第二話 女教師の誘惑
四限目の始まりを知らせるチャイムが鳴ると、騒がしくしていた女子達も自分の席に戻り始め、教室がようやく静かになる。
貴重な休み時間なのに今日も全く眠れなかったな。
男子校を選択すべきだったかもしれない。学校選びに失敗したかも。
「はぁ……」
溜息をつき本気で転校を考え始めている時、前の扉から四限目の女教師が入って来るのが見えた。
彼女は二十代後半の国語教師で、いつものように色気を振り撒きながら教壇に向かうと、程よくウェーブのかかったブロンドの髪を手でサッと払うと、機嫌よく挨拶をする。
「みんなぁ、今日も楽しい国語の時間ですよぉ、夕子ちゃんばっかり見てちゃだめだからねっ♪」
胸の下で組んだ腕が、はち切れそうな白いノースリーブのブラウス越しのバストをグンッと強調すると、男子が喉を鳴らすのが聞こえた。
どこの世界に、教室に入るなり生徒達に向かって色目を使う教師がいるんだ。
ここにいた。
やはりこの高校は教師もどこかおかしい。
ヘタに大人の色気が溢れているものだから、思春期の男子はたまったものではないだろう。
そして俺もまた目のやり場に困っていたりする。
男子とは逆に女子の方は、そんな女教師に
「ちょっと先生! 男子生徒に色気を振り撒かないでください!」
「そうよそうよ! エロ女教師!」
「そのエロい体を隠してください!」
「ハゲの教頭に訴えるわよ! この痴女教師っ」
「タコ……シすべし……」
最後、俺の右隣の席から不穏なつぶやきが聞こえてきた気がするが、聞かなかったことにしよう。
国語の授業の前は大体いつもこんな具合で、賑やかこの上ない。
「はいはい女子のみなさん、自然と溢れ出てしまう大人の魅力に嫉妬するのは分かりますが、静かにしてください。さあ授業を始めますから着席してね。ほんと毎回やんなっちゃうわね」
女教師はそう言いながら教室を見渡すと、俺の方に視線をピタリと止め何やら含み笑いをしたように見えた。
このおかしな国語教師の名は
どういうわけか、この女教師は俺の
眠気と闘いながら国語の授業を受けていると、ようやく四限目終わりのチャイムが鳴り、解放感からつい無意識に欠伸をしながら腕を伸ばしてしまう。
「ちょっと霧島くん? 私の授業そんなに退屈だったの? 夕子ちゃん悲しいっ」
あっ、しまった。まだ授業終わってなかったのか。
谷尻先生が小走りで胸を揺らし歩み寄ってくると、頬を膨らませ睨んでくる。
あの……とても顔が近いんですけど……。
それにブラウスのボタンの隙間から谷間が……。
さらに大人な香水の香りでめまいが……。
「すみません……」
俺は顔を熱くして素直に謝罪するも、皆の視線が恥ずかしくて下を向いた。
すると教室のあちこちでクスクスと笑う声やヒソヒソ話す声が。
さらにあのカシャカシャという謎のラップ音まで!?
「きゃっ、かわいい」
「恥ずかしがってる……」
「チャンスっ」
「後で共有ねっ」
「モエ……」
くっ、なんか皆にすごくバカにされてる。穴があったら入りたい。
「もっと私に……じゃないわっ授業に集中しないと、ダメなんだからねっ、もうっ」
谷尻先生の、大人の雰囲気とギャップのあるかわいい声が頭上から聞こえ、コツンと軽く拳で頭を叩かれた。
顔を上げると、彼女はニンマリ笑った後、黒いタイトなスカートを履いたお尻を揺らし、鼻歌交じりで颯爽と教室を出て行く。
苦手だけど、悪い人ではないんだよな。
ふと気づくと、なぜか女子たちは谷尻先生の後ろ姿に鋭い殺気を放っていた。
さて、気を取り直して、待ちに待った昼飯タイムに入るか!
俺が勢いよく立ち上がると、時が再び動きだしたように皆一斉にいそいそと昼食準備を始めだした。
ちらちらと横目で俺を気にする視線を多く感じるが、きっと早く教室を出てくれと思っているのだろう。
まあ、強面で恐れられている俺を昼食に誘おうという奇特な人間がいるはずはないので、いつものように教室を出ようとした時だ――
俺のシャツを横からグイグイ引っ張るやつがいた。
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