超恒久的共生盟約都市(2)
シティが『眠らない街』と称される
眠らない街を行き交うのは多種多様な種族の都市民たち。亜人に魔族、それにアンデッドなどもいる。マホロのようなヒューマも。シティには常時百種類以上の種族が暮らしていた。
「つーか、誰のせいで【
商業ビルに設置された大型街頭ディスプレイの下で信号待ちをしていると、ガルガが不貞腐れたように言った。
「ふふっ、僕だねー」
大破したのは愛車だけではない。乗っていた本人まで打ち所が悪く三日も生死の境をさまよったと言うのに、マホロは大して悪びれもせずへらっと笑うだけ。普通なら人生で二、三度入るかどうかの【集中医療シェルター】のお世話になりすぎて、別荘か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。
痛みや傷跡が残らない最新医療技術の恩恵か、反省している様子がまるでない。それに加えて一週間前の爆弾事件。ガルガの心労は絶え間なく続く。能天気な相棒の態度に、ガルガは眉間のシワを深くして目を細めた。
歩行者信号が青に変わり、スクランブル交差点は一気に往来に支配された。二人も雑踏の中をすり抜けながら慣れたように進んで行く。無事に横断歩道を渡り切った二人は、大通りから一本入った裏道へ足を向けた。そこはビルの裏手に水路が通る小道で、職場への近道なのだ。
手すりが付いたちょっとした堤防の下で、水路に浮かぶマーメイド二人が楽し気に語らっている。
「ねぇ、今月の新作コスメ特集見た?」
「あたしのエメラルドスキンじゃ発色がいまいちだったわ」
「えっ!? もう試したの!?」
「発売日当日にね」
水生生物は地下鉄のさらに下に広がる地底湖で暮らしていて、用事があれば水路を通り街へ繰り出す。地底湖は資源も豊富で食べ物に困らず、街へ出れば最新トレンドに触れることもできる。彼女たちのような戦後生まれの若いマーメイドたちから言わせれば、シティはまさにユートピアそのものだ。
しかし、今年で終戦百年を迎えようとしているシティが本物の理想郷になるには、まだまだ時間がかかる。
「――誰かぁッ! ひったくりよぉおお!」
ビルを二つほど挟んだ先から女性の悲鳴が聞こえた。瞬時にガルガの耳がピクリと立ち、二人は条件反射で声の方へ駆け出す。
そこにいたのは、人気のない飲食店の勝手口に力なくへたり込んだ小人族の女性だった。ひどく狼狽えた様子で、「どうしましょう、どうしましょう」と茶髪の頭を抱えている。パサついた髪や赤切れが残る小さな手は働き者の証だ。マホロは素早く駆け寄って膝をついた。
「おばさん、ケガはない?」
「え、ええ……でも、お店の売上が入ったバッグを取られちゃったの……! 貸金庫に預けに行くところだったのに、どうしましょう……!」
「落ち着いて、大丈夫だよ。犯人の特徴とか、顔とか、何か覚えてることはない?」
「それがね、何もないところから急に現れて、バッグを奪ったら私と瓜二つの姿になって人混みの中に走って行っちゃったの! もう、何がなんだか……」
「透過と擬態……」
マホロは脳内に広大な団地を思い浮かべた。ここは彼の記憶の宮殿。暇さえあれば保安局に入り浸って犯罪データを
透過、そして擬態。この犯人はどこからともなく現れて犯行に及び、瞬時に姿を変えて追跡の手を逃れている。マホロは強盗犯が住まう棟で、脳内の一室をノックした。返事を待たないまま中へ押し入る。そこにいたのは――。
◇◆-------------------------------------------------◆◇
<用語解説>
【
大型自動二輪車のアーティファクトで、マホロとガルガの愛車。真っ赤なボディがトレードマーク。動力は魔力を充填できる希少な魔鉱石で、それを二つも積んだいわゆるチートバイク。
【集中医療シェルター】
体内に魔力を有さないことから治癒魔法が効かないヒューマのために開発された医療用アーティファクト。魔法薬液で満たした装置の中に入ることで、ヒューマでも治癒魔法による超次元的な治療が受けられる。事故や殺傷事件など、緊急性を要する外傷の治療に使われることが多い。
この装置のルーツはシティの遥か北に広がる黒竜の国『テンガン領』にある。薬師の姉がヒューマの体内に一時的に魔力を滞留させる薬草茶を作り、治癒魔法師の妹が治療をしたのが始まりとされる。
二人の巫女が暮らす白亜の街アダンテには、治癒と浄化を司る
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます