工期に間に合わねぇぞ…コマツ塗装店の逆転戦術
カズサノスケ
工期に間に合わねぇぞ…コマツ塗装店の逆転戦術
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーー!」
公衆トイレに駆け込もうとしたが、目前にして入るのを躊躇してしまったお陰で…。もう32歳にもなろうという大人の私が、その…。幼児が寝ている間に布団の中でしてしまう様な失態を犯す羽目になってしまった…。
そうかナイスアイディアってこういう事だったのか…。あいつら、いい加減にしろーーーーー!!
その事件が起きる前日の事。
「ダメだ…。この壁の塗装、明日までとても間に合わないぞ……」
「まさか今日使う分の塗料が欠品で届かないとは参ったな……」
「12色も混ぜて練り上げる特殊カラーだ。1つ足りないだけで全然違う色になっちまう!」
私が通勤でいつも通る公園。そこにちょっとオシャレな雰囲気を放つデザイナーズトイレが造られはじめ、建物が完成するとやって来たのが今難しい顔をして話し込んでいるおじさん達だ。
背中にどーんと『コマツ塗装店魂』と印字された作業服姿のおじさん達の姿を見る様になってもう3日目。
不愛想なコンクリート色だった建物も今は少し違う。とてもトイレとは思えないほどの爽やかさを放つ薄いブルーっぽいカラーで半分ほどが彩られていた。でも、おじさん達の様子を見るにトラブル発生の様だ。
小走りで先を急ぎながらチラりと見ていただけだけど3日間も仕事ぶりを拝見しているとちょっと情の様なものも沸く。作業服についてしまった塗料はお構いなし、顔に飛び跳ねても気に留める様子なく、ハケの先端に意識を集中させている姿はちょっと眩いくらいに思えた。
だから、ほんとは先を急がなきゃならないのにこうして足を止めて見守ってしまっている。それでどうにかなるわけじゃないけど。せめて、心の底で応援くらいは。
「おぉ! さすが我らがコマツ社長、ナイスアイディアですぜ。その手で行きましょう」
「工期だけは絶対に守る。それがウチの魂だからなっ!」
届いた!?それはわからないけどもう大丈夫そうだ。先を急ごう。
そして、運命の日。
私はうっかり自宅でトイレを使わずに出てしまった。意識のどこかに完成したばかりのあの公衆トイレで済ませればいいとか思っていたかもしれない。
「うん! 綺麗な薄いブルーっぽい色。あのおじさん達、やるな~~!」
オシャレなデザイナーズトイレに近付く。
「あれ? 今、ちょっと壁が動いた様な?」
疲れている?気のせいだ。更に近付くと。
「えっ? トイレの周りを飛んでいたトンボが消えた? 壁から何か赤いものが伸びた様な気も……」
公衆トイレに入ろうとしてわかった。壁にはびっしりと無数のカメレオンが括り付けられていた。身体を薄いブルーっぽい色に変化させたそれが…。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーー!」
(完)
工期に間に合わねぇぞ…コマツ塗装店の逆転戦術 カズサノスケ @oniwaban
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