


 筋骨隆々とした女が人差し指でカナンの顎先あごさきをクイッとする。

 ガクガクブルブルとバイブレーターのように震えるカナン。

 それを横から静かに見守る透明な水蒸気ファントム状態の俺。


「ワタクシは副学院長の【ドロスィー・マッスルウエル】よ! 気軽にドロスィーちゃんと呼んでちょうだい!!」

「ふぁ、はいっ!!」


 ドロスィーちゃんの胸筋の上で金色の勲章が揺れる。


「ごめんなさいねカナンちゃん。あなたはウィンテス王女殿下の紹介だから本来は学院長が挨拶しないといけないんだけど! ちょっと陛下に呼ばれて王城に行っちゃって留守なのよう!!」

「い、いえいえいえ! ドロスィーちゃん副学院長先生の武勇伝はお聞きしています! このような卑しい身の私を、

英雄『城塞落し』御自らご案内くださり、恐悦至極に存じます!」

「あらまあ!」


 学院長でなく代理人に案内されることを、侮られたと受け取る者もいるだろう。

 いかに貴族ではない平民だろうと、王族の後見を得るような人物がその辺りに鈍感なわけはない。

 軽んじられたと感じたことは後見した王族に伝わるだろうし、周囲もその事実を噂する。

 ましてや学院長のアンブローズはウィンテスの派閥の重鎮だ。

 二人の不仲説は宮廷雀どもによって、雷鳴のように響き渡ることだろう。


 だからカナンの「全然気にしてないよ。寧ろ英雄に案内してもらって超嬉しいよ」という返しは満点だ。


 まあ、テンパっちゃいるけどな。


「学ぶ資格に身分の貴賤は関係ありません! カナンちゃんが栄光ある魔法の力を手にするように! ワタクシが全力でサポートしてあげるわ!!」


 おおっと、ドロスィーちゃん必殺のベアハッグがカナンを捕えた!

 ちなみにドロスィーちゃんはマッスルウエル伯爵家当主なので、権力に弱いカナンは抵抗できない!!


(「た、助けてイフリート!」)


 カナンからの念話が聞こえた。


(「熱烈な歓迎じゃないか。前の学院みたいに場違いだとか言われなくてよかったな」)

(「それ以前の問題だよ! ボク、もうダメっぽい……」)


 表現は過剰だが、熱意のあるいい先生じゃないか。

 俺も前世でこんな先生に出会っていたらなぁ~。


(「イフリート、ビックバン・ブラスターをお願い」)

(「落ち着けカナン。お前も消し炭になるぞ」)


 カナンの顔が赤くなっているのは締め上げの効果じゃなくて、ドロスィーちゃんの熱気のせいだと『鑑定』でわかっている。


(「ほれ、冷やしてやるから待ってろ」)


 ミッションの成功率を上げるため俺の存在は隠す方針だが、そんなものでカナンを犠牲にする気はない。


 なのでカナンに冷却ミストをプシューと噴き掛ける。

 

「あ~気持ちいい~。天国に逝きそう~」

「あら、ごめんなさいカナンちゃん。ワタクシ、ちょっとはしゃぎ過ぎてしまったようね」


 ドロスィーちゃんから解放されたが、フラフラするカナンを支える。

 俺の体は透明になっているが、さて、バレずにいけるかね?


「それじゃあカナンちゃんを教室に案内するわ! 行きましょうか!」

「は、はい!」

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