(9)
「出ていけ。宿代は払わなくていい」
「えっ?」
僕が白人美少女にキスしただけで、宿中が、とんでもない騷ぎになった。
「あんたにも都合が有るんだろうと思って
「そ……そんな……」
「出て行かないと官憲を呼ぶぞ」
どうなってんだ、この世界?
表面上はポリコレに異様に配慮しているとしか思えないけど……その「ポリコレ」の背後に有る「何か」が明らかにおかしい。
でも、どこかで見覚えが有る「おかしさ」なのに……それが巧く言葉に出来ない。
とぼとぼと、馬小屋に向かい……。
「誰か、御祓い専門の魔法使いを呼んで来て‼ すぐに‼」
宿屋のおかみさんらしいデブ中年女が、そう叫んでいた。
聖女様とスナガは縄で縛られている。
「大丈夫だったの?」
「幸いにも……人間の中には、私達を穢れた存在だと考えている方々も居ます」
「え……えっと、なら大丈夫じゃなかさそうだけど……何が『幸いにも』なの?」
「穢れた存在を殺せば、自分も穢れてしまい、その結果、何かの祟りが有ると思われているのです。だから、通常の暴力で殺される心配は、かえって少ないのです」
「通常の暴力? 他の方法では殺されるって事?」
「んだ。地下の下水道に住んどるオラ
最悪じゃないか……まるで……白人と有色人種が逆転したナチスだ。
いや、待てよ、ナチスだって良い事をした、ってのが、僕の「前世」におけるSNS世論だったんで……ナチスだって、ここまで酷い真似はしてない筈だ。ユダヤ人を殺したかも知れないけど、もっと人道的に安楽死させた筈だ。
ああ、そうか。
この世界は……ポリコレの暴走で、おかしくなってるんだ。
このままでは、きっと、僕が元居た世界でも、ポリコレの暴走で、白人が夜道を歩いてるだけで、警官に職務質問され、下手したら、犯罪者扱いされて射殺され、「白人にも生きる権利は有るんだ」なんてデモをやろうものなら、警察から弾圧され、催涙ガス弾を放物線じゃなくて水平に何発も撃ち込まれ、SNSでは嘲笑・非難される世の中が実現してしまう……。
ああ……。
そうなった日には……
ああ、良かった……。
ボケた
本当に良かった。
この世界は……僕が元居た世界の未来だ。
でも、僕が元居た世界には大切な人など居ない。
ああ、クソ。僕が好きになってあげたのに、僕をゴミ虫でも……そうだ、この世界の有色人種どもが白人を見るような目で見ていた、あの糞女も含めて、元の世界には、幸せになる権利が有る奴なんて居ない。あんな世界の屑人間どもが、どうなろうと知った事か……。
でも……。
僕は、聖女様とスナガを縛ってる縄の端を持ちながら、歩き出した。まるで2人を強制連行しているみたいだけど、僕は現実主義者だ。こうしないと、他の人達の反感を買うのなら仕方ない。
だけど……。
そうだ。
心は折れかけているかも知れないけど……僕は、まだ、立つ事も歩く事も出来る。
その力を与えてくれているのは……この聖女様だ。
「誓うよ……」
「え……?」
「僕が、この世界に転生したのも、何かの運命だ。僕は、この世界を変えてみせる。聖女様の為に……」
そうだ……。
僕は、この時、あんな運命が待っていたなんて、知らなかったから、あんなクサくてダサい中二病台詞を口に出してしまったんだ。
『何かの運命だ』
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