こわもての俺は今日も学校で怖がられる

八万

第一話 いろおとこ


「暑っつぅ」


 七月の始めの午前中でこの暑さってやばいだろ。


 俺は教室の席にだらりと座って、授業の休み時間に下敷きで胸元を扇いでいた。


 そんな程度では、汗が噴き出すのを防ぐことができない。


 俺の席は一番後ろの窓際で、窓を全開にしているが、今日は生温かい微風が流れこんでくるのみで、くそ暑い。


「暑っちぃ」


 本日何度目かの嘆きが口から勝手に漏れ出てしまう。


 俺は我慢できずに、シャツの第三ボタンをむしるようにはずし、より激しく下敷きを扇いだ。


 そんな時、溜息のようなものが、そこかしこから聞こえてきた。


 ふと、周りを見渡すと、クラスメイトの女子達がこちらを様々な表情で見ているのに気づいた。


 共通しているのは皆、この暑さでやられているのか、顔が赤いことか。


 俺と目が合った女子は一様に慌てて目を反らし、明らかに不自然に何も見てませんよというアピールをする。


 そして、再びチラチラとこちらの様子をうかがうのだ。


 男子のほうは、普段から俺と目を合わさないようにしているくらいなので、皆こちらに背を向けていた。


 俺がこの高校に入学してきてから、このようなことがずっと続いている。


 つまり、三か月くらいはこんな状態なのだ。


 理由は何となく分かっている。


 自分で言うのも何だが、俺は強面こわもてなのだ。


 そして、意外とガタイがいいのも影響しているかもしれない。


 だから、大概の生徒は話し掛けて来ない。


 そんなボッチな俺に唯一話し掛けてくるのは、家が隣同士で親交があった幼馴染の舞音まいねだ。


 あいにく別々のクラスに分かれてしまって、学校では昼飯を一緒に食うぐらいしか会わないのだが、時に俺の心配をして休み時間に教室に来ることもある。


 舞音だけが、俺を怖がらずに普通に接してくれるのが、俺には何よりの救いだ。


 はぁ……後一限で昼休みだし、それまでの我慢だな。


 俺は昨日遅くまでゲームした所為か、長いあくびをしながらグッと背伸びをすると、どこかでカシャカシャと音がするのに気づく。


 最近休み時間になると、よく起こるラップ現象だ。


 俺が何気に音の方を向くと、女子の一人が慌てて何かを隠すようなそぶりをしている。


 まったく……このクラスはどこかおかしい。


 俺はあと残り五分の休み時間を利用して、仮眠をとろうと机に突っ伏した。


 すると直ぐに、女子達のキャッキャという歓声がそこかしこで起こる。


 そんなに俺が怖くて大人しくしていたのだろうか。


 世知辛い世の中だ。


 机に突っ伏しながら心に深いダメージを受けていると、女子達がなぜかヒートアップしているのか、時折話し声が耳に入ってくる。


「尊い……」


「わたし写真撮っちゃった」


「それ直ぐアップしてっ」


「ちょっ……この写真……ヤッバ」


「きゃっ、かわいいっ」


「しぬ……」


「色気ありすぎぃぃぃ」


「たまらんっ」


「尊い……」


 そんな断片的な会話が勝手に聞こえてきた。


 きっと流行りのアイドルの話で盛り上がっているのだろう。


 うるさくて眠れん……


 この時の俺は、いま自分がどういう状況に置かれているのか、全く分かっていなかった。




 つづく?

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