第2章 ダークフレイム

第39話 宅配に危険物を乗せるのはやめろ

 メタンフラワーを倒したアクセルヒーロー事務所は、仕事も若干増えつつヒーローとして街の平和を守っていた。

 オーナーの神村結城かみむら ゆうき(28)は、事務所内で世話になっているテレビ局プロデューサーからの電話を受けていた。


「もしもし神村ですが」

『HBCの矢車やぐるまよ』

「あーどうも、儲け話ですか?」

『あなたも大分オーナー業が板についてきたわね。日本ヒーロー協会が昨日付けで、アクセルヒーロー事務所を正式にCランク事務所に格上げしたわ』

「ケチつけるわけじゃないんですけど、クラスⅢの事件を解決してDからCの格上げは安いんじゃないでしょうか?」

『あなた達の事務所はニュースハイライトにもよく映るし、貢献度はBクラス事務所相当だけど、雇用ヒーローが少なすぎるの。経営も赤字だし。経営も赤字だし……経営も赤字だし」


 3回同じことを言われて、結城は何も言い返せなくなる。


「Bに上がる絶対条件は事務所運営の黒字化と、最低でも後数人、欲を言えば10人はヒーローを雇用しないと無理よ』

「勘弁して下さいよ。ウチ、スポンサーも今のとこ一社しかないんですから」

『アルファオービットUSAでしょ? よくあんな大きな武器メーカーが、日本の木端ヒーロー事務所と契約してくれたわね』

「木端……」

『あそこならお金持ってるんだから、しこたま融資してもらいなさいよ』

「まだ今のところ融資内容は白紙でして」

『どういうこと? スポンサー契約して、数週間経つでしょ?』

「はい、向こうとの折り合いがつかなくて困ってます」

『なに、そんな無茶なプロモーション要求されてるの?』

「向こうからの融資を受けると、30億のヒーロー渡そうとしてくるんで困ってるんです」

『? よくわかんないけど、それじゃBランク行く前に潰れるわよ』

「別のスポンサーが見つかるまでは、自前でなんとかするしかないですね」

『凜音と律に稼がせなさいよ。彼女たちのグラビアでも売れば、当座の資金はなんとかなるでしょ』

「あまりアイドルみたいなことさせるのは……。やはりヒーローの本懐は人命を守ることですし」

『あのねぇ、あなたが大事に大事にヒーローを育ててるのはわかるけど、ちゃんとお金を稼がせないと、最終的に首切らなきゃいけなくなるわよ』

「はい……」

『赤字で倒産なんて、一番つまらない終わり方したら怒るから。わかった? か・み・む・らオーナー?』

「はい、すみません」


 ブレザーにミニスカートの制服型ヒーロースーツを纏った凜音と律は、事務所のソファーで寝そべりながら携帯に謝る結城を見やる。


「まーたパパ怒られてる」


 金髪ツインテで目尻が少し上がった気の強そうな少女、八神凜音やがみ りおん(17)。ヒーローランクC。

 元巨乳グラビア系ヒーロー事務所プラチナBODY所属で、スタイルが良く爆乳女子高生ヒーローとして人気も高かった。

 しかしその勝ち気な性格が災いし、ヒーローチーム内で問題を起こしアクセルヒーロー事務所へと移籍。

 現在はヒーロ業に重きを置くアクセル事務所の水があっており、イキイキと依頼をこなし、テレビ露出も増えている。

 氷結能力アイスブリザードを得意とすることと怒りやすいところから、キレた冷凍庫や力の凜音と呼ばれる。


「多分矢車さんに、赤字なんとかしろって言われてるんでしょう」


 あっさり電話内容を見抜くのは、黒髪ロング、前髪ぱっつんの少女黒崎律くろさき りつ(16)。ヒーローランクC。

 凜音と同じく元プラチナBODY所属で、巨乳系アイドルヒーローとして売られていた。しかし持ち前の冷静さとダウナー的な雰囲気から一般層にウケが悪く、肉感のある太ももと相まってマニア受けグラドルと化してしまった。

