第6話 カナンとの関係
部屋に転がる男と女の死体から血の臭いが立つ。
問題無く機能する五感、そして人殺しに忌避を抱かない心に感謝する。
敵を殺す度に吐いていたらキリがない。
弱さ故の
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
『大丈夫かカナン、怪我は無いか?』
「うん、大丈夫、だよ」
にっこりとカナンが笑う。
それがいつかバスの窓に映った、死にそうな顔の誰かと重なった。
『カナン、俺はお前の魔法だ』
抱き締めて背中を叩く。
『俺は裏切らない。俺はお前が死ぬまで側にいる。無理は俺が全部引き受けてやる』
カナンの死は俺の死だ。
そしてカナンは『 』のように俺をまだ裏切っていない。
大丈夫、まだ信用してもいい。
『俺を信じてくれカナン』
「っ、うん!」
緑の瞳から零れた涙を指で拭き取る。
『さて、これからどうする?』
冒険者ギルドは信用出来ない。
後日やって来る調査官が公明正大である保証は無い。
そして自由に動く
「町を出てケルバス王国へ行くのはどうかな? 敵対しているケルバス王国なら、この国のギルドも手を出すのが難しいと思うんだ」
『賛成だ。そうと決まれば準備をしよう。カナン、風の魔法を使ってくれ』
「わかった。流れ
俺の体が水から風へと切り替わる。
『宿の中を見て来る。何かあれば合図をする。カナンはここで待っててくれ』
魔法の出力を変化させればそれが合図になる。
「イフリート、ボクも行くよ」
『……それは合理的じゃない。他に刺客がいる可能性もあるし、罠だってあるかもしれない。俺ならば消されたとしても、カナンがいれば再構成出来る』
「わかってるよイフリート。でもごめん。ボクはボクの手で前に進みたいんだ」
カナンの瞳に宿った強い光に
鏡に映った俺の顔の目は、いつの間にか壊れた人形のガラス玉のようになっていた。
閉じ込められて、足掻く事さえ忘れて、動かなくなっていった。
けど。
『……わかった』
いつか出会った、無茶を選んだ奴らの目には強い意志の輝きがあった。
そんな奴らがいつも上に昇っていった。
そして今のカナンと同じように、目に強い光を宿していた。
―― 手探りだ。カナンとの関係も、俺の歩く道も。
―― だが今は。
『一緒に来てくれカナン』
「うん!」
* * *
冒険者ギルドの支部長室、その棚に置かれた水晶の
「ふむ」
書類に走らせていたペンを止め、ウカップスが椅子から立ち上がる。
壁に掛けられた絵画を横にずらし、隠されていた通信機のボタンを押した。
魔力の洸が灯り向こう側の、雑踏の音と女の欠伸する声が聞こえた。
「私だ。ジーグマンが死んだ」
通話相手の、かなり珍しい、息を飲む音が聞こえた。
「ジーグマンの仕事を引き継いでE級の【カナン】を消せ」
『承知しました』
通話が切れた。
ウカップスは絵画の位置を戻して通信機を隠す。
そして何事も無かったかのようにペンを握り、仕事の続きへと戻った。
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