 家庭事情の悪化も重なり、家なき子となってしまうも結城に拾われアクセルヒーロー事務所へと移籍。

 情報解析能力サードアイを有し、直接的な戦闘能力は低いものの高度なハッキングやジャミングなどの支援を得意とする。

 VRゴーグルのようなヘッドセットと、コントローラー式のドローンを扱うところから、ゲーミングヒーローや技の律と呼ばれる。


「パパがカメラマンやるなら、グラビアやるって言ってるのに」

「なぜか嫌がるんですよね」


 ファザコン気質な二人が話をしていると、キンコーンと事務所の呼び鈴が鳴る。


「お届け物でーす」

「うわ、なにコレ」

「段ボールの山ですよ」


 凜音と律は、宅配便が持ってきた大量の段ボール箱を事務所内へと運び込む。


「パーパーなんか来ましたよー、アルファオービットから」

「なんだー? 融資の話は今のところまだ何も決まってないぞ」


 結城は電話を切って、並べられた段ボールに近づく。

 今のところグレースの祖父スポンサーから、融資を受けるならグレースの面倒を見てもらわないと困ると言われ、アクセルが全力でNOと言っている。

 そのため資金融資はおろか、武装面での融資も受けていないはずだが……。


「パパー、段ボールに武器弾薬って書いてますよ」

「嘘だろ、あのジジイしびれを切らして無理やり送りつけてきたな! というか武器弾薬を黒猫で送ってくるな!」


 律が段ボールのテープをビーっと剥がすと、中から本当に拳銃が出てきた。

 アルファオービット製最新の拳銃で、赤外線レーザーサイトと高倍率照準器付き。

 シルバーメタルなカラーリングは、美しさすら感じるが拳銃とは思えないほど重い。


「こんなの撃ったら肩外れちゃいますよ」

「パパ、こっちからはローラースケート出てきた。これいつぞやの下着ドロが使ってたやつと似てる」

「凜音、律、今すぐ武器を戻しなさい。送り返してくるから」


 こんなの受け取っちゃいけません、不良になるよと叱りながら段ボールの山に近づく。

 その中で一際大きい箱を見つけて顔をしかめる。


「なんだこの特大サイズは?」

「あぁそれめちゃくちゃ重かった。宅配便の人に手伝ってもらって中に入れたし」

地対空スティンガーミサイルとか入ってるんじゃないだろうな」

「手榴弾詰め合わせだったりして」

「アルファオービットの試作型レーザーキャノンかもしれませんよ」

「どれもいらん」


 結城は戦争でもしたいのかと思いつつ、でかい段ボールをベリベリと開けていく。

 すると、中から飛び出してきたのは武器ではなく


「イッツアサプラーイズ!」


 爆乳カウガールことグレースだった。

 広縁のカウボーイハットに金髪ロングの髪、圧倒的存在感の胸を頼りない肩紐で支えるビキニ。

 細くくびれた腰にはレザーのベルトが巻かれ、ホルスターには大口径の44マグナム。

 ズボンは下半身のビキニがむき出しになるデニムのチャップスを履いており、靴はつま先が尖り踵が高く上がったカウボーイブーツ。

 彼女はワイルドガンズ所属のヒーローであり、スポンサーの孫でもある。

 グレースは長らく主人に会えなかった大型犬のように、結城に抱きつき押し倒してくる。


「会いたかったわユーキ!」

「くそ、あのジジイ孫も一緒に送りつけてきやがった!」

「なかなか呼んでくれないから来ちゃった。どうして呼んでくれなかったのかしら」

「君の後ろに移籍金30億という数字が見えるからだよ。ったくよく一人で来たな」

「あら、実はミーだけじゃないのよ」

「は?」

「カモン、スターズ!」


 グレースが呼ぶと、ぞろぞろと事務所に入ってくるカウガール集団。

 服装は皆グレースと同じで、記号的に見るとオレンジロング髪、黒髪ショートボブ、栗色ロングヘア。

 揃いも揃ってパワーオブアメリカというスタイルをしている。

 メタンフラワーを倒した時、グレースが引き連れていたチームメンバーだ。


「どなたかな?」

「左から、デネブ、アルタイル、ベガ、ワイルドガンズではミーを含めスターズと呼ばれてたの。彼女たちはスーツや武器、マシンのメンテナンススタッフよ。勿論ヒーローとしても戦えるわ」

「「「グレースと一緒にお世話になりまーす」」」


 爆乳カウガール達が笑顔で頭を下げる。

 結城はふらっと倒れそうになったが、なんとか持ちこたえ大きく首を振る。


「待て待て待て! こんな弱小事務所に、ワイルドガンズの精鋭スタッフなんかいても持て余す上に給料払えないって!」

「ノーノー! ユーキの事務所を調べたけど3人しかいないのでしょう? まともなCクラス事務所なら、最低でも10人はスタッフがいるわよ」

「うぐ……痛いところを突く」


 特に”まともな”というところが結城の胸を抉る。


「スポンサーなし、スタッフなし、ヒーロー2人じゃどう考えてもこの先やっていけないわ!」


 グレースの圧倒的正論パンチが、容赦なく結城をサンドバッグにする。


「優れたヒーローには絶対優れたスタッフが必要なの。F1でもピットインして、クルーが誰もいなかったらレーサーが自分でタイヤをかえるしかないのよ。そんなの見てるオーディエンスはおかしいと思うでしょう」

「グ、グレース、そのへんで」

「パパ、白目むいて泡吹いて倒れてますよ」

「相当効いちゃったのよ」


 結城は18の女子高生カウガールに正論パンチでノックアウトされてから、すくっと立ち上がる。


「わかった。明日、第3回アクセルヒーロー事務所面接を行う。ちゃんとしっかり俺の目で確認してから採用を行う。今回は予算のことは気にしない、良いと思ったやつは全員取る」

「いいわねそれ! ミー達も正々堂々とオーディションで合格するわ!」


 その話を聞いた凜音と律は、突然アクセルヒーロー事務所の社員証を肩にかけて、ソファーにふんぞり返る。


「面接です、か」

「あたし達の出番のようね。とりあえず、あたし達のお眼鏡にかなってもらわないとね」

「背中を預けるわけですからね。品位も求められますよ」

「「厳しく面接するよ!」」


 声を揃える圧迫面接官。


「お前ら選ぶ側になると、急に態度デカくなるな」

「我々社員ですので」

「そうよ、あたしたちアクセル所属ヒーローだから」

「なんの肩書にもならんぞ」






――――

2ndシーズンということで、キャラの説明多めでスタート。

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